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樹里ちゃん、女の戦いに巻き込まれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 様々なあれこれがあり、五反田邸に住み込みで家庭教師をしていた有栖川倫子が樹里の家を訪れました。


「瑠里、先生にご挨拶しなさい」


 樹里が笑顔全開で長女の瑠里に言いました。


「せんせい、こんばんは」


 瑠里は顔を引きつらせて応じました。祖母の由里に似て、勘が鋭いようです。


「今晩は、瑠里ちゃん」


 倫子は微笑んで応じました。


 不甲斐ない夫の杉下左京は、早速倫子と不倫をする計画を練っていました。


「練ってねえよ!」


 勘繰りが激しい地の文に切れる左京です。


(それにしても気まずい。昼間、この人の事についてシャーロット・ホームズさんと話したばかりなのに)


 結局、左京は倫子が怪盗ドロントだとシャーロットに言いませんでした。


 犯人隠匿の罪で警視庁に通報しようと思う地の文です。


「やめろ!」


 正義感の強い地の文に理不尽に切れる左京です。


 倫子はリヴィングルームに通されました。


「瑠里ちゃん、ちょっとだけ、テストをしてくれるかな?」


 倫子は大きなスーツケースの中から、コピー用紙に印刷された小テストを瑠里に渡しました。


「はい」


 瑠里は樹里がじっと見ているので、顔を引きつらせたままでそれを受け取り、テーブルの上で急いで解き始めました。


「お子さんの学習能力を見ておきたいと思います」


 倫子が説明しましたが、左京は倫子が持ってきた大きなスーツケースが気になっています。


(あのスーツケースの中には何が入っているんだ?)


 エロ左京です。


「違う! そういう意味じゃない!」


 深層心理を見抜かれた左京が動揺して地の文に切れました。


(瑠里の家庭教師をするだけなら、こんな大きなスーツケースを持ってくる必要はない。どういう事だ?)


 ヘボ推理を展開する左京です。


「できました」


 瑠里は愛想笑いをして、倫子にテスト用紙を返しました。


「早かったね。では、採点しますね」


 倫子の言葉に瑠里はピクンとしました。左京も緊張してしまいます。


 樹里は笑顔全開です。


「全問正解ですね」


 そう言われ、瑠里はホッとして樹里を見ました。樹里は笑顔全開で頷きました。


(瑠里は実は頭がいいのか?)


 家では遊んでばかりいるのに、実は勉強はできる。そんなところも由里に似ているのではと思う地の文です。


「樹里さん、瑠里ちゃんは家庭教師は必要ないと思います」


 倫子が言ったので、瑠里は顔が嬉しそうになりましたが、


「ですが、もっと上を目指せると思いますので、是非家庭教師をやらせてください」


 急転直下の倫子の談判に固まりました。


「そうなんですか。こちらこそ、是非よろしくお願いします」


 樹里が笑顔全開で快諾したので、瑠里は意気消沈し、左京はドキドキしてしまいました。


 やはり、有栖川先生とは不倫をするしかないのかと。


「違うよ!」


 やや当たっているので、切れ方が弱い左京です。しかも、


「では、住み込みでお願いします」


 樹里が更に驚愕の提案をしました。


「もちろん、そのつもりで参りました」


 倫子はスーツケースを見て言いました。


(何だってええ!?)


 喜びが爆発する左京です。


「違う、断じて何としても違う!」


 全力全開で地の文に切れる左京です。


「そうなんですか。では、瑠里が学校へ行っている間は、左京さんのお手伝いをしてくださるのですね?」


 樹里の爆弾発言は続きます。


「ええ!?」


 左京は思わず樹里を見ました。樹里は、


「申し訳ありません。左京さんに断わりなく決めてしまいました」


 深々と頭を下げました。左京は苦笑いをして、


「いや、大丈夫だよ。瑠里のためだから」


 倫子を見ました。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 倫子は微笑んで頭を下げました。左京は、


(やっぱり、ドロントとは違うよな。ドロントはもっと下品で胸が小さかった)


 間接的に倫子をディスりました。


「部屋は二階の客間を使ってください。鍵もかかりますので」


 樹里が笑顔全開で言うと、左京はビクッとしました。


(俺が警戒されているの?)


 顔が引きつってしまう左京です。


「ああ、すみません、贅沢を言ってしまって。鍵がかからないと、個人情報の関係でいろいろと支障があるものですから」


 倫子は左京を見て言いました。


(やっぱり俺が警戒されているんだな……)


 悲しくなる左京です。


「左京さん、お部屋に案内してあげてください」


 樹里が言いました。


「はい」


 左京は樹里が妊娠中なのを思い出し、


「では、こちらです」


 さりげなくスーツケースを運ぼうとしたのですが、


「あ、大丈夫です」


 半ば強引に拒否して、倫子は自分でスーツケースを持ちました。


「そ、そうですか」


 ショックが隠し切れない左京です。


 


(ドロント。必ず尻尾を掴んで、正体を暴いてやるから)


 時刻は午後十時を過ぎているのに、まだ探偵事務所の所長室にいるシャーロットは窓から見える文京区役所を眺めて思いました。


 


 倫子は、樹里達に勧められて夕食を共にし、入浴をすませて充てがわれた部屋に戻りました。


(左京さんにはいろいろと誤解をされたかな。部屋に鍵がかかるのがいいのは、間違っても探られたくないからだし、スーツケースに触ってほしくないのも同じ理由)


 倫子も窓から見える文京区役所を眺めて、


(ここに住み込みで入れば、シャーロットの動きがよくわかる。両刃の剣になるかもしれないけどね)


 実はドロントである倫子は、樹里の提案を渡りに船として、瑠里の家庭教師を引き受け、住み込みを条件にしてもらったのです。


(絶対に捕まる訳にはいかない。キャビーのためにも)


 倫子は、目黒グループの御曹司と結婚して二児を儲けた目黒弥生ことキャビーの事を守ろうとしていました。


 もし、ドロント一味だとバレれば、弥生は今までの生活を失ってしまうからです。


 こうして、樹里は全く無意識のうちに二人の女の戦いに巻き込まれてしまったのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 周りがどんなに悪意を働かせても、樹里には届かないかも。悪意という言葉すらも知らない気がします。
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