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樹里ちゃん、町内の豆まきに参加する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は町内にある大きなお寺の節分の豆まきの催しがあります。


 本当は二月三日なのですが、家族連れに多く参加してもらい、出店などにお金を落として欲しいので、一日前倒しで行う事になった大人の数学が働いた嫌な真実があります。


「バラすな!」


 正直が取り柄の地の文に切れるお寺の内職です。


「住職だよ!」


 名前ボケにも果敢にキレてくるレギュラーの座を狙っているらしい住職です。


「違う!」


 続けざまに切れるところなど、明らかに樹里の不甲斐ない夫で名を馳せた杉下左京の座を狙っているのがわかります。


「やめろ!」


 今度は左京が別の場所にも関わらず住職とハモって切れるというベテランの技を見せました。


「では、行きましょう、左京さん」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「はい」


 毎日が日曜日の左京も笑顔で応じました。


「うるせえ!」


 真実を明らかにした地の文に切れる左京です。


「わーい、わーい、まめまき、まめまき!」


 長女の瑠里と次女の冴里がいつものように例の不気味な踊りを踊って、喜びを表現しています。


「わーい、わーい、まきまき!」


 三女の乃里も意味がわからないながら、喜んでお姉ちゃん達の踊りを真似て踊っています。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「一緒に行きたいよ!」


 そう言っているかのように吠えました。でも、犬アレルギーの住職と猫アレルギーの住職夫人のせいで、ペット連れはお断りなのです。


 樹里は乃里と手を繋ぎ、左京は瑠里と冴里と手を繋いで、豆まきが行われる○っちゃけ寺に向かいました。


大河亜寺たいがあじだよ!」


 本堂で読経をあげていたにも関わらず、地の文の名前ボケを聞き逃さずに切れる住職です。


 それにしても、間抜けな名前だと思う地の文です。


「うるさい!」


 更に切れる住職です。


 


 町内にあるお寺ですが、檀家の数が多く、広大な敷地に幾千もの石塔が並んでいます。


「パパ、こわいよ」


 昨年の夏、町内会の肝試しに参加したのを思い出した瑠里は、石塔を見て左京に抱きつきました。


「大丈夫だよ、瑠里。今は冬だから、お化けさんも寒いのでお休みしてるよ」


 左京はデレデレして適当な嘘を吐きました。


「おばけはさむさもあつさもかんじないってきいたよ」


 涙ぐんで言う瑠里です。


(可愛いなあ、瑠里は)


 左京はますますデレデレして、


「心配ないよ。そういう時は、パパが瑠里を守ってあげるから」


「パパがかわりにおばけにたべられてくれるの?」


 瑠里が何故か嬉しそうに左京を見上げるので、


「パパがおばけをやっつけるんだよ」


 苦笑いして言いました。


 そうです。パパは元猿なので、妖怪退治の名人です。


「シリーズを間違えるな!」


 信長公記と混同した地の文に切れる左京です。


「樹里さん、お待ちしていました」


 そこへ住職と夫人が現れました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里が深々と頭を下げると、


「いや、そういうつもりで言ったのではないので、気にしないでください」


 そう言いながら、樹里に近づいて手を握るエロ住職です。


「貴方」


 氷のように冷たい声で住職の背後から声をかける夫人です。


「ヒイイ!」


 住職は慌てて樹里の手を放し、


「では、準備がありますので」


 そそくさと駆け去りました。


「ごめんなさいね、ウチのバカ亭主が」


 夫人は樹里に詫びを言うと、住職を追いかけました。


「樹里、気をつけろよ。あの住職、檀家の奧さんに手を出すようなエロオヤジだからな」


 エロ左京が樹里の耳元で言いました。


「うるさいよ!」


 地の文の的確な表現に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里も左京の耳元で言ったので、


「ああん」


 子供に聞かせられないような声を出してしまう左京です。


「パパ、ママ、はやくいこうよ。まめまき、はじまっちゃうよ」


 瑠里が樹里と左京の手を引いて言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開、左京はデレデレ全開で応じました。


 途中にある出店を全てすrーして、一家は豆まきが行われる本堂の前まで来ました。


 すでに本堂の周囲にはたくさんの人が来ていました。


「ヤッホー、樹里」


 そこへ松下なぎさと栄一郎夫妻が現れました。更に璃里と竹之内一豊夫妻も来ました。


 さっきよりキリッとした顔になる左京です。


「やめろ!」


 図星を突かれ、動揺しながら地の文に切れる左京です。


「あら、来てたの」


 そこへ加藤真澄・ありさ夫妻も登場しました。ありさは妊娠しているようです。


「予定日はいつだ?」


 左京が尋ねると、


「違うんだよ。これ、正月太りなんだ。餅の食い過ぎだよ」


 加藤警部が小声で教えました。


「マスミン、そんな事、言わなくってもいいでしょ!」


 ありさが顔を赤くして怒りました。


「はいはい」


 二人は気持ち悪いくらいラブラブです。左京は吐き気がして、顔を背けました。


「お、始まるみたいだぞ」


 左京は本堂の廻り縁に住職と夫人、そして町内会の役員が現れたのを見て言いました。


「あれ? 樹里がいない」


 左京は周囲を探しましたが、樹里と娘達の姿がありません。


「どうしたの、左京さん? 財布をすられたの?」


 なぎさがキョロキョロしている左京に尋ねました。


「いえ、樹里達がいなくなってしまったので」


 左京は妙に顔が近いなぎさに嫌な汗を掻きながら応じました。


「樹里ちゃんなら、あそこだよ、左京」


 ありさが廻り縁の方を指差しました。


「あ!」


 左京がそちらに目をやると、いつの間にか、樹里と瑠里と冴里と乃里が廻り縁に上がってして、豆まきをしていました。


「いいなあ、樹里。私も豆まきをしたいよお、栄一郎」


 なぎさが栄一郎に甘えます。


「あー。いやいや、わがままを言わないでください、なぎささん。僕達は町内が違うので、参加はできませんから」


 栄一郎は廻り縁に上がろうとするなぎさを止めながら言いました。

 

(どうして俺だけ取り残されたんだ?)


 急に悲しみがこみ上げてくる左京です。それは貴方が絵にならないからだと思う地の文です。


「ううう……」


 あまりに直球過ぎる地の文の指摘に項垂れる左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 豆まきですか、私もしました。 樹里のようにやりたいけど、ひっそりと午後11時過ぎに。 左京さんは豆を投げつけられるほうなのですね。
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