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樹里ちゃん、竹林由子に嫌がらせをされる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、五反田氏の愛娘である麻耶がセンター試験を受けました。


「樹里さんが付いてきてくれたお陰で、落ち着いて受験できたわ。ありがとう」


 邸の廊下で、麻耶にお礼を言われました。


「そうなんですか? それは麻耶お嬢様の実力だと思いますよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうかな? でも、はじめ君は舞い上がっちゃって、答えを間違えたとか言ってたわ」


 嬉しそうに恋人のしくじりを話す麻耶です。


「嬉しそうじゃないわよ!」


 感情の捏造に情熱をかけている地の文に切れる麻耶です。


 実は、恋人の市川はじめは樹里のせいで舞い上がってしまったのです。


 麻耶が怖いはじめはそれが言えないでいます。


「バラさないで!」


 どこかで涙ながらに地の文の訴えかけるはじめです。


「自己採点だと、私は予想以上だったのだけれど、はじめ君がね」


 悲しそうな麻耶です。このままでは、二人は同じ大学を受験できなくなりそうなのです。


 麻耶と別れたいはじめは、それを望んでいるようです。


「断じて違います!」


 血の涙を流して、全力否定するはじめです。


「お嬢様……」


 麻耶の深刻な表情に言葉がない樹里です。笑顔も封印してしまいました。


 するとその時、樹里のスマホが鳴りました。


 遂に新機種に乗り換えたのです。ハードパンクのダイフォンXです。


「そんな機種ねえよ!」


 樹里の代わりに機種変更に行ってきた不甲斐ないだけが取り柄の夫である杉下左京が地の文に切れました。


「不甲斐ないだけが取り柄って、どういう事だよ!?」


 続けざまに地の文に切れる左京ですが、出番は終了しました。


 何か叫んでいますが、一切取り合わない地の文です。


「はい、杉下樹里です」


 健気にもきちんと本名で応じる樹里です。麻耶は怪訝そうに樹里を見ています。


「わかりました。すぐに向かいますね」


 樹里はスマホをエプロンのポケットにしまうと、


「旦那様からの至急のお呼び出しがありました。本日は早退させていただきます」


 樹里は深々とお辞儀をすると、廊下を歩いていき、更衣室で着替えると、玄関を出て行きました。


 それを呆然と見送る麻耶です。


 樹里は五反田氏が手配した高級車に玄関前で乗り込むと、邸を去りました。


 何も知らされていない昭和眼鏡男と愉快な仲間達は、夕方になると樹里を迎えに来て、


「もう帰りましたよ」


 警備員さんに冷たい声で教えられ、呆然とする事でしょう。


 それはそれで面白いと思う地の文です。


「酷過ぎます!」


 何かで聞きつけて、地の文にどこかで切れる眼鏡男です。


 


 樹里が高級車を降りたのは、都内屈指の撮影スタジオの前です。


「お待ちしておりました」


 出迎えたスタッフの若い男が不用意な一言を言いました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げて謝罪しました。


「ああ、その、そういう意味で言ったのではないのですが」


 焦る若いスタッフです。


「そうなんですか」


 樹里が笑顔全開で応じたので、顔を赤らめる若いスタッフです。


「樹里さん、こっちだよ」


 スタジオの玄関のドアを押し開けて、五反田氏が現れました。若いスタッフは直立不動になりました。


(五反田C E Oが直々に出迎えるなんて、この人、どういう人?)


 若いので、樹里が活躍していた時代を知らないのです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じると、スタッフに会釈して、五反田氏と共に中へ入って行きました。


(可愛い)


 完全に無意識のうちに一人の男を虜にしてしまった樹里です。


 


 樹里は五反田氏と一緒にスタジオの一つに入りました。


 そこはコマーシャルを撮影するのによく使われるところです。


「無理を言って悪いね、樹里さん。私の大学時代の友人の頼みで、断り切れなくてね」


 五反田氏はそう言って、スキンヘッドのヤクザを紹介しました。


 コンプライアンス的にまずいと思う地の文です。


「ヤクザじゃねえよ!」


 本物以上の迫力で地の文に切れる広告代理店の社長です。


「しばらくぶりにドラマで拝見して、やはり、貴女しかいないと思いました」


 スキンヘッドの社長は笑顔で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「母親であり、一人の女性でもある貴女が適任です」


 スキンヘッド社長は樹里を褒めまくりました。


(どういう事!?)


 それを隣のスタジオに来ていた元女優が見ていました。


「元女優じゃなくて、現役よ!」


 地の文の鉄板のボケに素直に突っ込む竹林由子です。


(あのC M、確か私に来ていたはずなのに!)


 歯軋りして悔しがる由子です。それは貴女が休養宣言を出したせいだと思う地の文です。


「うるさいわね!」


 図星を突かれたにも関わらず、地の文に切れる由子です。


(御徒町樹里、やっぱり許せない!)


 逆恨み女王の由子は、また樹里に対して怒りを爆発させました。


 樹里が頼まれたC Mは新生児用品のものでした。


 撮影は順調に進み、休憩に入りました。


 樹里はスタジオを出て、トイレに行きました。


(チャンス到来!)


 ずっと樹里が出てくるのを待っていた由子は樹里の後を尾けてトイレに入りました。


 そして、樹里が個室の一つに入ったのを見ると、奥の掃除用具のドアを開いてバケツを取り出し、水を洗面台で汲むと、


「おりゃ!」


 思い切り、個室の上から水を撒き散らしました。


「きゃっ!」


 中から悲鳴が聞こえました。


(やった!)


 中高生のような事をして、満足げに笑うとトイレを去る由子です。


「誰よお、水なんか撒いたのはあ!?」


 中から出てきたのは、最新作のドラマ化で来ていた作家の大村美紗でした。ずぶ濡れです。


「大丈夫ですか、大村様?」


 隣の個室から何事もなく出てきた樹里が言いました。


(嘘! 逃げないと)


 焦ってスタジオを出て行く由子です。


 


 めでたし、めでたし。

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