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樹里ちゃん、センター試験を受ける?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 この土日は、センター試験で大混乱が予想される時です。


 五反田氏の愛娘の麻耶も、恋人の市川はじめとセンター試験を受けるため、ある大学へ行きます。


 「今度でしょ!」で有名な某進学塾の講師の母校でもあるあの大学です。


「樹里さん、一緒に来て!」


 麻耶は家が試験会場の近くに家がある樹里に頼みました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 試験当日、樹里は麻耶とはじめと共に大学へと行きました。


「おはようございます」


 樹里が深々とお辞儀をして挨拶しました。


 三人の娘は不甲斐ない事で有名なあの夫が面倒を見ています。


「名前くらい出せ!」


 匿名を希望した地の文に切れる出たがりの杉下左京です。


「おはよう、樹里さん」


 麻耶はいつものように挨拶しました。


「お、おはようございます、樹里さん」


 樹里が美人なので、照れながら挨拶する純情なはじめです。


「何よ、はじめ君! 樹里さんを見て嬉しそうにして!」


 麻耶は早速ヤキモチをきました。


「そ、そんな、誤解だよ、麻耶ちゃん」


 はじめは図星を突かれて動揺しながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


「では、参りましょう」


 樹里は二人を先導して、大学へと向かいました。


「樹里さん、成人式で新成人に間違えられたんですって?」


 麻耶が尋ねました。


「そうなんですか?」


 自覚していない樹里は小首を傾げて応じました。


(か、可愛い!)


 恋人の麻耶が隣にいるのについ樹里の仕草に見とれてしまうはじめです。


「もう、はじめ君!」


 麻耶ははじめの右の二の腕を思い切りつねりました。


「いたた! 麻耶ちゃん、誤解だよお」


 涙目になりながら弁明するはじめです。


(でも、仕方ないか。樹里さん、綺麗だし、若々しいし……)


 ちょっぴり悲しくなる麻耶です。


「ごめん、麻耶ちゃん」


 そんな麻耶の様子に気づいたのか、はじめがそっと麻耶の右手を握りました。


「はじめ君……」


 麻耶は嬉しくなってはじめを見ましたが、はじめは前を歩く樹里を見ていました。


「はじめ君のバカ!」


 また二の腕を思い切りつねられるはじめです。


「いだだ!」


 さっきより強かったので、涙を流してしまうはじめです。


「そうなんですか」


 樹里はそんな二人を見て笑顔全開です。


 


 やがて、三人は試験会場である大学の前まで来ました。


「では、麻耶お嬢様、はじめ君、頑張ってください」


 樹里が言うと、周囲の受験生や保護者達が一斉に樹里に気づきました。


「ああ、御徒町樹里さんだ!」


「樹里ちゃーん!」


「樹里さーん!」


 どっと人が押し寄せ、樹里と麻耶とはじめはもみくちゃにされてしまいました。


「ええい、寄るな触るな!」


 するとそこへ、どこからともなく昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れ、樹里達を護衛するために人間バリケードを作りました。


「さあ、樹里様、参りましょう」


「そうなんですか」


 樹里と麻耶とはじめは眼鏡男率いる親衛隊に囲まれて、大学の門をくぐりました。


「ここから先は、受験生以外は立ち入らないでください!」


 係員の人が叫んでいます。


「では、改めまして、麻耶お嬢様、はじめ君、頑張ってください」


 樹里が深々とお辞儀をするのに合わせて、眼鏡男達が敬礼しました。


「ありがとう、樹里さん。頑張るね」


 麻耶は涙ぐんで言いました。


「ありがとうございます、樹里さん!」


 はじめは樹里の右手を両手で握りしめて言いました。


「はじめ君!」


 麻耶に右の耳たぶを引っ張られて、


「いででで! 麻耶ちゃん、痛いよお」


 違う理由で涙ぐんで連れていかれるはじめです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で二人を見送りました。


「樹里さん、サインしてください!」


 またそこへ保護者の群れが押し寄せ、樹里だけではなく、眼鏡男達も身動きが取れなくなりました。


「樹里さん、こっちです!」


 そこへ元泥棒が現れ、樹里だけを救出して、人混みから脱け出しました。


「元泥棒はやめて!」


 涙ぐんで地の文に切れる目黒弥生です。


「弥生さん、ありがとうございました」


 樹里は笑顔全開でお礼を言いました。


「麻耶お嬢様がこちらで受験だと聞いていたので、様子を見に来ていたんです。ちょうど良かったです」


 弥生は照れ臭そうに応じました。


 本当は人ごみに紛れてスリを働こうとしていたのは内緒です。


「違うわよ!」


 顔を真っ赤にして地の文の捏造に抗議する弥生です。




 樹里は弥生を誘って、帰宅しました。


「わーい、やよいちゃんだ!」


 長女の瑠里と次女の冴里は大喜びですが、三女の乃里は弥生を覚えていないので怯えています。


「すみませんね、人見知りなもので」


 弥生より住み込み医師の黒川真理沙改め長月葉月の方が好きな左京はがっかりして言いました。


「違う!」


 本音をバラされたので動揺して地の文に切れる左京です。


「大丈夫ですよ」


 気にしていないふりをして愛想笑いをする上辺だけの付き合いが得意な弥生です。


「それも違う!」


 地の文に切れる弥生です。


 弥生は打ち解けてきた乃里も交えて、瑠里と冴里と四人でゲームをして遊びました。


「じゃあ、そろそろ帰ります」


 弥生が帰る頃には、


「かえらないでえ!」


 泣いて嫌がる乃里です。それを見て、弥生も涙ぐみました。




「左京さん」


 弥生を見送ってから、樹里が言いました。


「はい」


 ドキッとして樹里を見る左京です。


「いつも、娘達の面倒を見てくれて、ありがとうございます」


 樹里は深々とお辞儀をして言いました。


「何言ってるんだよ。当たり前だろ。俺の娘なんだし」


 左京は頭を掻きながら応じました。


「そういうところ、大好きです」


 樹里は娘達がいないのを見てから、そっと左京にキスをしました。


「あ、ありがとう、樹里」


 にやけながら言う左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふふふ、幸せな左京さん。 地の文を書いているときが一番力が入ってるでしょう、かみむら先生。
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