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樹里ちゃん、大胆になる

 俺は杉下左京。元警視庁の敏腕警部だ。

 

 今は、五反田の駅前に探偵事務所を開業している。


 所員は今のところ、婚約者フィアンセ御徒町おかちまち樹里じゅり


 そして、幽体離脱が自由自在の半妖怪のような女、宮部ありさ。


 このありさが問題だ。


 こいつ、俺と高校が同じで、三年間クラスも一緒だった。


 理由はわからないのだが、何故か好かれてしまい、いつの間にやら、


「全校公認のバカップル」


と呼ばれていた。俺は付き合っているつもりはなかったが。


 彼女とは大学は別になった。と言うか、女子が入学できない大学を選んだのだ。


 おっと、大学をググるなんて野暮はなしだ。この話はフィクションだからな。


 俺はホッとしていたのだが、ある夜出席した勉強会(とは名ばかりの合コン)で再会してしまった。


「私達って、運命の赤い糸で結ばれているのね!」


 ありさのその一言で、俺は他の女子から引かれてしまい、結局ありさとカップルにされてしまった。


「名コンビ復活ね」


 ありさは嬉しそうだった。


 彼女は別に嫌な女ではないし、結構可愛い。


 でも、その頃の俺は、ありさを女として見ていなかった。


 そう。俺はその頃筋金入りの「おっぱい星人」だったのだ。


 ありさは、「小学生?」と訊かれるくらいの貧乳だった。


 俺は偽りの交際を続けるのを良しとしなかった。


 だから、ありさに言った。


「ごめん、俺、貧乳は嫌いなんだ」


 ありさは泣き喚いて怒るかと思ったが、


「そう。わかった。今までありがとう」


とだけ言うと、俺の前から姿を消した。




 そして、大学を卒業し、警視庁に配属されるまで、ありさとは会う事はなかった。


 だから、警視庁で再会した時は、本当に驚いた。


「久しぶりね、左京」


 その物言いは、高校の時と変わらなかったが、一つだけ変わったところがあった。


 胸だ。絶対豊胸しただろう、と言うくらい、巨乳になっていた。


「どうよ、左京? これはまさしく牛乳のおかげなのよ」


「はあ?」


 牛乳を飲むと巨乳になる。それを信じて、あれから毎日一リットル飲んだらしい。


 俺なら三日と続かない自信があるが、ありさは耐え抜いた。


 巨乳への執念は、俺達男には理解しがたかった。


「貴方だって、アレが大きくなるって言われれば、頑張るでしょ?」


 ありさの只一つの欠点。こいつは、可愛い顔して下品な下ネタが大好きなのだ。


「お、俺は別に現状で満足している」


 俺は強がりでなく、そう言った。するとありさは鼻で笑った。


「そんな事は、女が決めるのよ」


「……」


 そう言われてしまうと、一言もない。


「試してみる?」


 巨乳のありさに色目を使われ、俺は陥落しかけた。


 しかし、そうならなかったのは、神戸かんべらんの存在だった。


「あら、ありさ。どうしたの?」


 彼女はありさと大学の同期で、一緒に警視庁の試験を受けた親友だった。


「……」


 俺は一目惚れした。蘭の目は、今以上に強烈で、見つめられたらそれまでだった。


 ありさは蘭と俺が付き合うようになると、俺に近づかなくなり、所轄への出向を願い出て、三鷹だか国立だかに行ってしまった。




「杉下さん」


「うわ!」


 俺は所長の椅子でうたた寝をしていたようだ。樹里に声をかけられ、ハッとして目を覚ました。


「これから、居酒屋に行きます。失礼します」


 樹里はニコッとして言った。俺はちょっと照れ臭かったが、


「あのさ、俺の事、名前で呼んでくれないかな? 婚約したんだしさ」


と言ってみた。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で、


「左京ちゃん」


「ちゃんはつけないでくれ」


 それだと、お前の母親の由里さんと区別がつかなくなるよ。


「では、左京」


「呼び捨て……?」


 ちょっと嫌な気もするが、そういうプレイもありかも知れない。


 コホン。


「左京さん、がいいかな?」


「そうなんですか」


 樹里はニッコリして、


「左京さん」


と言ってくれた。俺は天にも昇る思いだった。


「愛してるわ、左京さん」


「え?」


 急に樹里が俺に迫って来た。


「お、おい、居酒屋は?」


 嬉しいんだが、こういう樹里は嫌な気がする。


「お、おう!」


 俺は理性が吹っ飛びそうだった。樹里が胸を俺の腕に押しつけて来たのだ。


「左京さん、その前にシャワー浴びて来て」


「……」


 俺は全身の血が頭に上るのを感じた。


 このままでは脳出血で死ぬ。


「なーんてね」


「え?」


 まさか! 


「私よ、ありさよ」


「てめえ、何て事するんだ!?」


 ありさが幽体離脱をして、樹里に乗り移ったらしい。


「貴方達がお楽しみの時、私が乗り移る。最高ね」


 ありさはニヤリとした。


「そんな事して楽しいのか、ありさ!?」


 俺は本気で怒った。こんな事、冗談ですますつもりはない。


「お前との事、俺も酷い事をしたと思っていた。でも、樹里は関係ないだろう!? そこまでするなら、俺にも覚悟があるぞ」


「何よ?」


 ありさはまだニヤついている。


「悪霊退散!」


 俺は机の引き出しから、高名な霊能者から譲り受けたお札を出した。


「キャーッ!」


 ありさの霊は、樹里から離れ、消えた。


「ありさ、聞こえているか!? 俺は何をされてもいい。だけど、樹里には何もしないでくれ。頼む」


 俺は床に両手を着き、土下座した。


「この通りだ、ありさ」


「わかったわよ」


 顔を上げると、ありさがドアを開いて立っていた。


「ありささん、お疲れ様です」


 樹里は何も知らないのか、笑顔全開で挨拶した。


 ありさは樹里に微笑んで、


「じゃあね」


とドアを閉じた。


 本当にあいつは承知してくれたのだろうか?


「西園寺蘭子」


 俺はその高名な霊能者の名刺をもう一度見た。

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