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樹里ちゃん、貝力奈津芽と話をする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 不甲斐ない夫である杉下左京が、今度は若手女優の貝力奈津芽と不倫している事がわかりました。


「してない!」


 即座に否定する左京です。でも、先日発売になった週刊ウルトラ女性にバッチリ写真付きで載っているので、言い逃れができないと思う地の文です。


「まだ載ってねえよ!」


 続いて切れる左京です。


 実は、仕掛け人である竹林由子の反応がおかしかったので、逆に慎重になったウルトラ女性の記者が、貝力奈津芽を問い詰めて、実は嘘だったと言われ、記事にはならなかったのです。


「奈津芽ちゃん、彼氏と別れてショックなのはわかるけど、よりによって一般人の杉下左京さんを巻き込むのはまずいよ」


 記者は自暴自棄になりかけている奈津芽をなだめて、上辺だけの親友である女優の稲垣琉衣に迎えに来てもらいました。


「上辺だけじゃなくて、本当に親友なの!」


 ほぼ同時に地の文に切れる奈津芽と琉衣です。


 結局、奈津芽と左京の記事が載らなかったのを知った由子が激怒して、ウルトラ女性の編集部に怒りの電話をしてきました。


「どういう事なの!? 何故記事が載っていないのよ!?」


 手がつけられない程怒り狂っている由子を何とか宥めて、


「でも竹林さん、もし記事を載せていたら、ウチも貴女も大変な事になっていましたよ。御徒町樹里さんを雇っている五反田氏は、日本有数の大富豪ですからね。真相が知れたら、多分芸能界にはいられなくなったでしょうね」


 すると由子は、


「御徒町樹里に代役をされた私の気持ちなんかわからないでしょ! あんなぽっと出の素人に!」


 泣き出してしまいました。四十過ぎのおばさんのヒステリーは手がつけられないと思う地の文です。


「うるさいわね!」


 由子は正確な事を言った地の文に八つ当たりしました。


「ウチはもうこれ以上関われませんので」


 記者はそれだけ言うと通話を切りました。


「御徒町樹里め、この恨み、晴らさずにはおかないわよ!」


 歯軋りをして悔しがる由子です。


 


 一方、樹里はすでに五反田邸に着き、庭掃除を始めていました。


「おはようございます」


 そこへ冥王星に行き損ねた奈津芽が現れました。


「思い出させないで!」


 耳を塞いで地の文に抗議する奈津芽です。


「おはようございます、奈津芽さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。奈津芽は樹里の前まで来ると、


「ごめんなさい、樹里さん! 私、とんでもない事を……」


 涙を流して頭を下げました。


「大丈夫ですよ。私は奈津芽さんに対して怒ったり呆れたりはしていませんから」


 樹里は奈津芽の肩に手を置いて言いました。


「ありがとうございますう」


 奈津芽は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、樹里に抱きつきました。


(樹里ちゃん、心が広いからなあ)


 そばで見ていたコソ泥は思いました。


「やめて!」


 涙ぐんで地の文に懇願する目黒弥生です。


「でも、左京さんは若い女性に優しいので、奈津芽さんが本当に左京さんの事を好きにならないようにお願いしておきますね」


 樹里が笑顔全開で言ったので、


「そうなんですか」


 奈津芽は苦笑いをして応じました。


「別れた彼が、左京さんと同世代の人だったので、つい左京さんの事を思い出して会いに行ってしまいましたが、琉衣さんとじっくり話してみて、気の迷いだとわかりました」


 結構辛辣な事をサラッと言った奈津芽です。


「そうなんですか」


 樹里は気がつかなかったのか、笑顔全開です。左京が知れば、血の涙を流しそうです。


「あ、ごめんなさい、樹里さん。今の、失礼でしたね」


 奈津芽は樹里が左京の妻だと思い出し、気まずそうに謝罪しました。


「大丈夫ですよ。人はそう簡単に好きだった人を忘れられませんから、同じくらいの年齢の人に近づいてしまうのは仕方ない事ですよ」


 樹里が笑顔全開で応じると、奈津芽はまた涙を流して、


「ありがとうございます。そうなんです。私、まだ彼を諦め切れていないんです。どうしたらいいですか?」


「もう一度だけ連絡してみたらどうですか? それで相手の方に未練が全くないようだったら、次に進むしかないと思います」


 樹里は笑顔全開で助言しました。


「わかりました。もう一度だけ、彼に連絡してみます」


 奈津芽は涙をハンカチで拭うと、


「ご迷惑をおかけしました。左京さんにも申し訳ありませんでしたとお伝えください」


 もう一度頭を下げて、五反田邸を出て行きました。


「お気になさらず」


 樹里は笑顔全開で手を振り、奈津芽を見送りました。


 


 その頃、迷探偵の左京はいつものように猫を探していました。


「迷は余計だ!」


 地の文に切れる左京です。


「あ!」


 大声を出したせいで、もう少しで捕まえられた猫が逃げてしまいました。ヘボ探偵です。


「うるさい!」


 もう一度地の文に切れてから、猫を追いかける左京です。


「あそこか」


 猫は塀の上を悠然と歩いています。そして、ついと角を曲がりました。


「待て、一万円!」


 つい報酬が声に出てしまう左京です。


「わ!」


 角を曲がったところで、目の前に人が現れたので、左京はまた大声を出してしまいました。そのせいで猫は塀の向こうへと逃げてました。


「貝力さん、どうなさったんですか?」


 そこにいたのは奈津芽でした。奈津芽は上目遣いに左京を見て、


「もう一度、彼に連絡をして気持ちを確かめましたが、好きな人ができたから、もう君とは付き合えないと言われてしまいました」


「そ、そうですか」


 左京は引きつり笑いをして後退あとずさりました。


「だから、やっぱり左京さんの愛人にしてください」


 奈津芽が抱きついてきました。


「わわっ!」


 左京は焦って奈津芽を引き剥がそうとしましたが、奈津芽は全然離れません。


「もう左京さんしかいないんです。愛人でダメだったら、○○○フレンドにしてください」


 奈津芽は文字にするのもはばかるような事を言いました。


「貝力さん!」


 左京は顔を真っ赤にして周囲を見渡して奈津芽を離れさせ、誰もいないのでホッとしました。


「と、とにかく、樹里が帰ってくるまで、ウチで待っていてください。樹里が帰ったら、話をしましょう」


 左京は奈津芽の手を取って、家へと歩き出しました。


「ああ、左京、こんな日の高い時間から、不倫?」


 運悪く、そこへ歩くメガフォンの異名を持つ加藤ありさが現れました。


「お前も一緒に来い!」


 左京はありさの腕を掴むと、奈津芽と共に家に連れて行きました。


 左京には女難の相が出ていると思う地の文です。


 


 めでたし、めでたし。

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