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樹里ちゃん、また竹林由子に睨まれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、五反田邸の住み込み医師である黒川真理沙こと長月葉月が、ずっと昔から好き合っていた神戸かんべ賢太郎と思いを打ち明けて、晴れて恋人同士になったのを知り、不甲斐ない夫の杉下左京は嘆き悲しんだそうです。


「やめろ!」


 実は葉月と不倫をしたかった左京が地の文に切れました。


「違う!」


 尚も否定する左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 しかし、他人ひとの幸せが大嫌いな有栖川倫子こと水無月みなづき皐月さつきは、賢太郎を怪しんでいます。


 どこまでも嫌な性格だと思う地の文です。


「うるさいわね!」


 正しい評論をしたはずの地の文に理不尽に切れる倫子です。


 でも、出番はこれだけなので、もう何も反論できません。


 


 今日は樹里は仕事を休み、長女の瑠里が通っている小学校の保護者会に出席しており、体育館にいます。


 それもこれも、左京が小学校を出入り禁止になっているからです。


「なってねえよ!」


 あらゆる捏造をする地の文に切れる左京です。


 樹里は会長を前年度で交代したので、今は一人の保護者ですが、会長を務めていた時、様々な行事に出席して活躍したため、今でも保護者の皆さんや先生方から厚い信頼があります。


 只一人、例の元女優を除いては。


「元じゃなわよ、今でも女優よ!」


 地の文に切れる竹林ちくりん由子ゆうこです。


「たけばやしよ!」


 地の文の名前ボケは全て拾うつもりで望んでいる由子がまた切れました。


「また竹林さん、誰もいない方を向いて叫んでいるわよ」


 他の保護者達は、由子の異常行動に恐れを抱いています。


 多分、あの上から目線作家と話が合うと思う地の文です。


「また誰かが私の悪口を言っているような気がするけど、違うのよ! 幻聴なの!」


 どこかで自分の病気と戦っている大村美紗です。


(御徒町樹里め、今年の保護者会の会長は私なのに!)


 由子の他に立候補者がいなかったので、たまたまなれただけの会長です。


「うるさい!」


 地の文のボケには過敏に反応して切れる由子です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 今日の議題は、寒くなってきて不審者が多くなったという事についてです。


 昔もいた「ロングコートの下は全裸」という鉄板な不審者が出没しているのです。


 多分それは左京だと思う地の文です。


「違う! 俺には鉄壁のアリバイがある!」


 全力で地の文の推理を否定する左京ですが、そのセリフは犯人がよく言う常套句だと分析する地の文です。


 調べてみると、確かに不審者が出没した日時には、左京にはアリバイがありました。


 残念ながら、左京は容疑者リストから外れてしまいました。


「残念ながらじゃねえよ!」


 細かいところにもズバズバ切れる左京です。仕事がないので仕方がありません。


「くはあ……」


 図星を突かれたので、悶絶する左京です。


「下校時にも保護者が交代で通学路に立って、警戒するというのはどうでしょうか?」


 一人の保護者が提案しました。


「登校時間は一定していて保護者が児童と一緒に行動するのは容易ですが、時刻がバラバラの下校時は難しいと思います」


 別の保護者が言いました。


(冗談じゃないわ。私は今ドラマの撮影が佳境なのよ。無理だわ)


 偶然仕事が入っている由子は心の中で思いました。


(そんな提案、早くボツにして、違う方法を誰か言いなさいよ!)


 会長は議長なので、発言権がありません。副会長はニコニコしているだけで何も言わず、もう一人の副会長の教頭先生は事なかれ主義なので発言をしません。


「はい」


 すると樹里が手を挙げました。由子はピクッとしましたが、


「では、杉下さん、どうぞ」


 顔を引きつらせて言いました。樹里は立ち上がって、


「私の夫は探偵事務所を開いており、元警視庁の警部でしたので、不審者には勘が働きます。幸い、今は忙しい依頼はありませんので、皆さんの代わりにパトロールができると思います」


 笑顔全開で提案しました。


(うん、御徒町樹里の提案なのはしゃくに触るけど、私が何もしなくていいのは良い事だわ)


 由子は作り笑顔全開で、


「では、只今の杉下さんのご提案、如何でしょうか?」


 もうこれ以上何か言うなのプレッシャーをかけながら一同を見渡しました。


「いいと思います。杉下さんのご主人なら、顔も知られているし、不審者にも抑止力が働くと思います」


 保護者から声が上がりました。


「では、杉下さんの提案で決を取りたいと思います。賛成の方は挙手を願います」


 早くまとめて撮影に行きたい由子が言いました。大半の保護者が樹里の提案に賛成をしました。


「賛成多数で、この提案に決定致します」


 由子はすぐに大きな声で言い切ると、閉会をしようとしましたが、


「あの、毎日は無理ですので、他の方にもご協力をお願いできればと思うのですが」


 樹里が笑顔全開で付け加えました。


「では、杉下さんのご主人以上に有名な竹林さんがいいのではないですか?」


 突然教頭先生が言いました。由子はギョッとしました。


(やれないわよ、そんな事! 私は仕事が忙しいの! 暇なヘボ探偵と一緒にしないで!)


 由子は苦笑いをして、目は鋭く教頭先生を睨みました。教頭先生はビクッとして顔を背けました。


「そうですね。大女優の竹林さんが立ってくだされば、不審者も自分の行為の恥ずかしさに気づきますね」


 保護者から賛同の声が出ました。


(大女優!)


 その一言が、由子の考えを一変させました。


「わかりました。お引き受けしましょう。全ては皆さんの可愛いお子さんのために!」


 高らかに宣言する由子です。一同は拍手で由子を称えました。


「はっ!」


 席に着きながら、由子は我に返りました。


(ダメなのよ! 私は大河に出演しているの! それも重要な役回りで! 今日はたまたま撮影がなかったから来られたの! もう無理なの!)


 しかし、保護者の皆さんが笑顔で由子を称える拍手をしているので、言えません。


(御徒町樹里、あんたのせいよ!)


 何故か怒りの矛先を樹里に向ける身勝手な由子です。


「そうなんですか」


 何も知らない樹里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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