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樹里ちゃん、厄介者に詰め寄られる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里の家に向河原むかいがわら諒太郎りょうたろうという不甲斐ない夫の杉下左京の元同僚が現れました。


勅使河原てしがわらだよ!」


 相変わらずの地の文の名前ボケにどこかで切れる勅使河原です。


 勅使河原は左京にたかるつもりでしたが、運悪くそこへ樹里の母親の由里がやって来ました。


 最初は樹里だと思っていた勅使河原ですが、由里だとわかり、逃げ出しました。


 昔、勅使河原は由里が経営していた飲み屋で悪酔いして嘔吐し、そのまま眠りこけておねしょまでしてしまったのです。


 それを由里に思い出されて指摘され、赤っ恥を掻いて逃げたのです。


 そして、学習した勅使河原は、樹里と由里が親子で、しかも見分けがつかない程よく似ているのを知りました。


「左京め、俺に恥を掻かせやがって。何倍にもして返してやるからな」


 更に左京への嫌がらせを決意する勅使河原です。


 逆恨みもいいところだと思う地の文です。


 


「おはようございます、樹里さん」


 ところは変わって五反田邸です。今回は、いつもの朝のシーンは全て割愛され、樹里はすでに五反田邸の門をくぐっていました。


 そこにいた元泥棒が挨拶をしたのです。


「どうしていきなりそういう事を言うのよ!」


 過去をしつこく覚えている地の文に切れる目黒弥生です。


「おはようございます、弥生さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「今日は、樹里さんに来客があります。鬼瓦おにがわらさんとかいう人で、左京さんの先輩だった人だそうです」


 弥生が早速名前ボケをしました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開でスルーしました。


 そして、メイド服に着替えると、樹里は弥生と共に庭掃除を始めました。


 半分程終わったところで、宿河原しゅくがわらが現れました。


「勅使河原だよ!」


 地の文の名前ボケには反応して切れる勅使河原です。


「いらっしゃいませ」


 樹里は笑顔全開で、弥生は作り笑顔全開で応じました。


「ええと、あんたは間違いなく左京の奥さんだよな?」


 由里とのトラウマが甦った勅使河原は警戒して尋ねました。


「はい。左京は私の夫です」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、


「どうぞ、中へ」


 案内しようとしましたが、勅使河原は、


「いや、ここで結構。実は警視庁にいた頃、左京に金を貸していてね。それを返してもらいたくて、ここまで来たんだよ」


 内ポケットからチラッと借用書めいた紙を見せてすぐにしまう勅使河原です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さん、胡散臭い話ですよ」


 胡散臭い弥生が樹里に囁きました。


「うるさいわね!」


 正しい形容をしたはずの地の文に切れる弥生です。


「夫はおいくら借りていたのでしょうか?」


 樹里が尋ねました。すると勅使河原は、


「いやあ、それ程の額でもないんだけどね」


 人差し指を一本立てて言いました。


「一円ですか?」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「違うよ! 百万円だよ!」


 あまりの値引き率に切れる勅使河原です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず樹里は笑顔全開で応じました。


「しかもさあ、もう十年以上前の話だから、利息もすごい額なんだよねえ」


 ニヤリとして続ける勅使河原です。元警察官とは思えないような奴だと思う地の文です。


「十年以上前ですか? その間、夫は全く返そうとしなかったのでしょうか?」


 樹里は笑顔全開で深刻な話を始めました。勅使河原は肩をすくめて、


「そうだねえ。全く不義理な奴でさあ。俺が催促しないのをいい事に、ずっとしらばっくれていたんだよねえ」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じると、


「では、勅使河原さんの債権は消滅していますよ。民法第167条第一項で、債権は、十年間行使しないときは、消滅するとあります」


 衝撃の事実を言いました。勅使河原の顔汗が止まらなくなりました。そして、


「あ、いや、五年前だったかな? そうだ、五年前だ。だからまだ時効は成立していないよな?」


 顔を引きつらせてすぐにわかる嘘を吐きました。


(こいつ、バカ)


 半目で勅使河原を見る弥生です。すると樹里は、


「では、借用書を見せてください。そうすれば、いつお借りしたのか、はっきりします」


 更に笑顔全開で勅使河原を追い詰めました。


「そんなもの、あるか! 仲間同士の貸し借りで、いちいち借用書なんか書かねえよ!」


 逆ギレが激し過ぎる勅使河原です。


「では、夫が勅使河原さんからお金を借りていた証拠はないのですか?」


 樹里は笑顔全開で尋ねました。すると勅使河原は、


「なるほど、そういう事か。証拠がないのをいい事に、とぼけるつもりか? 見下げ果てた奴だな、あんたも左京も」


「見下げ果てたのは、貴方の方ですよ、勅使河原さん」


 樹里のその言葉を合図に、邸のあちこちからスーツ姿の屈強そうな男達が現れました。


「え?」


 勅使河原の顔が蒼くなりました。


(まさか、こいつら、組織犯罪対策部?)


 警察官だった勅使河原は、そのスーツ姿の人達の雰囲気を感じ取りました。


「私は樹里の姉の璃里です。以前、警察庁に勤務していた関係から、知り合いがあちこちにいるんです」


 それを聞いて、弥生もビビりました。


(全然気づかなかった!)


 唖然として璃里を見る弥生です。


「貴方には随分といろいろな容疑がかけられているようですね? 最寄りの所轄署で、じっくりとお話を聞かせていただきましょうか」


 スーツ姿の人の一人が進み出て、勅使河原に言いました。


「ううう……」


 勅使河原はしょんぼりとして、屈強な男達に取り囲まれ、五反田邸を去りました。


「全然わかりませんでしたよ。驚きました!」


 元犯罪者の弥生は自分に火の粉が降りかからないかとビクビクしながら言いました。


「やめてー!」


 涙を流して地の文に懇願する弥生です。


「勅使河原氏は、あちこちでいざこざを起こしていて、警視庁では有名になっていたそうです。それで、来るとしたら、ここではないかと予想して、網を張っていたんです」


 璃里は樹里と寸分違わない笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 弥生は樹里の口癖で応じてから、


「それで、樹里さんは今日はどちらに?」


「樹里は保護者会に出席していますよ」


 璃里は笑顔全開で言いました。


 


 めでたし、めでたし。

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