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樹里ちゃん、隅田川美波と直接対決する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、不甲斐ない夫である杉下左京が、不倫相手の隅田川美波に別れ話を切り出した時、涙を流され、狼狽えた左京は不倫続行を決意しました。


「全然違う!」


 捏造が過ぎる地の文に激ギレする左京です。


 左京は美波に本当の事を話してもらうためにおにぎりにイランイランが混ぜられていた事や、探偵事務所を乗っ取った事を言いましたが、美波に涙を流され、訊けなくなってしまいました。


 情けない男だと思う地の文です。


「ううう……」


 捏造ではないので、反論できずに四つん這いで呻く左京です。


 それでも、そんなダメな夫を見捨てずに応援していると告げた樹里がいじらしいと思う地の文です。


「くはあ……」


 遂に血を吐いてしまう左京です。


(俺は今度こそ隅田川さんを追求する。涙なんか見せられても後には退かない)


 左京はうわべだけの決意を固めました。


「心の底からの決意だよ!」


 心情を見抜いたはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


 しかし、その日は、


「直接クライアントのお宅に向かいます」


 美波から連絡があり、肩透かしを食ってしまいました。


 内心はホッとしていると思います。


「うるさい!」


 鋭い推理をした地の文にまたしても切れる左京です。それにも関わらず、ドアフォンが鳴りました。


「誰だ?」


 今日は来客の予定はないので、左京は首を傾げながら受話器を取りました。モニターに映っていたのは、元不倫相手の坂本龍子弁護士でした。


「そもそも不倫相手じゃねえよ!」


 しつこくボケる地の文に切れる左京です。


「失礼します」


 左京が応じるまでもなく、龍子は戸を開けて中に入ってきました。


「どうしたんですか、龍子さん?」


 左京が苦笑いして尋ねると、龍子はムッとして、


「どうしたんですかじゃありませんよ! 隅田川美波が左京さんのお弁当に惚れ薬をかけていたって聞きましたよ!」


 その言葉に左京はギョッとしました。


(何故知っているんだ? 誰にも話していないぞ)


 左京はまず、元所員の加藤ありさを疑いましたが、ありさも美波の一件は知らないはずです。


「何故それを?」


 左京は顔を引きつらせて言いました。龍子は左京に詰め寄って、


「何故? あの女が美加に言ったんですよ! 左京さんは私のものにするから、もう関わらないでくださいって。それで、イランイランの話もしたそうです!」


 美加というのは勝美加という弁護士だったかなとうっすら覚えている左京です。


 さすが、美人は忘れない左京です。


「やめろ!」


 血の涙を流して地の文の誹謗中傷に抗議する左京です。


「だから言ったんですよ。あの女とは関わらない方がいいって! 私の忠告を無視するから、そんな危ない目に遭うんです!」


 龍子は涙を流しています。左京はまた狼狽えてしまいました。


 今度は坂本先生かよ。仕方ねえな。熱い口づけで慰めるか。


「違う!」


 心の底を見抜いたはずの地の文に切れる左京です。


「申し訳ない」


 左京は素直に謝罪しました。龍子はティッシュで涙をぬぐいながら、


「わかってもらえればいいんです。それで、これからどうするつもりですか?」


 キッとして左京を睨みつけました。


「どうするって、今度こそしっかり話をして、場合によっては辞めてもらおうと思っていますよ」


 左京は一歩退いて言いました。


「ダメです! すぐに契約を解除してください。場合によっては訴訟を起こされるかも知れませんが、その時は私が弁護します」


 更に詰め寄る龍子です。左京は興奮している龍子の両肩に手を置いて、


「落ち着いてください。まだそこまで行くかはわかりません。何故隅田川さんがそんな事をするのか、聞き取りする必要があります。それでもわからない場合は、調査します」


「そ、そんな悠長な事を言っていてはですね……」


 左京に両肩を掴まれて、龍子は顔を赤らめ、トーンが急速に落ちてきました。


「俺を信じてください。もう少し時間をいただけませんか?」


 左京は俯いてしまった龍子の顔を覗き込みました。


「はい。わかりました、出直します」


 龍子は更に顔を赤らめ、事務所を出て行きました。


「やれやれ……」


 左京はどっと疲れが出て、椅子に沈み込みました。


 


 その頃、すでに五反田邸の庭掃除を終えた樹里は、家の中の掃除を始めていました。


 その時、ドアフォンが鳴りました。


「お待たせ致しました」


 樹里が笑顔全開で受話器に告げると、


「おはようございます。隅田川美波です」


 驚いた事に、予期せぬ訪問者は美波でした。


「おはようございます。今、ドアを開けますね」


 樹里がドアを開けると、美波は微笑んで立っていました。


「樹里さん、お話、いいですか?」


 その様子を廊下の奥から見ている有栖川倫子と黒川真理沙です。キッチンから目黒弥生が出てきました。


「はい、大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。そしていつものように応接間に美波を通しました。


「飲み物は結構です。すぐにすむ話ですから」


 美波はソファに腰掛けると、樹里にも座るように目で合図しました。


「承知しました」


 樹里は笑顔全開で応じて、向かいのソファに座りました。


「私の事で、いろいろと良からぬ噂を吹き込んでいる人達がいるようなので、樹里さんにもその事についてお話しておこうと思って参りました」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。美波は笑みを止めて真顔になり、


「根も葉もない事を触れ回っている人達に対しては、訴訟の準備を進めています。優秀な弁護士の先生を知っていますので、そちらは万全です」


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。美波は少しだけイラッとしましたが、


「私は大変精神的なショックを受け、杉下左京所長にも悲しい事を言われました。このままでは仕事を続けられないです」


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。美波は更にイラッとして、


「所長と樹里さんにも信じてもらえないのであれば、事務所を辞めさせていただきたいと思っています」


 すると樹里は、


「私と夫は貴女の事を信じていますよ。ですから、辞めないでください」


 笑顔全開で言いました。一瞬呆気に取られる美波ですが、


「わかりました。お二人に信じていただけるのであれば、続けられると思います。お手数をおかけしました」


 樹里に会釈すると、応接間を出て行きました。樹里は玄関まで美波を見送りました。


「樹里さん、大丈夫なんですか? あの人、いい人には見えませんよ?」


 元泥棒の弥生が言いました。


「やめて!」


 涙ぐんで地の文に切れる弥生ですが、地の文は涙に負ける程人情に厚くありません。


「酷い!」


 弥生が泣き出しました。でも、周囲には誰もいません。


「樹里さん、有栖川さん、黒川さん、どこですか?」


 泣きながら三人を探す弥生です。


 


(偽善者め。杉下左京と御徒町樹里は許せない!)


 鬼の形相で駅へと歩く美波です。

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