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樹里ちゃん、左京を隅田川美波にたぶらかされる?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 五反田氏の愛娘の麻耶と妻の澄子が帰国したので、樹里は本格的に仕事を始めています。


 しかし、不甲斐ない夫の杉下左京は、相変わらず仕事がなく、その日暮らしを続けています。


「くはあ……」


 図星のど真ん中を突かれたので、悶絶する左京です。


 調査員として採用した隅田川美波について、五反田邸の住み込み医師である黒川真理沙から驚くべき真実を聞かされた左京は、衝撃を受けました。


(あの隅田川さんが、実は裏の顔を持っていたなんて……)


 せっかくいい不倫相手ができたのに。左京は悔しがりました。


「不倫はしてねえよ!」


 隙さえあれば捏造をする地の文に切れる左京です。


(まだ信じられない)


 真理沙から聞かされたにも関わらず、美波の所業を受け入れられない左京です。


 それもこれも、美波が可愛くて、樹里より若いせいです。


「ち、違うぞ!」


 一部当てはまる事があったので、動揺しながら地の文に切れる左京です。


 それから何日か、美波の行動を見てきた左京ですが、それらしい素振りは見当たりませんでした。


(それ程見事に猫をかぶっているのか?)


 つまり、美波は小者ではないのです。


「僕は小者じゃないにゃん!」


 シリーズの垣根を超えて地の文に切れる吏津玖です。


「では、調査に行って参ります」


 美波が爽やかな笑顔で告げました。


「おう。気をつけてな」


 左京はやや引きつりながら応じました。


 真理沙から聞いていた通り、美波は仕事を早く終わらせました。


 左京はお礼の電話を兼ねて、クライアントに確認の電話を何軒か入れてみました。


 どのクライアントも、美波の仕事を褒めちぎり、逆にお礼を言われました。


(本当に彼女はそんな事をしているのか?)


 左京は真理沙の話を疑い始めていました。真理沙より美波が若いからです。


「やめろ!」


 核心を突いた地の文に汗まみれになって切れる左京です。


(有栖川先生だけならともかく、黒川先生が嘘を吐くはずがない。俺は何を考えているんだ?)


 結局のところ、有栖川倫子は信用していない左京です。


「任せたのだから、連絡があるまで待つしかないだろう」


 左京は真理沙を信じる事にしました。可哀想なのは倫子だと思う地の文です。


 


 その頃、樹里は邸の二階の掃除を終えて、階段を降りてきていました。


「樹里さん、ちょっといいですか?」


 階段のそばに倫子が立っていました。


「はい」


 樹里は笑顔全開で応じて、倫子のそばに歩み寄りました。


「隅田川美波は、相当の手練れですね。全く証拠が出てきません。左京さんのクライアントに会って話を聞いても、何も怪しい点がないのです」


 倫子が言いました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。倫子は少しだけイラッとしましたが、


「もうしばらく続けさせてください。必ず尻尾を掴みますから」


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。


「では」


 倫子は苦笑いをして、自分の部屋へ戻って行きました。


 


 お昼近くになって、美波が事務所に戻りました。


「お疲れ様」


 左京は自分で作ったおにぎりが入った弁当箱を広げたところでした。


「わあ、それって、あの美人の奥様の手作りですか?」


 美波が興味津々という顔で覗き込みました。


「違うよ。自分で作ったんだ」


 左京は苦笑いをして言いました。


「え? そうなんですか? 所長の手作り?」


 美波は意外そうな顔をしてから、


「それなら、今度は私が作ってきましょうか?」


 左京が口に含んだ飯粒を吐き出しそうになる事を言いました。


「いや、悪いからいいよ」


 左京は口の中の飯粒を全部飲んでから言いました。


「でも、そんなひどい状態のおにぎり、見るに堪えませんよ」


 美波は左京の握ったおにぎりらしき飯粒の塊を見ました。


「そ、そうかい?」


 左京は照れ臭そうに自分のおにぎりを見ます。


「私に作らせてください、所長。こう見えても私、お料理得意なんですよ」


 美波はぐっと顔を近づけて、左京の飯粒だらけの右手を両手で包み込むように握りました。


「隅田川さん……」


 途端に左京の顔が真っ赤になりました。


「はい、決まり」


 美波は嬉しそうに応じると、手に着いた飯粒を取って食べてしまいました。


 それを見て、左京は鼓動が早まるのを感じました。


「楽しみにしていてくださいね。腕にヨリをかけて作ってきますから」


 それだけ言うと、


「じゃあ、外で昼食をすませて、そのまま次の案件に取り掛かります」


 美波は事務所を出て行きました。


「隅田川さん……」


 左京は完全に美波に落とされてしまったようです。


「落ちてねえよ!」


 危ないところだったのを隠して、地の文に切れる左京です。


 


(あと一押しね。杉下左京は押しに弱い)


 美波はニヤリとして大通りへと歩きました。


(今のは何の笑みかしら?)


 それを電柱の陰から見ていた真理沙です。


 


「あ、まずい!」


 ぼんやりしていた左京は、長女の瑠里が下校してくる時間なのに気づきました。


 渡り廊下を戻り、玄関で瑠里を出迎えて戸締りをすませ、次女の冴里と三女の乃里を保育所まで迎えに行きました。


「パパ、おそいよ!」


 冴里と乃里はほっぺを可愛く膨らませて言いました。


「ごめん、冴里、乃里」


 左京は両手を合わせて謝りました。


「所長、お疲れ様です。遅くなりそうなので、直帰します」


 スマホに美波から連絡が入りました。


「お疲れ様。気をつけて帰ってな」


「ありがとうございます」


 左京は通話を終えて、スマホをポケットに戻しました。


 


 瑠里と夕ご飯の支度をしていると、樹里が帰ってきました。


「ママ、おかえりなさい!」


 瑠里と冴里と乃里が出迎えました。三人がいるので、左京はお帰りのチュウができず、不満そうです。


「左京さん」


 樹里が後ろから声をかけました。子供達は先に走っていっています。


「おお」


 振り向きざまに樹里がキスをしてくれました。


「心が離れてしまいそうな顔をしていましたから」


 いつもより長くキスをしてくれた樹里が謎めいた事を言いました。


「そ、そう?」


 美波との昼の事を思い出し、後ろめたくなる左京です。

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