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樹里ちゃん、隅田川美波を助ける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 只今、五反田氏家族は渡米中で、樹里達使用人は休業中です。


 でも、不甲斐ない夫の杉下左京の収入の十倍程ある給与は九十パーセント補償されています。


「くはあ……」


 痛いところを突かれて、悶絶する左京です。


 


 今日は、樹里は左京の暇な探偵事務所の掃除をしています。


 仕事が少ないので、事務所の中は埃だらけで、樹里はやりがいを感じて掃除を始めました。


「ううう……」


 その姿を見て、更に自分の不甲斐なさを感じてしまう左京です。


 その時でした。ドアフォンがなりました。


「え?」


 一瞬耳を疑う左京ですが、そんな事は全く考えない樹里が素早く受話器を取りました。


「はい」


 すると相手が何か話しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じて、ドアを開きました。


 そこにいたのは、かつて勝美加弁護士事務所に出入りしていた恩田川ひがしでした。


「隅田川美波です!」


 いつもながら、鋭い突っ込みを入れる美波です。


「いらっしゃいませ、江戸川さん」


 二段構えの名前ボケをする樹里です。しかも、ボケなのか真実は一つなのかわからない間違え方です。


「隅田川です!」


 素早く訂正する美波です。


「何の用ですか?」


 いろいろと迷惑をかけられた左京が喧嘩腰で尋ねました。


「どうぞ」


 しかし、樹里がそれを完全に無視して、美波をソファに案内しました。


 立つ瀬がない左京ですが、事務所の実質的なオーナーは樹里なので何も言えません。


「失礼します」


 美波は左京と目を合わせないようにしてソファに腰を下ろしました。


「どうされたのですか?」


 樹里はいつの間にか入れた冷たい麦茶を美波に出すと、向かいのソファに座りました。


「実は、勝先生から仕事をいただけなくなって、事務所の経営に行き詰まってしまいまして……」


 樹里を見て言いづらそうに話す美波です。


 あれだけ水増し請求を繰り返していれば、仕事をもらえなくなるのは当たり前だと思う地の文です。


「その話はやめて!」


 涙目で地の文に切れる美波です。


「そうなんですか」


 しかし、樹里は笑顔全開で応じました。そして、


「それで、当事務所に仕事がないかいらしたのですね?」


 名推理を展開しましたが、その言葉は左京の胸を抉るようなものでした。


「かはあ……」


 心臓の辺りを押さえて、また悶絶する左京です。


「はい……」


 美波は悶え苦しんでいる左京を気にしながら言いました。


「大丈夫ですよ。当事務所は、坂本龍子先生の事務所から、捌き切れない程のお仕事をいただいていますから」


 樹里のその説明に美波だけではなく、左京も仰天しました。


(坂本先生からの仕事は、真琴ちゃんが実質止めているんだが?)


 そうです。自称親友の斎藤真琴が、龍子からの依頼を握り潰しているのです。


「自称じゃありません! それに握り潰してもいません!」


 どこかで聞きつけて、地の文に切れる真琴です。


 真琴によると、龍子の仕事の依頼は、仕事にかこつけた左京とのデートを狙ったものが多いので、吟味しているようです。


 結局のところ、全然反省の色が見えない龍子と真琴です。


「本当ですか!?」


 美波が目を輝かせて叫びました。


 お、この子もよく見ると可愛いなと思った左京です。


「思ってねえよ!」


 鋭い地の文の指摘に涙目で切れる左京です。


「この仕事などは如何ですか?」


 樹里は左京の机の横にあるかつて加藤ありさが使っていた机の引き出しから茶封筒を取り出して、中から書類を出しました。


(そ、そんなところに仕事の依頼書が!)


 全然知らなかった左京は唖然としました。


「ありがとうございます。やらせていただきます。それから……」


 美波はチラッと左京を見てから、


「私は十年近くこの仕事に携わっています。誰よりも杉下先生のサポートができると思いますので、外注先ではなく、調査員として採用していただけないでしょうか?」


 とんでもなく図々しい事を言い出しました。


(杉下先生……)


 その言葉の響きに陶然となる左京です。


「どうしますか、所長?」


 樹里が笑顔全開で尋ねました。左京はハッとして、


「是非、当事務所で腕をふるって欲しいと思うよ」


「決まりですね。よろしくお願いします」


 樹里が笑顔全開で右手を差し出しました。


「あ、ありがとうございますう!」


 涙をこぼしながら、樹里の右手を両手で握りしめる美波です。そして、


「ありがとうございますう、杉下先生!」


 立ち上がって左京に近づき、その手を握りしめました。


「よ、よろしく頼むよ、三沢川さん」


 動揺しながらも名前ボケをする左京です。


「隅田川です」


 泣きながらも、きっちり訂正する美波です。


 やっぱり可愛いな、この子。毎日一緒に仕事ができるのか。楽しみだな。


「違う!」


 地の文の妄想に激しく切れる左京です。


 しばらくして、ようやく泣き終えた美波は帰って行きました。


「左京さん」


 樹里が不意に言いました。思わずビクッとしてしまい、


「な、何かな?」


 美波にエロい視線を送っていた事を叱られると思った左京は恐る恐る樹里を見ました。


「エロい視線は送っていない!」


 そんな時でも地の文に切れる事を忘れない左京です。


「よかったですね。隅田川さんのようなプロが調査員になってくれれば、安心です」


 樹里は笑顔全開で事務所の将来を喜んでいました。


「そうなんですか」


 ホッとしたと同時に、不倫はバレないようにしようと思った左京でした。


「思ってねえよ!」


 最後まで地の文に切れる左京です。

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