樹里ちゃん、竹林由子にまた恨まれる
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
現在五反田一家は渡米中であり、九月いっぱい樹里は休業です。しかし、給与の95パーセントをもらえるので、全く問題はありません。
先日、樹里は長女の瑠里と一緒に近くのスイミングスクールで水泳教室に参加しましたが、往年の迷女優の竹林さんに出会い、また逆恨みをされる事になってしまいました。
「往年じゃなくて、現役よ! 迷女優じゃなくて、名女優! それから、ちくりんじゃなくて、たけばやしよ!」
細々とボケた地の文に一つ一つ突っ込みながら切れる竹林由子です。
(御徒町樹里め、よくも私に恥を掻かせてくれたわね! 必ず仕返ししてやるわ!)
生きてるだけで恥を掻いているのに、それを樹里のせいにするなんて、まさしく恥知らずだと思う地の文です。
「うるさい!」
正論を言ったはずの地の文に切れる由子です。
今日は、瑠里の宿題があまり進んでいないので、樹里が付きっ切りで見る事になりました。
「パパ、助けて」
涙ぐんで不甲斐ない父親の杉下左京に懇願する瑠里ですが、
「すまん、瑠里。パパ、仕事なんだ」
嘘を吐いて家から逃げ出してしまう左京です。本当は樹里に言われて、外に出ただけの左京です。
そして、これ幸いと、不倫相手の一人である坂本龍子弁護士とデートです。
「違う、断じて違う!」
某進君の真似をして激ギレする左京ですが、龍子に会うのは本当です。
「ううう……」
家を出た時、偶然かかってきた龍子からの電話で、彼女の事務所へ行く事になったのです。
「左京さん、おはようございます。どちらへお出かけですか?」
そこへ偶然を装って姿を見せる勝美加弁護士です。
「か、勝先生! どうしたんですか?」
一瞬大河ドラマのワンシーンかのような雰囲気で大声を出した左京です。
「お仕事を手伝って欲しいので、お宅に伺う途中です」
恥ずかしそうに告げる美加にドキッとしてしまう気が多い左京です。
「それも違う!」
地の文の言う事が全部気に入らないどこかの国みたいな左京です。
「ちょっと、勝先生、左京さんと何を話しているのかしら?」
更にそこへ、龍子の親友で、同じく左京に気があり、三人目の不倫相手を希望している斎藤真琴が現れました。
「三人目じゃないわよ! 第一候補よ!」
どんでもない爆弾発言をかます真琴です。
「あ、真琴ちゃん。どうしたんだ?」
左京は一番好みの真琴が現れたのでニヤニヤして尋ねました。
「やめろ! やめてくれ!」
勝手気ままにそれぞれの関係を捏造しまくる地の文に全面降伏して懇願する左京です。
安心してください。出番はここまでです。
さて、その頃、瑠里は泣きべそを掻きながら宿題をしていました。
「ようやく七月分が終わりましたね。もう少しで追いつけますよ」
樹里が笑顔全開で言いました。
「そうなんですか」
瑠里は引きつり全開で応じました。その時、ドアフォンが鳴りました。
樹里はすぐに瑠里の部屋を出て、玄関の受話器を取りました。
「はい」
すると、
「長寿軒ですう。ラーメン五人前、チャーハン十人前、只今お持ちしました」
いきなり意味不明な事を言われました。
「そうなんですか?」
樹里は首を傾げて玄関のドアを開きました。
「そこでいいですか?」
出前持ちの若い兄ちゃんはズカズカと中に入ると、上がり框に次々に丼を置いていきます。
「こんちは、木目寿司です。上寿司十五人前、お待たせ致しました」
長寿軒と入れ替わりに太ったおじさんが岡持ちを二つ持って入ってきました。
「ママゾンさんから、代引きのお荷物十個届いていますう、ハンコと代金お願いしますう!」
次に山猫長門の宅超便がやってきました。
樹里は目紛しく動いて、全てを終了しました。
玄関には、足の踏み場もない程の物がありました。
「わーい、ママ、きょうはパーティだね!」
さっきまで宿題地獄で落ち込んでいた瑠里が大喜びしました。
「そうですね」
樹里は笑顔全開で応じました。そして、早速、姉の璃里の家族、母親の由里の家族、更には親友の松下なぎさに連絡して、パーティをする事を伝えました。
璃里の家族は璃里と長女の実里、次女の阿里が来てくれました。
由里の家族は、母親の由里と、真里、希里、絵里、紅里、瀬里、智里の樹里と歳の離れた妹達が来ました。
なぎさも、長男の海流と長女の紗栄を連れて来ました。
「樹里、すごいね! 盛大なパーティだけど、誰の誕生日?」
相変わらずなマイペースさで尋ねるなぎさです。
「誰の誕生日でもないですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
「だったらさ、時々こういうのしてよ。すごく楽しいからさ」
実際には非常に大変だったにも関わらず、
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
こうして、謎の大量出前事件は、樹里の機転で乗り切りました。
(どうしてこんなにたくさんの人間を一瞬にして呼べるのよ!?)
電柱の陰からこっそり覗いていた由子は歯軋りして悔しがりました。
それは貴女のように友達が少なくて、親戚付き合いもしていないような人間としてどうかなという存在ではないからですよ。
「キーーーーッ! うるさいわよ! どうせ私は友達も少ないし、親戚からは除け者にされているわよ!」
適当に言った事が当たっていたので、驚いてしまう地の文です。
どうやら、樹里への嫌がらせで、由子があちこちに出前をとったりしたようです。
そんな事は絶対にしてはいけないと思う地の文です。
めでたし、めでたし。