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樹里ちゃん、瑠里の水泳教室に付き添う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドですが、今は休業中です。


 五反田氏一家が渡米しているためです。


 今日は、長女の瑠里を連れて、近くのスイミングスクールの水泳教室に行きます。


 本当は、毎日暇を持て余している不甲斐ない夫の杉下左京が連れて行く事になっていたのですが、


「今すぐ探して!」


 お得意様から急な呼び出しがあり、しばらくぶりの猫探しに出かけました。


 参加するのが小学校低学年なので、左京は行けなくなって正解だと思う地の文です。


「どういう意味だよ! 俺はロリコンじゃねえよ!」


 地の文に切れる左京ですが、地の文が心配しているのはそっちではなく、児童の母親の皆さんです。


「違う! 俺はよその奥さんになんか興味はない!」


 全力で否定する左京ですが、つい先日、樹里の姉の璃里の浴衣姿が見たいとかほざいていたのを覚えている地の文です。


「ううう……」


 痛いところを突かれて、がっくりと項垂れる左京です。


「では行って参りますね」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「行ってらっしゃい」


 左京はそう言いながらも、自分の方が先に出かけました。


 久しぶりの仕事ですから、稼いできてほしいと思う地の文です。


「行ってらっしゃい、左京さん」


 樹里が笑顔全開で言ってくれましたが、瑠里達は何も言ってくれませんでした。


 背中で泣きながら、駆け去る左京です。


 樹里は冴里と乃里を保育所へ送り届けると、瑠里と共にスイミングスクールへと向かいました。


 


 約十五分後、二人はスイミングスクールに到着しました。


「あら、杉下さん、お久しぶり」


 そこに現れたのは、あの有名だった元女優の竹林由子でした。


「今も有名な現役の女優よ!」


 地の文の些細な言い間違いに激ギレする由子です。


「おはよう、瑠里ちゃん」


 そして、その娘の寅さんが挨拶しました。


咲良さくらよ!」


 母親と同じように些細な事で激ギレする咲良です。


「お久しぶりです、竹林さん。今日はお休みですか?」


 樹里が笑顔全開で尋ねると、由子は気取って、


「本当はドラマの撮影があったのだけれど、予定をずらしていただいて、娘の方を優先しましたのよ」


 しかし、本当はドラマの撮影はなく、最近はオファーすら減っているのを突き止めている地の文です。


「そういう事はよしなさいよ!」


 何でもバラしてしまう地の文に涙ぐんで切れる由子です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 そして四人は中へと進みました。


「水泳教室参加の皆さんはこちらですよ」


 ロビーで係員の茶髪のヤンキー娘が言いました。


「ヤンキーじゃありません! ちょっと髪を染めてるだけでしょ!」


 地の文の鋭い指摘に抗議する係員の女性です。ネームプレートを見ると、「いのくま」と書かれていますね。


「読まないで!」


 顔を赤くしてプレートを隠すいのくまさんです。


「本日はよろしくお願い致します、猪熊さん」


 樹里が丁寧な挨拶をしました。近くにいた保護者の皆さんが、一斉に猪熊さんを見ました。


「あ、はい……」


 注目が集まってしまい、俯いて応じる猪熊さんです。


 すると、他の小学校からの参加者もいるのか、樹里達を見てざわつく人達がいました。


(仕方ないわね。気づかれてしまったのね)


 苦笑いをする由子ですが、


「御徒町樹里さんですよね? もう、どうして女優を辞めちゃったんですかあ!」


 地の文の予想通り、樹里のファンの方達でした。途端に顔を引きつらせる由子です。


(何故なの!? どうしてなの? 御徒町樹里なんて、もう何年も前にテレビから消えた人間なのに!)


 歯が折れてしまうのではないかというくらい歯軋りをして悔しがる由子です。


(ママこわい)


 それを見て、咲良は怯えました。


「申し訳ありません」


 樹里はサインをねだる人達にせがまれて、女優だった当時と同じようにごく普通の書体で名前を書きました。


「これ、価値出るかな?」


 下世話な事を囁き合う人もいて、それが更に由子の嫉妬心をかき立てました。


(御徒町樹里! 許せない!)


 やがて、樹里達はプールに入るために水着に着替えて、プールサイドに集合しました。


「おお!」


 監視員の男性や、たまたま別の件で来ていた経営者の皆さんが、樹里の水着姿にどよめきました。


 決して派手でもなく、ごく普通の競泳用の水着なのですが、そのスタイルのよさに男共は鼻の下が顎の下になるくらいデレッとしています。


(御徒町樹里めえ!)


 それにひきかえ、ド派手な花柄の水着を着ているにも関わらず、誰一人として見てくれない由子はまた怒っていました。


 そんな平たい身体では、誰も興味を持たないと思う地の文です。


「うるさいわね!」


 事実をありのままに指摘した地の文に切れる由子です。


 瑠里達はまだ泳げる子が少ないので、浅い子供用のプールを使って、水の中で目を開く練習を始めました。


 咲良は密かに水泳の練習をしているので、それを難なくこなしました。


「では、プールの縁に掴まって、バタ足の練習をしましょう」


 先程の係員の猪熊さんが言いました。


「私の名前は放っておいて!」


 また涙ぐんで地の文に切れる猪熊さんです。


「瑠里、上手ですよ」


 樹里が一生懸命バタ足をする瑠里を褒めました。


「咲良、貴女はクロールもできるのよねえ」


 対抗意識むき出しの由子が言いました。


「うん、ママ!」


 咲良も瑠里にドヤ顔を見せてから、スイスイと泳いでみせました。


「ママ、るりはバサロができるんだよ!」


 瑠里が樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、


(嘘ばっかり。バサロなんてできる訳が……)


 そこまで鼻で笑っていた由子でしたが、瑠里が某スポーツ長官並みのバサロをやってのけたので、顎が外れる程驚きました。


 瑠里は同級生達の歓声を浴びて、バサロのアンコールをこなしました。


(もう嫌!)


 次は絶対に参加しないと誓う由子でした。


 


 めでたし、めでたし。

 

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