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樹里ちゃん、目黒弥生の第二子を見にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドですが、現在五反田一家は渡米中です。


 しかし、休業補償が九十パーセント出るので、不甲斐ない夫の杉下左京のヘボ推理をあてにする必要はありません。


「かはあ……」


 鋭く図星を突かれてしまったので、呼吸困難に陥りそうになる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 その日は、左京の仕事が完全になかったので、樹里は左京の許しを得て、キャビーの家に行く事にしました。


「キャビーなんて名前、知りません!」


 どこかで切れる目黒弥生です。


「そうか、あの子も二人目を産んだのか」


 何故か嫌らしい笑みを浮かべて呟く左京です。


「違うよ! 二人目が欲しいって言ってたらしいから、よかったなと思っただけだよ!」


 本音を見抜いた地の文に動揺して切れる左京です。


「では行って参りますね」


 樹里は笑顔全開で出かけました。


 こうして、樹里を送り出した左京は、すぐさま不倫相手の坂本龍子弁護士に電話をしました。


「違うよ! 仕事がないか、連絡するんだよ!」


 杉下左京探偵事務所は、ここ数日、全く仕事がないので、焦った左京は藁にもすがる思いで坂本弁護士に電話をしました。


「私には仕事の連絡しかしてくれないんですか?」


 坂本弁護士が寂しそうに言ったので、ホテルに予約を入れた左京です。


「入れてねえよ!」


 顔を赤らめて、あれこれ妄想した左京が地の文に切れました。


「龍子さん、そういう事は言わないと約束してくれましたよね?」


 左京は心を鬼にして言いました。


「ごめんなさい、左京さん」


 坂本弁護士は左京に頼みたい仕事があるので、事務所まで来て欲しいと言いました。


 喜び勇んで向かう左京です。


「喜び勇んでいねえよ!」


 血の涙を流して地の文に切れる左京です。出番はここまでです。


 


 樹里は通勤経路と同じ電車を乗り継いで、弥生がいる目黒邸へ着きました。


「いらっしゃい、樹里さん。どうぞ」


 玄関で出迎えたのは、産後の肥立ちも良好で、すっかり元の姿に戻った弥生です。


「嫌味か!」


 事実とは異なる情報を開示した地の文に切れる弥生です。まだ産んでいないのではないかというくらいお腹が出ています。


「そこまで出ていないわよ!」


 また地の文に切れる弥生ですが、


「はっ!」


 我に返ると、樹里はすでに玄関を通り抜けて、廊下を歩いていました。


「樹里さん、待ってください!」


 いつものパターンになり、やや嬉しそうに言う弥生です。


 弥生は樹里を案内して、二人目の子供であるべにがいる部屋へ向かいました。


「そんな古風な名前じゃないわよ!」


 また地の文に切れる弥生です。そうでしたね。風花ちゃんですね。


「それはレッサーパンダの子供の名前でしょ! ウチの子の名前は、深紅と書いて、みくと読むのよ!」


 地の文の細かいボケを全部拾って切れる弥生です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。二人が部屋に入ると、深紅はベビーベッドでスヤスヤと眠っていました。


「弥生さんに似ていますね」


 樹里が言いました。すると弥生はヘラヘラ笑って、


「ありがとうございますう。祐樹の父母は全然言ってくれないので」


 それはそうですよ。元泥棒に似ているなんて、絶対に言いたくないと思う地の文です。


「やめて! 特にこの家の中ではやめて!」


 涙ぐんで地の文に懇願する弥生です。


「皆、祖父母はそうですよ。ですから、気にしなくても大丈夫です」


 樹里が笑顔全開で告げたので、


「樹里さん、嬉しいですう!」


 弥生は樹里に抱きつきました。


「ああ、樹里さん、いらっしゃい」


 するとそこへ弥生の夫の祐樹が顔を出しました。弥生はハッとして樹里から離れ、


「あれ、お帰りなさい。今日は会議で遅くなるんじゃなかったの?」


 すると祐樹は苦笑いして、


「いやあ、深紅の顔が見たくてさあ」


 頭を掻きながら照れ臭そうに言いました。弥生は半目になって、


「昨日は帰りが遅かったわよね? 本当に深紅の顔が見たかったのかしら?」


 鋭い突っ込みを入れました。何故なら、目黒祐樹は、元々は樹里に好意を寄せていて、何度も五反田邸を訪れていたからです。


「おいおい、樹里さんの前でおかしな事を言わないでくれよ。まるで僕が樹里さんに会いに来たみたいじゃないか」


 祐樹は悪びれる事なく、言ってのけました。弥生はムッとして、


「なるほどね。では、私は深紅のミルクを作るので、後はごゆっくりどうぞ」


 サッサと部屋を出て行ってしまいました。


「おい、弥生!」


 呆れ気味に祐樹は言い、追いかけようとしましたが、


「仲がいいのですね、お二人は」


 全然二人のやりとりを気にしていない樹里の言葉に足を止めました。


「どうも、弥生は嫉妬深くて。会社の関係者でも、相手が女性だと凄く気にするんですよ」


 祐樹は樹里を見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、


「それだけ弥生さんに愛されているのですね」


「そうですね。だから、一生をかけて弥生を守っていきたいと思っています」


 祐樹が言うと、ドアの向こうで弥生が号泣しました。


「弥生、どうしたんだ?」


 祐樹がドアを開くと、廊下にしゃがみ込んで泣きじゃくる弥生がいました。


「嬉しいよう、祐樹!」


 弥生はぴょんと立ち上がると、祐樹に抱きつきました。


「おい、弥生!」


 最初は驚いた祐樹でしたが、やがて優しく弥生を抱きしめました。


「そうなんですか」


 樹里が笑顔全開で応じた時、不意に深紅が目を覚まして泣き出しました。


「ごめんね、深紅。すぐにミルクを作るからね」


 弥生は深紅を抱き上げると、祐樹と共にキッチンへと向かいました。


「良かったですね、弥生さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。


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