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樹里ちゃん、母親から救援要請を受ける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は笑顔全開で出勤します。


「では、行って参りますね」


 樹里が笑顔全開で告げると、


「行ってらっしゃい」


 三重不倫をしている不甲斐ない夫のクセにどうした事か女性にモテる杉下左京が言いました。


「不倫なんかしてねえよ!」


 ここぞとばかりに少ないセリフを全力で言う左京です。


 多分、観光地の駅構内で切りつけられると思う地の文です。


「やめろ!」


 リアルな表現をした地の文に更に全力で切れる左京です。


 それとも、いきなりちょん切られるのでしょうか?


「やめろ! 十八禁的な発言をするな!」


 その事件をよく知っている左京が地の文に切れました。


 不倫をした者の末路はロクでもない事になると思う地の文です。


 でも、いつもよりもセリフが多かったので、実は大満足の左京です。


「違う!」


 更にセリフを追加できて満面の笑みを浮かべる左京です。


「はっ!」


 元気よく切れているうちに、樹里は昭和眼鏡男と愉快な仲間達と共にJR水道橋駅へと向かっており、長女の瑠里は集団登校の一団と共に行ってしまい、次女の冴里と三女の乃里も最近出番が少なくなっている保育所の男性職員の皆さんがバスで迎えに来て、走り去っていました。


「ううう……」


 激しく項垂れる左京です。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「相変わらず、バカだな」


 そう言っているかのように吠えました。


 


 その頃、新宿区にある樹里の母親の由里の家に電話がかかってきていました。


「こちら、警視庁特捜班の平井と申します」


 若い女性の声でした。由里は首を傾げて、


「え? そうなの? 蘭さんて、もっと歳じゃなかったっけ?」


 ある意味ディスっている発言をしました。


「多分、その人は同性の別人です。私は捜査二課の者です」


「へえ、そうなんだ。ごめんね、おばさんと間違えちゃって」


 更にディスる由里です。実は由里の方がもっとおばさんなのを知っている地の文です。


「死にたいの?」


 目の奥が笑っていない笑顔で脅され、少し漏らしてしまった地の文です。


「我々の捜査で、貴女の娘さんの夫の杉下左京氏のクレジットカードが悪用されている形跡があります。娘さんに連絡を取りたかったのですが、携帯の電源が切られており、やむなくお母様にご連絡致しました」


 平井と名乗った女性は言いました。


「え? そんな訳ないよ。左京ちゃんはクレジットカードが作れないはずだよ」


 由里が言うと、


「ええ!?」


 平井と名乗った女性は酷く驚いた声で応じました。


「警視庁にいた時、あちこちから借金しまくって、そのせいでブラックリストに載っちゃって、クレジットカードはもちろん、割賦契約もできないって聞いたんだから」


 何故かドヤ顔で教える由里です。すると平井と名乗った女性は、


「そ、そうでしたか。では、どこかで行き違いがあったのですね。失礼しました」


 通話を切ってしまいました。


「何、これ?」


 由里はまた首を傾げてから、受話器を置きました。そして、


「あ、しまった。クレジットカードを作れないのは、私の夫だった」


 テヘッと笑って舌を出し、肩をすくめる由里ですが、全然可愛くありません。


「もう一度訊くけど、死にたいの?」


 また目の奥が笑っていない顔で告げられ、全部漏らしてしまった地の文です。


 


 そして……。


「何してるのよ、クレジットカードを作れない奴じゃ、話にならないでしょ!」


 受話器を置くなり、若い女は横にいた中年の男に怒鳴りました。


「知らねえよ! 俺だって、上からもらった資料をお前に渡しただけなんだからな」


 男はムッとして反論しました。若い女はチッと舌打ちして、


「警視庁の元警部だっていうから、その辺のところは心配ないって思ったのに、どういう事なんだろ」


「っていうか、元刑事のところに電話するの、ヤバくねえか?」


 男が言いました。女は男を睨みつけて、


「だから、女房の母親に電話したんだよ。何だかわからないけど、そこの家、親戚中が個人情報だだ漏れなんだよ」


「不用心な一家だな」


 中年男は肩をすくめました。そして、


「仕方ねえ。こっちの男を利用して、そのババアの家にアポ電かけて、押し込みでもするか」


「危ないよ。やめたほうがいいよ」


 若い女は心配そうに言いました。しかし中年男は、


「そうも言っていられねえんだよ。ノルマが全然達成できてねえから、このままじゃ俺達が追い込みかけられちまうんだよ」


 それを聞くと女はギョッとして、


「だったら、すぐに押し込みでノルマ達成してきてよ。私は別の家に連絡してみるからさ」


「わかった。行ってくるぜ」


 中年男は警察官の偽の制服を着ると、アパートの一室と思われる部屋を出て行きました。


「ああ、大伍? ちょっと手を貸して欲しいんだけどさ」


 若い女はスマホを取り出すと、どこかに連絡をしました。


 


 樹里はいつも通り、何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をしてから、邸に向かいました。


「樹里さーん!」


 そこへもう一人のメイドの目黒弥生が走ってきました。


「おはようございます、キャビーさん」


 唐突な名前ボケをかまされ、すってんころりんと倒れる弥生です。


 そのせいで、警備員さん達はしばらくぶりのパンチラを拝めました。


「見てませんから!」


 全力で否定する警備員さん達です。


「樹里さん、お母さんから電話です」


 弥生は警備員さん達をひと睨みしてから告げました。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げて応じました。


 


 樹里は邸の中へ入り、保留中の固定電話に出ました。


「お母さん、携帯電話の方へかけてくれればよかったのに」


 樹里が言うと、由里は、


「だって、あんたの携帯、電源が切られているって聞いたからさ。それより、大変なんだよ。ウチのバカ夫が出先で人とぶつかって怪我させたらしくってさ。警察とその被害者の弁護士から電話があって、今から示談金と治療費を家まで取りに来るって言うんだよ」


 樹里は笑顔全開で、


「そうなんですか? 私の携帯電話は電源が入っていますよ。何か変ではないですか?」


「変て何が?」


 耄碌している由里にはピンときていないようです。


「死にたいのかって何度言わせるんだよ!」


 通話口の向こうで地の文に凄む由里です。


「それって、詐欺の電話ではないですか?」


 樹里が言うと、由里は、


「ああ! そうか! そうだね。よし、わかった。準備を整えてお迎えするよ」


 由里は通話を切ってしまいました。


「お母さん、大丈夫でしょうか?」


 樹里は笑顔全開で弥生に尋ねました。


「大丈夫じゃないですか?」


 苦笑いで応じる弥生です。


 


 樹里との通話を終えた由里は、以前、何かと世話をしてあげた本物の平井蘭警部に電話をして、事情を説明しました。


 蘭はすぐに班を組み、由里の家に急行しました。


 そうとは知らない詐欺の一団は、のこのこと警察のふりをして現れ、本物の警察に捕まりました。


 更に警察犬の活躍で、アジトも割れ、若い女も逮捕されました。


 数日後、由里と樹里は警視庁に呼ばれ、感謝状を授与されました。


(羨ましい)


 元警部でありながら、全く活躍できなかった左京は思いました。


 めでたし、めでたし。

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