表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
546/839

樹里ちゃん、ドロントにお礼を言う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、不甲斐ない夫の杉下左京の探偵事務所に関東名労会のNo.2の高杉慎太郎が現れ、左京は哀れな最期を遂げました。


「違う!」


 願望を口にしてしまった地の文に切れるしぶとい左京です。


 高杉慎太郎は左京を暗殺しに来たのではなく、菓子折りを持って謝罪に来たのでした。


「杉下左京様が、あのドロント様とお知り合いとも知らず、若い衆が失礼な事を致しました。何卒、私の顔に免じて、お許しください」


 高杉は土下座をして左京に詫びを入れました。


 高杉が持ってきたのは、行列に三時間は並ばないと手に入らない高級菓子店の最上品だったので、左京はすぐに謝罪を受け入れ、あっさりと菓子折りを受け取りました。


 そのせいで、帰宅した樹里にコンコンと説教をされたのは周知の事実です。


「ううう……」


 真実を語った地の文の正当性にぐうの音も出ない程打ちひしがれる左京です。


 


 という事で、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


 今回は完全にセリフがない状態で立ち去る昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


 まさか、更新が続いている間に元号が変わるとは夢にも思わず、またしても時代遅れ感が増してしまった眼鏡男達です。


「ううう……」


 背中で悲しみを表現して退場する眼鏡男達です。


「おはようございます、樹里さん」


 元泥棒のキャビーがにこやかに挨拶しました。


「やめて!」


 血の涙を流して地の文に懇願する目黒弥生です。


「おはようございます、キャビーさん。ドロントさんはいらっしゃいますか?」


 樹里は笑顔全開で地の文と弥生のやり取りを完全に無視して言いました。


「私はキャビーなんていうヘンテコな名前じゃありませんよ、目黒弥生です、それから、ドロントなんて知りませんけど、もし仮にそれが有栖川倫子先生の事であるなら、部屋にいらっしゃいますよ」


 顔を引きつらせて、今までで一番長い台詞を噛まずに言い切った弥生です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(疲れる……)


 大きく項垂れる弥生です。


 


 樹里は更衣室で着替えをすませると、キッチンで紅茶を淹れて、倫子の部屋に行きました。


「どうぞ」


 倫子の返事に応じてドアを開き、


「失礼致します」


 深々と頭を下げて入室する樹里です。


「今日はどうなさいましたか、樹里さん?」


 白々しいとぼけ方で尋ねる実はドロントの倫子です。


「違います!」


 すかさず地の文に切れる倫子です。


「本日は夫の件でお礼に参りました」


 樹里は倫子が着いている机に紅茶を置いて言いました。


「お礼? どういう事ですか?」


 まだ白を切る倫子です。


「うるさいわよ!」


 更に地の文に切れる倫子です。


「関東名労会の高杉さんが謝罪に来た件です」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「関東名労会? どこかの老人会ですか?」


 またしても見え透いたおとぼけをかます倫子ですが、もしかすると本当に何も覚えていないのでしょうか?


「違うわよ! 覚えているわよ!」


 語るに落ちる倫子です。してやったりの地の文です。


「ううう……」


 あっさりと墓穴を掘ってしまったので、大きく項垂れる倫子です。


「夫が助かりました。そして、弁護士の勝美加先生も助かりました。本当にありがとうございました」


 樹里は倫子のおとぼけを一切無視して頭を下げました。


「いえ、あの、私は何もしていませんから」


 倫子は苦笑いをして応じました。


 実は、本当にドロントは何もしていないのです。


 左京の事を側近に調べさせた高杉は、樹里が五反田氏の邸に勤務している事を知り、そこに有栖川倫子と名乗って住み込みで五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師をしているドロントの事を知りました。


 そして、樹里とドロントが因縁浅からぬ関係だと知るに至り、怖くなって詫びを入れたのが真相です。


(関東名労会の高杉慎太郎は、一度これでもかというくらい脅しを入れた事があるので、またそうなったら困ると思って、慌てて動いたんだろうな)


 名前を出されて迷惑したと思っているドロントです。


「ですので、これは有栖川先生にお渡しするのが一番だと思って、お持ちしました」


 樹里が倫子に手渡したのは、高杉が左京に持ってきた菓子折りでした。


「まあ、これって、あの有名な和菓子店の貴重なお菓子じゃないですか。いいんですか、無関係な私がもらってしまって?」


 あくまでも倫子はドロントではないという設定を貫きたいらしく、此の期に及んでまだシラを切っています。


「はい。是非お受け取りください」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(まさかとは思うけど、毒とか入っていないよね?)


 少しだけ不安になる倫子です。


「ありがとうございます、樹里さん。謹んで受け取らせていただきます」


 倫子は紙袋を受け取って礼を言いました。


(取り敢えず、キャビーに毒味させればいいか)


 相変わらず抜け目がない倫子です。


(もし、私に勧めてきたら、和菓子は苦手だという事で逃れよう)


 しっかりとドアの前で聞き耳を立てている更に抜け目のない弥生です。




 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ