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樹里ちゃん、左京を更に心配する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 不甲斐ない夫の杉下左京が遂に本当のヒモになろうとしたので、


「大丈夫ですよ」


 樹里は快諾しましたが、稼ぎよりもプライドが大事な左京は、


「俺は仕事を続けるよ」


 見栄を張りました。


「いろいろうるせえ!」


 正確な情報を披露したはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


 


「この請求書、以前より単価が上がっていませんか?」


 弁護士の勝美加は、雇っている私立探偵の隅田川美波を上目遣いで見ました。


 二人は、美加の事務所で、机を挟んで向かい合っています。


 美波が立っているので、美加は必然的に上目遣いになっただけで、美波に色目を使った訳ではありません。


「そんな事はありません。いつも通りですよ」


 嫌な汗を背中に掻きながらも、言い逃れようとする美波です。美加は小さく溜息を吐き、


「この事務所ももうすぐ畳みますので、まあ、いいでしょう」


 衝撃的な事を言いました。


「えええっ!? どういう事ですか、先生?」


 突然上客がいなくなってしまうのを知らされ、仰天する美波です。美加は請求書を机に置いて、


「私は命を狙われても、事務所を続けるつもりでしたが、他人の命を危険に晒してまで、この仕事を続けるつもりはないのですよ、湯殿川さん」


 確実に名前ボケを入れてきました。


「隅田川です。他人の命?」


 訂正しながらも、「他人の命」というワードが気にかかる美波です。美加は美波を見上げて、


「そうです。私が受け持っている裁判の関係者が、杉下左京氏の命を狙ったらしいのです」


 美波は「他人の命」が自分の命ではないのにホッとしましたが、


「杉下左京氏が命を狙われるというのは、何があったからなのですか?」


「私が抱えている裁判の一つに、関東名労会という暴力団絡みの事件があるのです」


 美加の話に蒼ざめる美波です。


(ちょっと、冗談じゃないわよ。そんな怖い案件抱えている弁護士のところから仕事をもらっていたら、こっちまで命狙われるじゃないの!)


 金よりは命が大事な美波はすぐに美加と関わるのをやめようと思いました。


「先生、その請求書は忘れてください。今まで甘い汁、いえ、お世話になりました!」


 美波は逃げるように事務所を去りました。


(私も早く辞めないと)


 こっそり聞いていた事務員の女の子は思いました。


「金の亡者のあの人が請求書を放棄するだなんて、明日は雪が降るんじゃないかしら?」


 美加は目を見開いてしまいました。


「まあ、支払いが減ってよかったし、ポンコツの探偵が自分からやめてくれてよかったわ」


 もしかすると、全部美加の芝居なのではないかと疑ってしまう地の文です。


「さてと」


 美加は急に化粧を始め、クローゼットに近づくと、そこに下がっているスーツで一番高いものを取り出して、着替えました。


(杉下左京さんにお詫びに行かないと。もう安心してくださいと)


 何故か顔を赤らめる美加です。


 


 その頃、樹里はもう一人のメイドの目黒弥生と庭掃除をしていました。


「ご主人、ぎっくり腰で入院したそうですが、もう退院したんですか?」


 弥生は左京の悪運の強さに驚きながら言いました。


「はい。お陰様で」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「でも、暴力団の方はかたがついていないんですよね?」


 弥生が探るように尋ねると、


「そうなんですか?」


 樹里は笑顔全開で小首を傾げました。


(あれ? 樹里ちゃん、気づいていなかったの?)


 一瞬まずい事を言ってしまったと思い、焦る弥生です。


 


 他方、左京はまずい組み合わせの人達の訪問を受けていました。


「まあ、かけて、二人共」


 苦笑いしながら、左京は言いました。


「はい」


 ツンと顔を背け合って、ソファに向かい合わせで座る坂本龍子弁護士と斎藤真琴です。


「左京さん、どうして入院した事を教えてくれなかったんですか?」


 龍子と真琴が某双子芸能人のようにハモって尋ねました。


(知らせる必要あるのかよ)


 左京は思いましたが、口にはせず、


「すぐに退院できたからさ。誰にも連絡していないんだよ」


 誤魔化そうとしました。すると、


「でも、平井警部と加藤さんはお見舞いに行ったらしいですよね?」


 恨めしそうな目で左京を見る龍子です。真琴も左京を睨んでいます。


「蘭はちょうど事件絡みで連絡を入れていた時に、俺がぎっくり腰になってしまったので、知られたくなかったんだけどさ。それで、自然にありさにも伝わっちまったってだけで……」


 左京は二人の視線に圧を感じながら言い訳しました。


「気分悪いわ。平井警部と加藤さんは名前で呼ぶのに、私は坂本先生なんて、とっても他人行儀な呼び方をされて……」


 恨み節炸裂の龍子ですが、


(貴女は他人でしょ?)


 左京は心の中で突っ込んでいました。


「あの二人は、付き合いが長いから……」


 流石に蘭は元カノだとは言わない左京です。その時、ドアフォンがなりました。


 真琴が龍子を押しのけて、笑顔でドアを開き、


「いらっしゃいませ……」


 そこまで言って固まりました。ドアの向こうには、美加が立っていたのです。


「美加、あんた、どの面下げてきたのよ!?」


 途端に龍子が激昂しました。


「もう来ないように言ったわよね!?」


 真琴も憤って怒鳴りました。左京は胃に穴が開きそうなくらい参っていました。


(助けてくれ……)


 涙ぐんで、樹里に救いを求める左京です。


 


「今日、坂本先生と斎藤さんがいらっしゃるのです。大丈夫か、心配です」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう弥生です。




 めでたし、」めでたし。

 

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