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樹里ちゃん、本当に嫉妬する

 御徒町おかちまち樹里じゅりは居酒屋で働くメイドです。


 でもテレビドラマには出ていません。


 それでもネットユーザーと一部のオタクには超有名です。




 今日は母親の由里と共に、結婚式場に来ています。


 杉下左京警部も一緒です。


「どう、左京ちゃん、これ?」


 由里はノリノリでウエディングドレスのカタログを見て、左京に示します。


「ああ、いいんじゃないすか」


 あまり乗り気ではない左京は、見ているような見ていないような態度です。


「もう! 左京ちゃんも真剣に選んでってば!」


 由里はまるで二十代の頃のようにはしゃいでいます。


 まだバブルがはじける前……。いえ、それほど前ではないかも知れません。


「は、はい」


 左京は仕方なく、カタログを覗き込みます。


 そんな二人の後ろ姿を、幼い妹達を遊ばせながら、樹里はボンヤリ見ていました。


「……」


 元気がない姉を心配し、妹の一人である真里が尋ねます。


「どうしたの、樹里お姉ちゃん?」


 三人の中で一番年長の真里は、樹里が病気ではないかと思いました。


 どんなに疲れていても、彼女達が遊びたがると付き合ってくれる樹里が、暗い顔をしているのを初めて見たのです。


「何でもないよ。ありがとう、真里」


 そう言って微笑む樹里を見て、真里は確信を持ちました。


「お姉ちゃんてさ、すぎちゃんが好きなんでしょ?」


 真里が樹里の顔を覗き込んで言います。樹里はビックリして、


「当たり前よ。杉下さんは、私達のお父さんになる人なのだから」


「そうじゃなくて」


 真里は悪戯っぽく笑います。


「なになにィ、どうしたのお?」


 希里と絵里が遊びに飽きて話に加わって来ました。


「樹里お姉ちゃんは、すぎちゃんの事が好きだって話よ」


「何だあ。そんな事、ジョーシキじゃん」


 一番年下の絵里が偉そうに言います。


「……」


 樹里は、妹達がすっかり自分の心の内を見抜いているのに驚いてしまいました。


 そして、改めて、左京と由里が話しているのを見ます。


(何でしょう、このモヤモヤ?)


 何だかわからない感情が、胸を焦がすようです。


「お姉ちゃん、お母さんにヤキモチ妬いてるのよ、きっと」


 真里が得意そうに分析します。


「それはそうよ、そもそもお姉ちゃんの方が先に、すぎちゃんと出会ってるんだから」


 希里も腕組みをして嬉しそうです。 


「お母さん、人のものがほしくなるタイプだもんね」


 意味がわかって言っているのか不安な絵里です。


「そうそう。璃里りりお姉ちゃんの結婚式の時も、危なかったんだよ」


 真里がとんでもない事を暴露します。


『左京はね、貴女のお母さんではなく、貴女と恋人になりたいと思っているのよ』


 樹里は左京の同僚である神戸蘭かんべらん警部の言葉を思い出していました。


(杉下さんは、私の事が好き?)


 でも、左京からそう言われた事はありません。


 その時でした。


「樹里さん」


 後ろで声がしました。


「ああ、亀だ!」


 絵里が言いました。そこには、亀島警部補が立っていました。


「亀、何しに来たの?」


 絵里がズケズケとした物言いで尋ねます。しかし亀島はそれを無視しました。


「もうすぐ、結婚式ですね」


 亀島はとても嬉しそうに言います。


「はい」


 樹里は笑顔半分くらいで応じます。


「元気ないですね、樹里さん? 具合でも悪いんですか?」


 亀島が尋ねると、さっき無視された絵里が、


「うるさい、亀! あっちに行ってなさい!」


と怒り出しました。


「え?」


 亀島は思ってもいない方向からの攻撃に驚きます。


「そうだそうだ、亀、引っ込め!」


 希里と真里まで亀島を言葉攻めです。ちょっとMっ気がある亀島も、これには耐え切れません。


「あ、あの、話があるんですけど」


 彼は遂に樹里を誘い、その場を離れようとします。


「ダメ、樹里お姉ちゃん、亀について行っちゃダメ!」


 絵里が激怒して叫びます。しかし樹里は、


「そんな事を言ってはいけません」


とたしなめ、亀島と歩いて行きます。


「あああ、亀が樹里お姉ちゃんをさらって行くう!」


 希里が叫びます。


「樹里さん」


 亀島は妹爆弾から距離を置くと、樹里に話し始めました。


「ずっと好きでした。結婚を前提にお付き合いして下さい」


 亀島は大真面目です。すると樹里はニコッとして、


「璃里お姉さんにも同じ事を言ったそうですね?」


 亀島の意識が飛んでしまいました。彼は致命傷を受け、再起不能です。


 樹里は動かなくなった亀島を残して、由里達に近づきます。


「お、どうした、樹里?」


 左京が気づいて樹里を見ます。由里も樹里に目を向けました。


「好きになってもいいですか?」


 樹里は左京に言いました。


「やっと言ったな!」


 何故か由里が嬉しそうに立ち上がります。


「え?」


 左京と樹里は、キョトンとして由里を見ました。


「あんたが言い出すのをずっと待ってたのよ、樹里」


 由里は本当に嬉しそうに言いました。


 そして、左京の手を樹里の手に重ねて、


「結婚するのは、あんた達よ。さあ、式場は押さえたし、ウエディングドレスもバッチリね」


 ハッとして顔を見合わせる樹里と左京。顔が赤くなります。


「わーい、結婚、結婚!」


 意味もわからず大はしゃぎの絵里です。


「杉下さん」


「樹里」


 二人は見つめ合います。そして、ヒシと抱き合いました。


 もしかして、最終回でしょうか?


 しかし、運命は過酷でした。


 まだまだ二人は結婚させてもらえないようです。

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