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樹里ちゃん、左京の身を案じる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里はいつものように五反田邸に出勤しました。


 お話の展開が超絶過ぎて、あらゆる人達の登場がカットされたと思う地の文です。


「おはようございます、弥生さん」


 すでに何事もなく邸に到着した樹里が、元泥棒に挨拶しました。


「やめてー!」


 過去に痛いところがある目黒弥生を容赦なくいじる地の文です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


「樹里さんはあのワインを飲まなかったそうですね。ご主人、大丈夫だったんですか?」


 弥生が尋ねました。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


 実は不甲斐ない夫の杉下左京は、その日からずっと下痢が続いていますが、樹里に知られたくないので、いつも探偵事務所のトイレに入っていました。


「もう、左京、トイレが臭くて困るわ。お掃除できない」


 普段からトイレ掃除はしていない加藤ありさに絶好の口実を与えてしまいました。


「お前、前からトイレの掃除なんかした事ないだろ……」


 大声を出すと漏れてしまいそうな左京が抑え気味のトーンで切れました。


「そんなこと言うと、樹里ちゃんに行っちゃうぞ。樹里ちゃんの夫は下痢してるって!」


 悪ノリのありさが言うと、


「てめえ……」


 苦しそうにありさを睨みつける左京です。


「これで時給アップね」


 不敵な笑みを浮かべるありさですが、すでに左京はトイレに入っていました。


「消臭スプレー、いっぱい買ってきてよね。あんたが入った後、臭くて入れないんだから!」


 更に追い討ちをかける非情なありさです。


「左京さん、安心してください、私がたくさん消臭スプレーを買ってきましたから」


 そこへ登場したのは、斎藤真琴です。ありさがキッと睨みました。


「左京さん、やっぱり心配です。また仕事をさせてください」


 真琴はチラッとありさを見て言いました。


「どういう意味よ?」


 ありさが気づいて詰め寄りました。


「ご自分の胸に聞いたら如何ですか? 随分垂れてしまっているようですけど?」


 真琴が強烈な嫌味を言いました。


「垂れてなんかいないわよ! まだまだ母乳が出るんだから!」


 グイッと胸を持ち上げて、反論するありさです。


「あら、そうでしたの」


 真琴も負けじと腕を組んで胸を持ち上げました。


「二人共、いい加減にしてくれ。眩暈めまいがしそうになるから」


 トイレから出てきた左京が言いました。


「左京、臭いから近づかないで!」


 真琴が買ってきた消臭スプレーを早速使って、左京に直接かけるありさです。


「ブヘッ!」


 スプレーの成分を吸い込んでしまい、むせる左京です。


「左京さん、大丈夫ですか?」


 真琴がよろけた左京を抱きかかえました。


「あん!」


 でも支え切れず、そのままソファに倒れ込んでしまいました。


「何してんのよ、朝から!」


 ありさがすぐに真琴を引き剝がしました。


「すまない、真琴ちゃん」


 左京は虚ろな目で真琴に詫びました。


「左京さん、大丈夫ですか?」


 そこへ更に、坂本龍子が現れました。


「また美加が何かしたと聞きました。ごめんなさい、左京さん」


 龍子が真琴を突き飛ばして謝罪しました。


「元はと言えば、あんたが勝美加に酷い事を言ったのが始まりなんでしょ!」


 真琴が言うと、龍子はビクッとして、項垂れてしまいました。


「あんたが左京さんに近づくと、またあの被害妄想女が動き出すのよ。ここには来ない方がいいと思うけどね」


 真琴は容赦なく龍子を責め立てました。


「真琴ちゃん、そこまで言うと、坂本先生が可哀想だよ」


 左京が間に入りました。すると龍子がキッとして、


「どうして真琴は真琴ちゃんで、私は坂本先生なんですか!? 酷いわ!」


 泣き出してしまいました。


「ああ、そのごめん……」


 左京はオタオタしました。そんな左京を呆れ顔で見るありさです。


 


 その頃、勝美加の事務所では、樹里が無事なのを知った美加が隅田川美波を呼び出して、激怒していました。


「どうして御徒町樹里がワインを飲まないで、杉下左京が飲んだのよ!? 説明してください、大場川さん!」


 怒りながらも名前ボケは忘れない美加です。美波はすかさず、


「隅田川です。どうして杉下左京が飲んだのかは、只今調査中です。内通者からの返事を待っているところです」


 美加は苛立たしそうに席に着くと、


「とにかく、次は確実に御徒町樹里に飲んでもらえるように作戦を考えてください。あるいは、貴女の目の前で飲ませてもいいのではないですか、桜川さん」


 また名前ボケをぶっ込みました。


「響きはいいですけど、隅田川が正解です。わかりました。作戦を検討致します」


 そもそも、ワインに車酔いの薬を入れる事自体がダメなんでしょ、と思いながらも、作戦が続く限り、特別手当がもらえるので差し支えないと考えている美波です。


 


 ようやく龍子を宥めて、真琴と共に送り出した左京は、疲れ果てて、自分の机にぐったりしてしまいました。


「やっと二人きりになれたわね、左京」


 ありさが悪い冗談を言ったので、ビクッとして飛び退く左京です。


「何よ、その反応は? 失礼しちゃうわ」


 剥れるありさですが、


(一つも可愛くねえぞ)


 左京は心の中で思いました。


 下痢止めの薬を飲み、猫探しに出かける左京ですが、金目のものは全て持ち出しました。


「どういう事よ!」


 ありさが切れましたが、無視する左京です。


 


 やがて、五時過ぎになり、左京は空残業をしようとするありさを追い出して事務所を閉め、次女の冴里と三女の乃里を迎えに行き、長女の瑠里が勉強をしているか見てから、夕食の準備をしました。


 しばらくして、樹里が帰宅しました。


「お帰り、樹里」


「只今帰りました、左京さん」


 娘達がテレビを観ているので、二人はキスをしました。


「左京さん、お腹の調子が悪いのですか?」


 リヴィングルームに行く途中で、樹里が不意に言ったので、


「ど、どうしてそれを?」


 某奇妙な冒険紛いのセリフを言ってしまう左京です。


「ありささんがメールで教えてくれました。真琴さんがたくさん消臭スプレーを買ってきたそうですね?」


 そんな事まで……。何もかも知られてしまった左京は項垂れました。


「私達は夫婦ですよ。臭いなんて気にしないでくださいね」


 樹里が背中からギュッと抱きしめてくれたので、顔を赤らめる左京です。


(でも、樹里には知られたくなかった……)


 結局項垂れる左京です。

 

 


 めでたし、めでたし。

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