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樹里ちゃん、探偵に訪問される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 不甲斐ない夫の杉下左京にほの字の坂本龍子弁護士は、同期の弁護士である勝美加に左京との関係を壊されそうになったと思い、


「二度と連絡してこないで!」


 絶好宣言をしました。美加はショックで泣いてしまいましたが、雇っている私立探偵の隅田川美波から、


「御徒町樹里の弱点が見つかりました。彼女は酔い止めの薬を飲むと、前後不覚になるようです」


 連絡を受けて、復活しました。しかし、データが古過ぎて、作戦の失敗が目に見えていると思う地の文です。


 しかし、そんな事とは夢にも思わない美加は、美波を事務所に呼び寄せて、樹里に罠をかけるための作戦を練りました。


 以下作戦会議の様子です。


「いい作戦を思いついたわ、宇田川さん」


 いつものように名前ボケをかます美加です。


「隅田川です。どのような作戦ですか?」


 素早く訂正を入れてから尋ねる美波です。美加はそれを完全に無視して、


「御徒町樹里に詫びを入れて、ワインをあげるのよ」


 ドヤ顔で言いました。


(やっぱり、この人バカなのでは?)


 半目で美加を見る美波です。美加はそんな美波の軽蔑の眼差しを全く感じないままで、


「そのワインには、酔い止めの薬を注入しておくの。どう、素晴らしい作戦でしょ?」


 更にドヤッてきました。


「はい、そうですね」


 流暢な棒読みで応じる美波です。


「そこで貴女の出番よ、石神井川さん」


 また名前ボケする美加です。


「隅田川です。どういう事でしょうか?」


 美波はごく冷静に訂正して尋ねました。美加はフッと笑って、


「龍子に罵られて傷心の私はショックで寝込んでしまい、激しい後悔をしているの。そこで、貴女が特別手当の十万円で、私の代わりに御徒町樹里にお詫びをしに行くのよ」


「承知しました」


 特別手当十万円を聞きつけ、やや食い気味に応じる美波です。


「では頼みましたよ、洲崎川さん」


 もう一度名前ボケして箱に入ったワインを美加が渡すと、


「『す』しか合っていません、隅田川です」


 電光石火で訂正して、


(作戦を練るまでもなく、すでに決まっていたんしょ!)


 心の中で突っ込む美波です。

 



 そして、翌日です。美波は五反田邸を訪問しました。


「本日は杉下樹里は欠勤しております」


 応対した元泥棒が言いました。


「やめて!」


 血の涙を流して、過去をいつまでもほじくり返す地の文に抗議する目黒弥生です。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう美波です。


(電話を入れて確かめるべきだったわ)


 美波は自分の不手際を反省しましたが、美加への請求にはしっかり五反田邸までの交通費は請求するつもりです。


(当然の事ながら、御徒町樹里の家までの交通費も請求するわ)


 美波はニヤリとしました。がめつい女だと思う地の文です。


 美波は成城学園前駅まで戻り、新宿へ向かいました。


 


「あら?」


 樹里の家に到着して、ドアフォンを押しましたが、誰も出てきません。留守のようです。


(誰だ、お前は!?)


 ゴールデンレトリバーのルーサが警戒心MAXで吠えました。


(ダメ夫も留守なのかしら?)


 美波は左京の事務所の方に行ってみましたが、ぐうたら所員の加藤ありさはもちろんの事、左京もいませんでした。


(何て日なの!?)


 某芸人のギャグっぽい事を思って、JR水道橋駅へと戻る美波です。


(娘が戻ってくるのを待っても、小さいから無理ね)


 美波は何気に瑠里や冴里や乃里をディスって立ち去りました。


(樹里か杉下左京が戻ってくるのを待つしかないか)


 美波は一旦自分の事務所へ戻り、夕方になったらまた来ようと思いました。


 


 その頃、樹里は五反田邸の二階の掃除を終えて、一階に降りてきたところでした。


「樹里さん、先程、また例の探偵が来たので、樹里さんはいませんと嘘を吐いて帰らせましたよ」


 弥生は気が利くでしょ私という顔で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じてから、


「弥生さんは霊が見えるのですか?」


 鉄板のボケをかましてきました。


「その霊じゃなくて、前にも来た探偵の、えーと、大井川じゃなくて、長良川じゃなくて、淀川でもなくて……」


 どんどん離れていく弥生に、


「隅田川美波さんですね?」


 樹里が笑顔全開で正解を言いました。


「そうです、その隅田川美波です。きっとまた、良からぬ事を企んでいるのだろうと思って、嘘を吐いて引き取ってもらいました」


 また弥生がドヤ顔で言うと、


「弥生さん、嘘吐きは泥棒の始まりですよ」


 一番身に堪える事を樹里が言ったので、


「ですよねえ」


 顔を引きつらせて応じる弥生です。


「私が休みなのは明日ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 瑠里が春休みに入るので、冴里と乃里も保育所を休ませて、四人で旅行に出かける予定なのです。


「五人だよ!」


 涙ぐんで地の文に切れる左京です。


「今日はお昼で早退です」


 樹里はいつの間にか着替えをすませると、唖然としている弥生に、


「お先に失礼します」


 笑顔全開で挨拶すると、邸を出て行きました。


 


 樹里は家に帰ると、瑠里が帰ってくるのを待ち、冴里と乃里を迎えに行きました。


「すまん、遅くなった」


 左京が三時頃に帰宅したので、出かける準備をして家を出ました。


「ワンワン!」


 行ってらっしゃいと言っているかのように吠えるルーサです。


「いってくるね、ルーサ!」


 瑠里と冴里が言いました。


「くるね!」


 乃里が言いました。


 五人は水道橋駅まで歩き、上野駅に出ると、北陸新幹線で金沢へと向かいました。


 


 それから四時間後、再び美波が樹里の家の前に現れました。ルーサは片目だけ開け、美波を監視しています。


(あら? まだ誰も帰っていないの? どういう事?)


 事情を知らない美波はそれから二時間、樹里の家を見張りましたが、


(帰ってこないみたい)


 しっかりと日当だけは請求するつもりで帰りました。


 


 めでたし、めでたし。

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