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樹里ちゃん、勝美加に憎まれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里は坂本龍子弁護士の同期である勝美加弁護士に詰め寄られたところを坂本弁護士の親友である斎藤真琴に助けられ、その真琴から、実は美加は龍子が大好きで、龍子が左京に好意を持っている事が嫌だったらしい事を聞き、龍子からの仕事の依頼を受けるのをやめるように左京に言って欲しいと頼まれました。


 左京は、不倫相手の龍子に会う口実を失うのが嫌なので、頑なに拒みました。


「違うだろ!」


 展開を捏造した地の文に切れる左京です。でも、出番はこれだけです。


 左京は樹里から言われたので、二つ返事で承諾しました。正直、龍子の好意が重荷になっていたのです。


 ひどい男だと思う地の文です。左京が何か叫んでいますが、全て割愛する地の文です。


 ところが、今度は真琴が仕事を紹介する事になったと樹里に言われ、左京は嫌な汗を掻きました。




 樹里はいつものように何事もなく五反田邸に到着しました。


「ありがとうございました」


 台詞もなく立ち去る昭和眼鏡男と愉快な仲間達に深々と頭を下げてお礼を言う樹里です。


「昭和って何?」


 そう言われる前に、降板して欲しいと思う地の文です。


「降板しませんから!」


 戻ってきて叫ぶ眼鏡男達です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。


 


 その頃、勝美加はそわそわしながら、事務所の所長室を歩き回っていました。


(もう、龍子ったら、いきなり来るって言うんだもの!)


 頬を朱に染めて、嬉しそうに微笑む美加です。


(杉下左京が仕事の紹介を断ってきたらしいから、とうとう龍子は私に気づいてくれたのね)


 あらぬ方向へ妄想を膨らませる美加です。きっと違うと思う地の文です。


 その時、ドアがノックされました。


「はい」


 美加は立ち止まって返事をしました。


「坂本先生がお見えになりました」


 事務員の女性がドアを開いて告げました。


「お通しして」


 にこやかに告げる美加を見て、ギョッとしてしまう事務員の女性です。女性と入れ違いに、龍子が顔を出しました。


「美加、ちょっといいかしら?」


 美加はニコニコして、


「ええ、いいわよ、龍子。さあ、かけて」


 ソファを勧め、


「坂本先生にお茶とケーキをお出しして」


 インターフォンに告げました。


「畏まりました」


 事務員の女性の声が応じ、龍子がゆっくりとソファに腰をかけた頃、トレイに紅茶とケーキを載せて入ってきました。


「どうぞ」


 龍子は女性に会釈で応じて、彼女が部屋を出ると美加を見ました。


「美加、どういうつもり? 左京さんに私からの仕事を断わるように言ったそうね?」


 龍子の強い口調に美加はビクッとしました。そして、


「当たり前よ。あの人は女と見ると見境なく口説いて関係を迫る色魔なのよ。ある女性からの証言もいただいているわ」


 同じくらい強い調子で言い返しました。


(どこかで聞いた事があるような気がする……)


 龍子は以前、加藤ありさからそんな話を聞いたのを思い出しました。


「龍子、貴女は稀代の色魔にもう少しで純潔を奪われるところだったのよ。そうなる前に付き合いが切れてよかったわ」


 またにこやかな顔で続けた美加を見て、龍子はキッとなり、


「冗談じゃないわ。左京さんは私の命の恩人なのよ。何も知らないくせに、左京さんを悪く言う貴女とはもう会いたくない。二度と連絡してこないで!」


 ソファを勢いよく立ち上がると、唖然としている美加を尻目に部屋を出て行ってしまいました。


「龍子……」


 美加は両目からポロポロと涙をこぼして椅子に崩れ落ちました。


 しばらく、美加は泣いていましたが、スマホに着信があったので、ハッとして出ました。


「ああ、井草川さん」


 早速名前ボケする美加です。


「隅田川です!」


 電話の向こうで激ギレしている隅田川美波です。


「どうしましたか?」


 美加は涙をティッシュで拭って尋ねました。


「御徒町樹里の弱点が見つかりました。彼女は酔い止めの薬を飲むと、前後不覚になるようです」


 随分と昔のデータを見つけてきたと思う地の文ですが、ちょっと下手な連想ゲームみたいだと思います。


「そう。でかしたわ、目黒川さん。すぐに作戦会議を開きますので、事務所に来てください」


「隅田川です。すぐに向かいます」


 美加は通話を終えると、先程まで泣いていたのが嘘のようにニヤリとしました。


(御徒町樹里、そして、杉下左京! 思い知らせてあげるわ!)


 美加は作戦の成功を妄想して、高笑いしました。


(時給が二千円でなければ、辞めたい)


 それをドア越しに聞いていて、悲しくなる事務員の女性です。


 


 一方、樹里は庭掃除を終えて、キッチンで洗い物を始めているところでした。


「はい」


 樹里は携帯の振動を感じて、通話を開始しました。


(誰かな?)


 聞き耳を立てる泥棒女です。


「やめて!」


 涙ぐんで地の文に懇願する目黒弥生です。


「坂本です」


 相手は龍子でした。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さん、ご迷惑をおかけしました。美加、いえ、勝弁護士にはきつく言いましたので、左京さんにまた仕事を受けてくださるようにお伝えください」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、


「夫にはご連絡くださったのですか?」


 すると、


「着信拒否になっていたので……。樹里さんから伝えてください」


 悲しそうな龍子の声が言いました。犯人はありさだと思う地の文です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開で応じました。


「では、失礼します」


 樹里は通話を終えると、左京にメールしました。帰ったら話がありますと。


 左京がビビりまくったのは言うまでもありません。


 しかも、樹里が帰宅すると、身に覚えのない着信拒否の件でお説教をされたので、落ち込みまくりました。


 いい気味だと思う地の文です。


 


 めでたし、めでたし。

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