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樹里ちゃん、なぎさの第二子に会いにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は、日曜日です。樹里は三人の娘と一緒に、親友の松下なぎさの家に先日生まれたばかりの第二子を見に行きました。


 例によって、不甲斐ない夫の杉下左京は、不倫相手の坂本龍子弁護士と不倫旅行に出かけています。


「違う! 調査だ! それから、坂本先生は一緒じゃない!」


 新幹線の中で地の文に切れる左京です。出番がどんどん減っているので、そのうちに降板が決まると思う地の文です。


「やめろー!」


 血の涙を流して地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里、長女の瑠里、次女の冴里、三女の乃里は笑顔全開で応じました。


「いらっしゃい」


 栄一郎は育児休暇を取り、家にいました。左京とは違うようです。


「いちいち俺を引き合いに出すな!」


 またしゃしゃり出てきて、地の文に切れる左京ですが、もう出番はありません。


「おはようございます」


 樹里が挨拶すると、


「おはよう、栄たん」


 瑠里と冴里と乃里が言いました。


「おはよう、瑠里ちゃん、冴里ちゃん、乃里ちゃん」


 栄一郎は微笑んで応じました。


「なぎささんは、授乳を終えたばかりで、少し疲れているようなので、紗栄さえに添い寝しています。それから、海流わたるは風邪をこじらせているので、部屋で寝ています」


 苦笑いして告げる栄一郎です。


「そうなんですか」


 樹里と瑠里と冴里と乃里は笑顔全開で応じました。


「それから、今日は偶然、大村の義叔母様ともみじさんがいらしているんです」


 更に苦笑いして言う栄一郎です。偶然ではないと推測する地の文です。


 樹里達は居間に通されました。そこには、ソファに大きく仰け反って座っている美紗と少しふっくらしたもみじが座っていました。


「あら、樹里さん、いらっしゃい」


 美紗は仰け反ったままで立ち上がる事なく言いました。


「ご無沙汰しています」


 ニコッとして応じるもみじです。それに反して、美紗はムスッとしています。


 ああ、この顔で普通なのですね。


「もみじ、またしばらくぶりに声が聞こえるわ」


 美紗は地の文の挑発に見事に乗ってくれました。


「何も聞こえていないわよ、お母様」


 もみじは呆れ顔で言いました。


「なぎさお姉ちゃん、大変だったのですよね? トイレで破水してしまって」


 もみじは声を低くして言いました。


「でも、なぎささんは見事にその一大事を乗り切ってくれましたよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。すると美紗が、


「なぎさは樹里さんがいなかったら、何もできない半人前なんですわ。全く、栄一郎君も大変ね」


 大きな声で言いました。もみじが、


「そんな事を言うもんじゃないわよ、お母様。母子共に何事もなかったのだから、それでいいでしょ」


 美紗を嗜めると、美紗はプイと顔を背けました。


 樹里達は美紗達と向かい合ってソファに座りました。乃里は樹里の膝の上です。


「それより、紗栄ちゃんの字だけど、お母様の美紗の紗を取って、紗栄ちゃんの栄は栄一郎君の栄を取ったんですって」


 もみじは美紗の機嫌を直そうと、話題を切り出しました。


「そうなんですか」


 樹里達は一斉に笑顔全開で応じました。栄一郎は照れ臭そうに、


「二人目ができたら、僕の名前から取ってつけていいって、なぎささんに言われたので」


 樹里に紅茶、瑠里達にはオレンジジュースを出しながら言いました。


「あら、そうなの?」


 仰け反っていた美紗が栄一郎を見るために顔を動かしました。


「はい。義叔母様には、なぎささんも僕も一番お世話になっていますから。でも、断わりもなく字を使ってしまって、申し訳ありません」


 栄一郎は深々と頭を下げました。すると美紗は微笑んで、


「そんな事、気にする必要はないのよ。姪の子に私の名前が引き継がれるなんて、嬉しいわ」


 心にもない事を言ってのけました。


「またよ! また私を中傷する声が聞こえたわ!」


 騒ぎ立てる美紗ですが、


「お母様、いい加減にして」


 もみじに睨みつけられて、口をつぐみました。


「あ、樹里、いらっしゃい」


 そこへ大欠伸をしながら、なぎさが姿を見せました。美紗は途端に顔を背けて、なぎさを視界から外しました。


「なぎささん、大勢で押しかけてすみません。赤ちゃんを見に来ました」


 樹里が笑顔全開で応じると、


「そうなんだ。じゃあ、来てよ。紗栄もさっき、目を覚ましたから」


 なぎさは紗栄がいる部屋へと戻りました。


「お母様、さ、もう一度見せてもらいましょう」


 もみじが言うと、美紗は、


「そうね。なぎさはともかく、紗栄には会いたいわね」


 嬉しそうに言い、立ち上がりました。


 栄一郎の先導で、樹里達は紗栄がいるベビールームに行きました。


 瑠里と冴里と乃里は、樹里に厳しく躾けられているので、おとなしくついて行きました。


「紗栄、みんなが会いに来てくれたよ」


 なぎさが紗栄をベッドから抱き上げました。紗栄はむずがる事なく、樹里達の方に顔を向けました。


「可愛いわね。栄一郎君に似たのかしら?」


 相変わらずの毒舌を吐く美紗ですが、なぎさは全然気づいていません。


「紗栄ちゃんの紗は、お母様の美紗から取ったんでしょ、なぎさお姉ちゃん?」


 何とか場を和まそうとして、もみじが切り出しました。するとなぎさは、


「え? そうだっけ、栄一郎?」


 部屋の空気が一変するような事を言いました。


「そ、そうですよ、なぎささん」


 栄一郎は顔を引きつらせて応じましたが、なぎさは首を傾げて紗栄を見て、


「そうだったの? 私、てっきり、冴里ちゃんの冴だと思っていたんだけど」


 追い討ちをかけるような事を言い出しました。もみじの顔も引きつりました。


「もみじ、帰りましょう。用事を思い出したわ」


 美紗はムッとして部屋を出て行きました。


「お母様!」


 もみじは樹里達に頭を下げながら、美紗を追いかけました。


「どうしたの、叔母様? 認知症?」


 なぎさが無意識の毒を吐きました。


「違うと思いますよ」


 項垂れて応じる栄一郎です。


「そうなんですか」


 それでも樹里達は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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