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樹里ちゃん、坂本弁護士に謝罪される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、不甲斐ない夫の杉下左京の不倫希望相手の坂本龍子弁護士と同期の弁護士の勝美加に雇われている私立探偵の隅田川美波が、左京と坂本弁護士の不倫現場の証拠と称する合成写真を持ってきました。


 しかし、樹里が無意識に嘘を指摘したので、美波はすっかり狼狽えて逃亡しました。


「不倫希望相手って何だよ!」


 まずは左京がどこかで切れました。


「希望相手だなんて……」


 どこかで顔を赤らめて弱々しく否定する坂本弁護士です。


 一方、坂本弁護士は美加に、


「もうすぐ貴女はその杉下左京氏と結婚できるんだから、喜びなさいよ」


 妙な事を言われてすっかりドキドキしてしまい、それから何日も経っているにも関わらず、未だに鼓動の高まりが収まりません。


(美加の言葉にここまで動揺するなんて、私……)


 改めて、自分がダメ男に惹かれる性格だと思い知る坂本弁護士です。


「左京さんはダメ男じゃありません!」


 そこは突っ込む坂本弁護士です。


 左京がダメ男ではないのなら、世界中からダメ男がいなくなると思う地の文です。


「うるせえ!」


 血の涙を流して地の文に切れる左京です。


(私、本当に左京さんが好きなんだな……)


 自分で結論を出しておきながら、その結論に顔を赤らめる坂本弁護士です。


 


 さて、他方美加は、


「ええ!? 御徒町樹里に合成写真だとあっさり見破られたですって?」


 事務所で美波の報告を聞き、仰天していました。


「あれ程完璧な出来だったのに見破るなんて、さすが元メイド探偵だけの事はあるわね」


 実は樹里が出ていたドラマや映画は全部制覇している隠れファンの美加です。


「それ、役ですよね? 探偵じゃありませんよね?」


 おかしな方向に話を持っていこうとしている美加を半目で見て反論する美波です。


 そもそも、合成写真は子供でも見破れるくらいのお粗末な出来だったのを理解していない二人です。


「役だろうが何だろうが、結果が全てよ、多摩川さん」


 美加はキッとして美波を睨みつけましたが、また名前ボケです。


「多摩川じゃなくて、隅田川です。どうして私の名字を覚えてくれないのですか?」


 美波はムッとして言い返しました。すると美加はプイと顔を背けて、


「貴女が私に雇われている私立探偵だという事だけ把握してれば、何も支障はありません」


 開き直りとも取れる発言をしました。


(調査料が破格でなければ、今すぐに契約を打ち切りたいわ!)


 美波ははらわたが煮えくり返っていましたが、グッと堪えました。


「御徒町樹里の方はともかく、龍子の方はしっかり火を点けてきたから、後はあの子がどこまで理性を保てるかよ。で、貴女には、龍子の理性を吹っ飛ばしてもらうお仕事をしてもらいますから」


 美加はニコッと笑って、美波を見ました。


「そうですか」


 美波は作り笑顔で応じました。全ては金のためです。


(どうしてこんな性格が悪い人が弁護士になんかなったのかしら? 日本の法曹界、大丈夫なの?)


 真面目な事を考えてしまう美波です。




 そして、樹里はいつものように何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 あまり役に立っていない昭和眼鏡男と愉快な仲間達は敬礼して立ち去りました。


「ううう……」


 地の文の指摘に背中で泣いている眼鏡男達です。


「樹里さん、おはようございます」


 いつもの騒がしいメイドが現れました。随分太ってしまったようです。


「太ったんじゃないわよ! 妊娠しているの!」


 地の文に切れる目黒弥生です。


 誰の子をですか?


「夫の祐樹の子に決まってるでしょ!」


 ゼイゼイ言いながら地の文に切れる弥生です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里はすでに邸に入ってしまっていました。


「樹里さん、これから坂本先生がお見えになるそうですう」


 慌てて玄関に向かう弥生ですが、妊娠しているので走れません。


「誰のせいよ!」


 地の文に八つ当たりしながら急ぐ弥生です。


 


 ロビーで弥生の話を聞いた樹里は、すぐに紅茶の用意をしました。


 まもなく、坂本弁護士がやって来ました。


「おはようございます、樹里さん」


 少し疲れているような顔で挨拶する坂本弁護士です。左京と何かして来たのでしょうか?


「違います!」


 凄まじい勢いで地の文の推理を全面否定する坂本弁護士です。


「どうぞ」


 応接間に通されて、紅茶を出され、坂本弁護士は我に返ってソファに腰掛けました。


「今日は、樹里さんにお詫びに参りました」


 坂本弁護士は座ったばかりなのに立ち上がって言いました。


「そうなんですか?」


 樹里はトレイを持ったままで首を傾げました。


「申し訳ありませんでした」


 坂本弁護士は深々と頭を下げました。そして、


「私に隙があるせいで、左京さんばかりではなく、樹里さんにまでご迷惑をかけしてしまって……」


 嘘泣きをする坂本弁護士です。


「嘘泣きじゃありません!」


 ハンカチで涙を拭いながら、地の文に抗議する坂本弁護士です。


「迷惑などかけられた覚えがありませんよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。坂本弁護士は樹里を見て、


「ですが、私が左京さんと不倫をしているって、言いに来たでしょう、美加、いえ、勝弁護士に雇われている私立探偵の隅田川美波さんが」


 すると樹里は、


「写真を見せてもらいましたが、男の人は夫ではないし、女の人も坂本先生ではありませんでしたよ」


 笑顔全開で応じました。


「え? そうなんですか?」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう坂本弁護士です。しかし、


「でも、私が左京さんに変な気持ちを抱いているのは紛れもない事実です。そのせいで、ご迷惑をおかけしたのだと思います」


「どうしてですか?」


 樹里が不思議そうな顔で尋ねました。


「へ?」


 間抜けな応答をしてしまった坂本弁護士ですが、


「樹里さんの夫である左京さんを私が好きになってしまったのは、ご迷惑でしょう?」


 また涙をこぼしました。すると樹里は、


「人を好きになる事はいけない事ではありませんよ」


「でも、既婚者を好きになるのはいけない事です」


 法律家らしい反論を試みる坂本弁護士ですが、


「好きになるだけなら、いけない事ではないと思います」


 樹里は笑顔全開で言いました。


 そうです。好きになるだけなら、いけない事ではないのですが、不倫作家の某かべ先生は不倫肯定派のようですからね。


「断じて違いますよ」


 地の文の妄想を聞きつけて穏やかに切れる某かべ先生です。決して、ぬりかべではありません。


「ありがとうございます、樹里さん」


 樹里の優しい言葉に坂本弁護士は号泣しました。


(しばらくぶりにええ話や)


 ドア越しに盗み聞きしていた弥生はもらい泣きしていました。


 


 めでたし、めでたし。

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