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樹里ちゃん、不審者につきまとわれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は笑顔全開で出勤しますが、いつもと違う感じです。


 何故なら、不甲斐ない夫だった杉下左京と晴れて離婚し、探偵事務所も閉鎖したので、左京は登場しないからです。


「違う!」


 どこかで地の文に切れる左京です。


 弁護士の坂本龍子が前日連絡をよこし、朝一番の新幹線で大阪まで行く事になったので、すでにいないのです。


 このまま、大阪で不慮の事故にでも遭えばいいと思う地の文です。


「やめろ!」


 新幹線の中で切れる左京です。でも、隣には不倫相手の龍子がいるので、ルンルン気分です。


「不倫相手じゃねえよ! それから、もうすぐ平成も終わるのに、昭和な死語をかますな!」


 存在自体が、ザ・昭和なくせに地の文に下手な突っ込みをする左京です。


 左京が朝早く出かけたので、樹里は長女の瑠里を起こして、朝食の後、宿題に取り掛からせ、次女の冴里と三女の乃里を起こして、朝食を取らせました。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 変則的な動きにも、素早く対応する昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


 平成も終わるので、呼び方を変えた方がいいと思う地の文です。


「本名でお願いします」


 キリッとして告げる眼鏡男です。本名、ありましたっけ?


目賀根めがね昭和あきかずですよ!」


 とぼける地の文に切れる眼鏡男です。


 本名でも大差ないので、このままでいいと思う地の文です。


「どういう事ですか!?」


 面倒臭い事が嫌いな地の文に更に切れる眼鏡男です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里と隊員達はすでにJR水道橋駅に向かっていました。


(今年最後の放置プレー、五臓六腑に沁み渡る……)


 感動に打ち震える眼鏡男です。


 


 そして、いつものように五反田邸に無事到着しました、としようと思った地の文ですが、


「樹里様、何者かにけられているようですので、ルートを変更してみます」


 眼鏡男が真剣な表情で樹里に囁きました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で眼鏡男に囁き返しました。


「くはあ……」


 樹里に耳元で言われたので、眼鏡男は歓喜のあまり、涙を流して悶絶しました。


 足下がおぼつかなくなった眼鏡男を隊員二人が抱え、残りの三人が樹里を誘導していつもとは違う路地を進みました。


「やはり尾けられています。尾行のレベルから考えて、素人のようですが、警戒は続けます」


 少し意識が戻ってきた眼鏡男が言いました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。


「尾けてきているのは若い女性のようです。危害を加える様子はありませんが、何が目的なのかわかりませんので、お気をつけください」


 眼鏡男は隊員の一人がスマホで情報を収集しているのを見ながら言いました。


「今まで樹里様に危害を加えようとした女は何人かおりますが、その全てが司法官憲に捕らえられており、この場に存在できません。新たな不審者と考えるべきです」


 不審者の一人が言いました。


「我らは不審者ではありません!」


 今までの行動を分析して意見を述べた地の文に切れる眼鏡男です。


 しかし、いい歳の男六名が、二十代の女性を取り囲むように歩いているのは不審者の集団と見て間違いはないと反論する地の文です。


「くうう……」


 致命的な事を言われたので、悶絶する眼鏡男です。


 しかし、尾けてきている女性は何をする訳でもなく、水道橋駅で同じ電車に乗り、新宿駅で乗り換えて、また同じ電車に乗りました。


 眼鏡男達はしっかり樹里をガードしていましたので、女性は接近する事もありませんでした。


 そして、駅を出て、五反田邸に向かうと、女性は同じ方向に歩き出しました。


「止まって、やり過ごしましょう」


 眼鏡男の提案で、樹里達は途中にあったバス停の乗客の後ろに並びました。


 尾行していた女性は立ち止まってしばらく微動だにしませんでしたが、やがて樹里達を追い越して、五反田邸の方へと歩いて行きました。


「待ち伏せするつもりかも知れません! ルートを変更します」


 眼鏡男は隊員達と共にいつもより一つ手前を曲がりました。


 隊員の一人が角からこっそり覗いてみると、樹里が来ないのに気づいた女性が慌てた様子で戻ってくるのが見えました。


「隊長、来ます!」


 隊員が告げました。眼鏡男は頷いて、


「撒きましょう」


 樹里に言うと、一気に走り出しました。そして、女性が角を曲がるより早く、別の路地に入りました。


 女性はそれに気づかず、まっすぐに行ってしまいました。


「樹里様、目黒弥生さんにご連絡ください。門の前に立ってもらい、不審者を追い払ってもらいましょう」


 冴え渡る眼鏡男です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で元泥棒に電話をしました。


「元泥棒はやめて!」


 五反田邸のどこかで地の文に懇願する目黒弥生です。


 樹里は事情を話して、弥生に門の前に立ってもらいました。


「これで一安心です。参りましょう」


 眼鏡男はドヤ顔で言うと、元のルートに戻り、五反田邸へと向かいました。


 


 五反田邸の前まで行くと、弥生が立っていて、樹里に気づいて走って来ました。


「樹里さん、誰も来ませんでしたよ。大丈夫ですか?」


 弥生が尋ねると、


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「有栖川先生と黒川先生にも伝えましたので、もう安心ですよ、樹里さん」


 弥生が言いました。


「では樹里様、我らはこのまま、不審者の捜索を続行致します」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「樹里さん、早く門の中へ」


 弥生は周囲を警戒しながら、樹里の背中を押して、門をくぐりました。


 警備員さんが辺りを見渡してから、門を閉じました。


 すると、電柱の陰から、まるで某明子姉ちゃんのように姿を現した女性がいました。


 ニット帽を目深にかぶり、立体マスクをして、サングラスをかけたロングヘアーの女性です。


(あれが杉下左京の妻の樹里ね。五反田邸が勤務先なのは確かなようだわ。先生に報告しないと)


 チラッとサングラスをずらして、五反田邸の高い塀を見上げる女性です。


 新展開なので、ワクワクしてしまう地の文です。



 


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