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樹里ちゃん、左京と坂本弁護士の事を心配する(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里の不甲斐ない夫である杉下左京が、不倫相手の坂本龍子弁護士と暴力団絡みの案件に関わっていると元泥棒の目黒弥生が樹里に言いました。


「元泥棒はやめて!」


 涙ぐんで地の文に懇願する弥生です。


「不倫相手じゃねえよ!」


 時間差で地の文に切れる左京です。


「不倫でもいいです」


 問題発言をする坂本弁護士です。


「とにかく、日吉会はやばいんです。ご主人に連絡して、すぐにその仕事から手を引くように言ってください」


 弥生は真剣な眼差しで樹里に言いましたが、すでに樹里は庭掃除に行っていました。


 大きく項垂れる弥生です。


 


 一方、左京と坂本弁護士はタクシーを使って、不倫先のホテルへ向かっていました。


「違う! クライアントの住民の皆さんが待つマンションの管理組合だ!」


 タクシーの中で切れる左京です。


「住民の皆さんの何人かが、日吉会の構成員と思われる人物に囲まれたり、家の壁に落書きをされたりしています」


 タクシーの中で、左京に説明しながら書類を渡す坂本弁護士です。広い後部座席なのに、身体を密着させています。


(坂本先生、性格変わったな)


 左京は鼻の下を伸ばしていました。


「伸ばしてねえよ!」


 真実を語ろうとした地の文に理不尽に切れる左京です。


 まもなくタクシーは近隣住民の住むマンションの前に着きました。


「タクシー代は経費で落としますから」


 左京が払うそぶりを見せましたが、幸運な事に坂本弁護士が払ってくれました。


「やめろ!」


 払うつもりがなかったっかのような表現をしたので、地の文に切れる左京です。


「こちらです」


 左京はマンションのエントランスの脇にある部屋のドアへと案内されました。


「失礼します」


 ドアをノックして、坂本弁護士が中に入りました。左京も続けて入りました。


 その部屋にいたのは、仕事を退職している年代と思われる人達でした。


 いわゆる「ダンコンの世代」の皆さんです。


「団塊の世代だよ!」


 失礼な言い間違いをした地の文に切れる管理組合長です。


 会議テーブルを向かい合わせにして二つ並べ、それを囲むようにパイプ椅子に腰掛けています。


 総勢二十人です。


(この人達、日吉会の事を知っているのかな?)


 左京は思わず顔を引きつらせてしまいました。


「皆さん、こちらが暴力団の事を調べてくれる探偵の杉下左京さんです」


 坂本弁護士がニコニコして左京を一同に紹介しました。


「よろしくお願いします」


 左京は作り笑顔で挨拶しました。


「左京さんは警視庁の元刑事さんなので、暴力団相手でも臆する事なく、引き受けてくれました」


 坂本弁護士は訝しそうな顔で左京を見ている組合長達の様子に気づいて、言い添えました。


「警視庁の元刑事? 本当かい? 見るからに頼りなさそうな顔をしているけどさ」


 組合長の隣に座っている紫色の髪のお婆さんが言いました。


 正解を言われた左京は更に顔を引きつらせました。


「正解じゃねえよ!」


 確かに正解を述べたはずの地の文に切れる左京です。 


「鎧塚さん、そんな事はありませんよ。私は立て籠もり事件の人質になりましたが、左京さんに助けてもらったのですから」


 坂本弁護士はまるで恋人を見るようなうっとりとした目で左京を見て言いました。


「へえ、そうなのかい? 人は見かけによらないんだねえ」


 鎧塚さんは口ではそう言いましたが、顔は左京をバカにしているのがよくわかりました。


 左京はほとんどの住民が自分を不審の目で見ているのに気づいていましたが、話を進めるために口を開きました。


「坂本先生からいただいた書類に目を通した限りでは、日吉会が関係する会社である事は間違いないようですが、登記上は全く無関係で、事業も正当なものを行っている会社になっているため、警察も自治体も動けないようですね」


「そうなんです。だからこそ、坂本先生にお願いしたのにねえ……」


 鎧塚さんは意味ありげに左京を見て言葉を切りました。


「それでも、暴力団らしき連中がビルを出入りしているのは間違いないんです」


 組合長が言いました。するとロマンスグレーの男性が、


「しかし、ビルのロビーには警備員がいて、関係者以外は立ち入り禁止になっているので、証拠が掴めないのですよ」


 忌々しそうに言い、舌打ちをしました。


「なるほど」


 左京は嫌らしい笑みを浮かべました。


「違う!」


 誤解を招くような事を述べてしまう地の文に切れる左京です。


 左京は妙案が浮かんだので、ニヤリとしたのでした。


「我が事務所には、潜入調査のエキスパートがおりますので、すぐに証拠を掴んでみせます」


 胸を張って左京が言いましたが、近隣住民の皆さんは全く信用していない顔で左京を見ていました。


「本当に大丈夫なんですか、左京さん?」


 また身体を密着させてくる坂本弁護士です。


「大丈夫ですよ」


 やんわりとそれを押しのけて応じる左京です。


 


 そして、二日後、左京はその会社が暴力団の隠れ蓑だという証拠を見事に掴み、警察と自治体が動いて、暴力団の拠点は解散しました。


「一体、どんな手を使ったのですか? まさかあそこまで詳細に写真を撮れるとは思っていませんでした」


 坂本弁護士が左京の事務所で尋ねると、


「有能な所員の加藤ありさ君のおかげですよ」


 苦笑いして告げる左京です。ドヤ顔のありさが鼻を鳴らして坂本弁護士を見ています。


「あ、まさか……」


 坂本弁護士は、以前左京と一緒に関わった事件で、ありさが幽体離脱をできる特異体質なのを知りました。


 それを思い出したのです。


「これで、冬のボーナス、期待できるね、左京?」


 ありさが左京ににじり寄ったので、坂本弁護士はムッとしました。


「まあな」


 左京は今までのサボり分と相殺だよと言いたいのですが、グッと堪えました。


「左京さん、鼻の下が伸びていますよ!」


 坂本弁護士に指摘され、左京はビクッとしました。


「加藤君、近いよ、顔が」


 ありさの嫌味なドヤ顔を押しのける左京です。


 ありさは坂本弁護士をキッと睨みましたが、坂本弁護士も負けておらず、ありさを睨み返しました。


 


「樹里さん、案件は無事解決したらしいですね」


 弥生が庭掃除をしながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。


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