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樹里ちゃん、なぎさを見舞う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日で、樹里はお休みです。不甲斐ない夫の杉下左京は、弁護士の坂本龍子が次々に紹介してくれる案件のおかげで、今まで暇を持て余していた分を補う以上に忙しくなり、仕事です。


 久しぶりに家族揃って出かけようと思っていたのですが、


「左京さん、急ぎの案件です」


 坂本弁護士がいきなり朝早く現れ、左京を強引に連れて行きました。


 という訳で、今回は一言もセリフもないままで出番を終える左京です。


 何か叫んでいますが、無視する地の文です。


 一方樹里は、親友の松下なぎさの夫の栄一郎から連絡をもらい、なぎさの元気がないので、励まして欲しいと頼まれました。


「今日は皆でなぎささんのお家に行きますよ」


 樹里が笑顔全開で告げると、


「わーい! なぎちゃんにあえるう!」


 長女の瑠里と次女の冴里は大喜びです。


「わーい、あえるう!」


 三女の乃里は、なぎさの記憶があまりないのですが、お姉ちゃん達が喜んでいるので、取り敢えず喜びました。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサも、


「ご近所だから、散歩がてら連れてってよ!」


 催促するように吠えました。


「ルーサもいっしょにいこう!」


 瑠里が言いました。ルーサはそれを聞いて、大喜びしているのか、ケージの中を飛び回りました。


 こうして、樹里達はなぎさの家に行く事になりました。


 左京がいなくても何一つ困る事がないので、このまま離婚して、坂本弁護士に引き取ってもらえばいいと思う地の文です。


 また左京がどこかで叫んでいますが、一切お伝えしないと決めている地の文です。


 


 なぎさの家は、樹里の家からそれ程離れていないので、乃里はしばらくぶりのベビーカーに乗りましたが、瑠里と冴里は歩きです。そして、二人で先を急ごうとするルーサを引き留めています。


「あそこがそうですよ」


 樹里が指差しました。


「わーい、なぎちゃん!」


 瑠里と冴里はルーサに引っ張られながら、視界に入ってきたなぎさの家へと走り出しました。


「急がなくても、なぎささんはいますよ」


 樹里は笑顔全開で言い、軽やかにベビーカーを押しました。


「るりおねえちゃん、さりおねえちゃん!」


 門扉の前で、なぎさの第一子の海流わたるが手を振っています。


「わっくん!」


 瑠里と冴里は笑顔全開で海流に手を振り返しました。


「わっ!」


 海流はルーサに気づき、ビクッとしました。


「ルーサ、おとなしくして! わっくんがこわがってるでしょ!」


 瑠里にたしなめられ、ルーサはシュンとしました。


「だいじょうぶだよ、わっくん。ルーサはおりこうだから」


 冴里が手招きしました。海流は恐る恐るルーサに近づきました。


「あたまをなでてあげて。そうすれば、もうおともだちだよ」


 瑠里が言いました。海流は勇気を振り絞って、ルーサの頭を撫でました。ルーサは海流の手を舐めました。


「くすぐったい!」


 引きつっていた海流の顔に笑顔がこぼれました。


 それを樹里は笑顔全開で見ていました。


 ルーサを庭の木につないで、樹里達は海流の案内で家の中に入りました。


 なぎさがいるのは、リヴィングルームです。


「こんにちは、なぎちゃん」


 瑠里と冴里が先頭を切ってなぎさに挨拶しました。


「こんにちは、なぎささん」


 樹里が笑顔全開で挨拶しました。乃里は、


「こんにちは」


 同じく笑顔全開で挨拶しました。


「ああ、樹里。どうしたの?」


 ソファに座って、ポテトチップスを食べながら、テレビを観ていたなぎさがキョトンとした顔で応じました。


「栄一郎さんに、なぎささんが元気がないから、励まして欲しいと頼まれたんです」


 樹里が言うと、なぎさは首を傾げて、


「ええ? 私、元気いっぱいだよ。どういう事?」


 今度は樹里達がキョトンとして顔を見合わせてしまいました。


「元気はあるのですか?」


 樹里が尋ねました。なぎさはソファから立ち上がって、


「あるよ。今朝もステーキ食べたよ」


 妊婦が食べる食事ではないと思う地の文です。


「ではどうして、栄一郎さんはなぎささんが元気がないと思ったのでしょうか?」


 樹里が首を傾げて言いました。なぎさがポンと手を叩いて、


「ああ、わかった! 一昨日、もう少しでクリアできそうだったゲームを間違ってリセットしちゃったので、がっかりしていたんだよ。それを見て、慌てん坊の栄一郎が勘違いしたんだよ」


 なぎさに慌てん坊と言われた栄一郎は気の毒だと思う地の文です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ゲーム?」


 それを聞いていた瑠里と冴里の目の色が変わります。樹里にはゲームを禁止されているからです。


「そうだよ。いっしょにやる?」


 なぎさが無責任な発言をしましたが、


「ダメです」


 樹里が真顔全開で言ったので、


「やらない」


 悲しそうな顔で言う瑠里と冴里です。


「遠慮しなくていいんだよ。お金取ったりしないからさ」


 妙な心配をするなぎさです。


「そうなんですか」


 苦笑いして応じる瑠里と冴里です。樹里は溜息を吐いて、


「一時間だけですよ」


 許可しました。


「わーい!」


 瑠里と冴里は大喜びをして、なぎさとゲームを始めました。


 でも、不慣れな瑠里と冴里はすぐにゲームオーバーになってしまいます。


「海流、お手本見せてあげなよ」


 なぎさが言いました。すると海流はすごく嬉しそうな顔でコントローラーを持ち、ゲームを始めました。


「すっごーい、わっくん!」


 瑠里と冴里が褒め称えてくれた上、海流に寄り添ってきたので、海流は顔を真っ赤にしてゲームを続けました。

 

「何々、海流? 瑠里ちゃんと冴里ちゃんに褒められて、照れてるの?」


 無神経を絵に描いたようななぎさが海流をからかったので、


「ち、ちがうよ!」


 ますます顔を赤くして否定する海流です。


「そうなんですか」


 樹里と瑠里と冴里と乃里は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。


 

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