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樹里ちゃん、左京が事件を解決したのを喜ぶ

 俺は杉下左京。自宅の隣にある探偵事務所の所長だ。


 所長とは名ばかりで、俺の他にいるのは、ぐうたらを絵に描いたような所員の加藤ありさだけだ。


 しかも、近い将来、この女は首にするつもりでいた。


 だが、事情が変わって来た。


 愛する妻の樹里が、以前、何度か仕事で関わりがあった弁護士の坂本龍子先生に仕事を紹介して欲しいと頼んだのだ。


 その坂本先生は、俺がまだ警視庁にいた時に起こった人質立て籠もり事件の人質の一人で、俺が助けた人だった。


 俺は全く覚えていなかったのだが、坂本先生は覚えていて、弁護士の資格を取得すると、わざわざ俺が事務所を構えていた五反田駅前のビルに自分も事務所を構えた。


 要するに、自分で言うのも何だが、俺に惚れているのだ。俺のどこが良くてそうなったのか、理解ができないのだが。


「あんたはね、女から見ると、危なっかしくて、放っておけなくなるのよ」


 元同僚の平井蘭とありさに同じ事を言われた。そうなのか?


「でなければ、あんたみたいな不甲斐ない男が、樹里ちゃん程の美人と結婚できる訳がないでしょ」


 言いにくい事をはっきりとありさに言われた時は、悔しかったが、納得もしてしまった。


 確かにそうだ。樹里は十人が十人、美人と認める顔をしている。スタイルも抜群だ。


 その上、性格は穏やかで頭も良く、仕事の能力も抜群に優れている。


 只一つ、欠点らしきものがあるとすれば、あまりにも善人過ぎる事だ。そのせいで、何度も危ない目にも遭遇している。


 俺も樹里の事が放っておけなくて、結婚したいと思った。


「おこがましい事を考えるんじゃないわよ」


 またありさに上から言われた事を思い出した。何度思い出しても、殴りたくなる言葉だ。


 だが、俺は女性に暴力を振るう程どうしようもない男ではない。


 ありさを女として見た事がないと言いたいところだが、見た目だけは某有名女優に似ていて、見目麗しい姿形をしてはいる。


 しかし、性格は最悪な上、金に汚く、自分の利益になると考えれば、親友の蘭を平然と裏切る非情さを持ち合わせているのだ。


 だから、例え、あいつが全裸で迫って来ても、何もする気にはなれないと断言できる。


 蘭やありさとは若い頃に出会っていて、恋愛感情を持ったり持たれたりなのはわかるのだが、年齢がひとまわり以上離れているおっさんに何故坂本先生は惹かれたのか?


「それなら、樹里だって同じでしょ」


 蘭に言われた事を思い出す。蘭は坂本先生とはソリが合わず、事件で関わりを持つたびに二人は反発し合っていた。


「蘭のヤキモチよ。元彼が自分より若い女にちょっかいをかけられるのがしゃくさわるの」


 得意そうな顔で言い切るありさだが、そうなのだろうか?


 蘭と坂本先生は、前世の因縁で反目し合っていると思えたのだが。


 前世の話はシリーズが違うから、話題にするのはよそう。


 とにかく、坂本先生は樹里の「お墨付き」を得たので、毎日のように堂々と事務所に姿を見せる。


 仕事をしているのだろうかと心配になるが、持ってくる案件は毎回更新されているので、相談は数限りなく持ち込まれているのだろう。


 いくつか、紹介された案件を調査したのだが、男と女の愛情のもつれからの事件が多く、調査の過程で俺自身が対象者に暴力を振るわれかけた事がある。


「申し訳ありません。私の判断ミスです」


 その件で、坂本先生は事務所に来て、土下座までした。以前の彼女なら、絶対にしなかったはずの行動だ。


 一体何があったのだろうか?


(あれ?)


 土下座している先生を見て、ドキッとしてしまった。ブラウスの襟がやけに大きく開いており、その、胸の谷間が……。


 え? それ程まじまじと見た訳ではないのだが、彼女は自分の胸が小さいのをコンプレックスにしていたと親友の斎藤真琴さんから聞いた事があるのだ。


 それなのに、今、垣間見えたのは、確かにふくよかな胸の谷間だった。豊胸? いや、激務をこなしている彼女にそんな時間的余裕はないだろう。


「左京さん、次はこんな事にはならないように万全を期しますから、許してください」


 上目遣いに俺を見上げる坂本先生。違和感MAXになって来た。


「先生、土下座なんてしないでください。俺には何の被害もなかったんですから」


 俺は手を差し伸べて、坂本先生を立ち上がらせた。その間中、彼女は俺に熱い視線を向けていた。


 疲れる……。一体どういう事なんだよ?


「ありがとうございます」


 先生は嬉しそうに俺の右手を両手で包み込むように握ると、満面の笑みで言った。


「では、本日は公判がありますので、これで失礼致します」


 目をウルウルさせて、坂本先生は事務所を出て行った。


「左京、鼻の下が伸びてるよ」


 半目で俺を見ているありさが言ったが、


「伸びねえよ。彼女はタイプじゃない」


「そうね。胸が貧相な女は嫌いなのよね」


 ありさがニヤリとした。ギクッとしてしまう。蘭、ありさ、そして樹里も巨乳だ。その中でも、樹里はひときわ大きい。


 しかも、着痩せするのか、服の上からだとそれ程わからないのが奥ゆかしくていい。コホン。


 ありさは俺がおっぱい星人だと思っているのだ。否定はできないが、どうしても巨乳がいいという訳ではない。


「出かけてくる」


 ありさとくだらない漫才もどきをしていても金にならないので、事務所を出た。


 


 その日は、坂本先生が回してくれた調査を二件こなして、もう一件は明日へ持ち越した。一件目が予定より時間がかかってしまったからだ。


 それでも、急ぐ案件は引き受けていないので、スケジュール的には何も問題はない。


 坂本先生も、その辺は結構気を遣ってくれているようだし。


 夕方に事務所に戻り、隠しカメラでありさがサボっていなかったかチェックをしてから、


「お疲れ様でした」


 ありさがタイムカードを改ざんしていない事も確認して送り出し、事務所を閉めた。


 大急ぎで、次女の冴里と三女の乃里を保育所へ迎えに行き、すでに帰宅している長女の瑠里が勉強をしているか見に行った。


 祖母(そう呼ぶのを知られると怒られるのだが)の由里さんから隔世遺伝で強くその性格を継承しているらしい瑠里は、俺が見にくるタイミングを見計らって、勉強しているふりをする。


 わかっているのだが、敢えて言わない。瑠里もそれをわかっているので、三人の中で一番俺に優しい。


 冴里はすでに俺と風呂に入ってくれなくなったが、瑠里はまだ入ってくれるのだ。


 ああ、バカな父親発言をしてすみません。


 瑠里と夕食の準備をしていると、樹里が帰宅した。


「ママ、おかえりなさい」


 媚びを売っている訳ではないのだろうが、瑠里はその辺のフットワークが小学一年生とは思えない程軽やかなのだ。


「ママ、おかえりなさい」


「おかえり」


 冴里と乃里は、瑠里がしているから真似をしているだけなのが見て取れる。


「只今帰りました」


 樹里は三人の娘を同時に抱きしめて、夫である俺に視線を送ってくれる。


「坂本先生からお電話がありました。左京さんのお陰で、案件がスムーズに片づいていますとお礼を言われました」


 樹里は笑顔全開で教えてくれた。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で返す俺だった。


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