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樹里ちゃん、亀島馨と付き合う?

 私は亀島かめしまかおる。警視庁特別捜査班のメンバーだ。


 特捜班と言うと聞こえはいいが、実は「雑用係」。以前存在していたものと何も変わらない。


 一つだけ違うのは、熱血刑事の神戸かんべらん警部が加わった事くらいだ。


 部屋も以前と同じで、庶務課が部材を端にどけてくれただけの狭い場所。


「三人なのだから、これくらいで十分だろう」


 視察に来た刑事部長が嫌味な顔でそう言った。


 あの人は嫌いだ。


 班長である杉下左京警部と考えが同じなのは嫌だが、やっぱり嫌いだ。


「最初私が提案した時と随分内容を変えられてしまったわ」


 神戸警部も怒っていた。


 捜査一課と仕事の内容が被り、左京さんの同期である加藤警部が、公私に渡って左京さんをライバル視しているため、余計肩身が狭くなっている。


 一課長は、刑事部長と同じ大学出身。だから、二人で嫌がらせをしているのだと神戸警部が言っていた。


 私にとっては、それはどうでもいい事だ。


 むしろ、他の事で私は頭の中が一杯だった。


「私、左京を応援する事にしたの」


 ある日、神戸警部が発した謎の言葉。


 最初、何の事かわからなかった。


 しかし、それは「左京が御徒町樹里と結婚する事を応援する」という意味だと知った時、私は世界が破滅すると思ったほどだった。


 神戸警部が横恋慕をしているうちは、御徒町さんも左京さんと付き合ったりできないだろうと安心していた。


 その関係が崩壊したのだ。神戸警部が寝返るなんて思わなかった。


 いや、あの人が左京さんを諦めるなんて考えつかなかった。


 一度は真剣に付き合ったほどの二人だったのに、突然神戸警部が左京さんをふったのだとか。


 その後何があったのか知らないが、神戸警部は刑事部長に掛け合ってまで、杉下さんをG県から呼び戻した。


 本当によくわからない関係だ。


 そして更に朗報が入った。


 左京さんが樹里さんと間違えて、母親の由里さんにプロポーズした。


 由里さんは大喜びして、もう式場と教会を押さえたらしい。


 チャンスだ。今こそ、本丸に突撃だ。


 しかも、今回の展開に神戸警部は燃え尽きたらしい。


「バカ過ぎて、付き合い切れない!」


 彼女はさじを投げたのだ。


 ところがだ。


 左京さんが玉砕した情報は、捜査一課の加藤警部にも伝わってしまった。


 加藤警部も樹里さんを狙っているのは知っている。


 まずい。しかし、樹里さんが加藤警部のような強面こわもてと付き合うとは思えない。


 大丈夫だ。心配ない。


 私は落ち着いた。慌てるとロクな事がないからだ。


「おい、亀島」


 廊下で加藤警部に呼び止められた。


「何ですか、加藤警部?」


 私は一歩も退かない覚悟で加藤警部を見た。


 それにしても凄い悪人面だ。よく警察官になれたと思う。


「お前、杉下が、御徒町さんのお母さんにプロポーズしたのを知っているな?」


「はい。それが何か?」


 加藤警部は、ニヤッとした。殺される、と思ってしまうほど怖かった。


「抜け駆けしようとしてるな、お前」


 ギクッとする。加藤警部もさすがに一課の刑事だ。鋭い。


「そうはさせん。だから、お前と勝負したい」


「え?」


 今度こそ殺されると思った。


「二人で御徒町さんに同時に交際を申し込むんだ。それで、御徒町さんに選んでもらう」


 バカなのか、この人は? 私は心の中で加藤警部を笑った。


 そして、勝利を確信した。


「いいですよ。その勝負、受けましょう」


 こうして私達は、その日の夜、樹里さんのいる居酒屋に行く事にした。




 居酒屋に着いた私達は、樹里さんを探した。


「いらっしゃいませ」


 いた。しかし、確認する必要がある。


「由里さんではないですよね?」


「はい、違います」


 私と加藤警部はホッとしてつい微笑み合ってしまった。


 うう。寒気がした。


 お互い、牽制しながら、料理を口にし、ビールを飲んだ。


 そして閉店時間になり、私達は店を出て樹里さんが出て来るのを待った。


 おお。出て来たぞ。ああ、普段着も可愛い。


 横を見ると、ニヤついている加藤警部がいた。しかし、仕方がない。


 それくらい、樹里さんは素敵だったのだ。


「前から好きでした。付き合って下さい。お願いします!」


 私と加藤警部は、同時に右手を出し、頭を下げた。


 沈黙。樹里さんは迷っているのだろうか?


 バカな……。加藤警部と私で、何を迷うというのだ?


 一瞬、嫌な予感がした。まさか……。


「お友達なら……」


 樹里さんの声がして、私の右手を柔らかい手が握った。


「あ、あ!」


 私は感激で言葉が出ない。隣の加藤警部は、固まったままだ。


「夫がいますので、お付き合いはできませんけど」


 樹里さんは衝撃の言葉を口にした。


 え? おっと? オット? オットって、何?


 私は知らなかった。


 樹里さんに、結婚しているお姉さんがいる事を……。


 今日はお姉さんが当番の日だったのだ。


「燃えたよ。真っ白な灰に……。燃え尽きた」


 私もバカの一人だった。

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