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樹里ちゃん、ありさの復帰を喜ぶ

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は、樹里はお休みです。


 不甲斐ない夫の杉下左京が経営していると思っている探偵事務所の仕事が増え始めた矢先、無給で働いてくれていた斎藤真琴に左京がセクハラをして辞められてしまったので、背に腹は変えられないため、事務員を採用する事にしたのです。


「セクハラはしてねえよ!」


 某町長と同じく、断固として無実を訴えている左京です。


「無実なんだよ!」


 更に切れる左京です。


 そして、事務員募集のビラを水道橋駅前で配ったのですが、全く反応がなく、唯一応募してきたのが、以前、杉下左京探偵事務所を存亡の危機に陥れた事がある加藤ありさだったのです。


「存亡の危機になんか陥れてないわよ!」


 どこかで地の文に切れるありさです。


(何故なんだ? どうしてありさ以外応募がなかったんだ?)


 左京は苦悩しました。


 仕方がありません。事務所の所長がセクハラをして、事務員が辞めたと噂が広まっているからです。


「ううう……」


 その噂は、左京がビラを配っていた時、すでに感じていました。


(どうしてそんな噂が広まったんだ? 真琴ちゃんが恨みに思って、流したのか?)


 無給で働いてくれて、その上、セクハラをされた事を口外しなかった真琴を真っ先に疑う血も涙もないろくでなしです。


「セクハラはしてねえよ! 真琴ちゃん以外、誰も知らない事だからだよ!」


 結局のところ、真琴を疑っているのに変わりはない左京です。人としてどうかと思う地の文です。


「ううう……」


 反論できない事を地の文に言われて、大きく項垂れる左京です。


(俺だけで面接をしたのでは、ありさに押し切られそうだから、樹里に一緒にいてもらおう)


 情けない左京は、樹里に助け舟を出してもらおうと考えました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じ、仕事を休みました。


「でも、有給休暇にしてもらいましたから、大丈夫ですよ」


 樹里が笑顔全開で付け加えたので、


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で応じました。


 樹里の父親の赤川康夫は、まだ横田基地から帰ってきません。どうやら、そのままアメリカ本国まで行ってしまったようです。


 またあのお騒がせな大統領がやらかしたのでしょうか? 不安になる地の文です。


 そして、今日は平日なので、長女の瑠里は小学校、次女の冴里と三女の乃里は保育所に行っています。


 樹里と二人きりなのを改めて思い出し、欲情しそうになる左京です。


「ならねえよ!」


 若干真相に迫っていたので、切れ方が生ぬるい左京です。


「もうすぐ、面接の時間だな」


 リヴィングルームで、樹里が淹れた紅茶を飲んでいた左京が掛け時計を見て言いました。もうすぐ午前十時です。


「服部慎三さんのワイドショーも終わりましたから、そろそろ事務所へ行きましょうか?」


 樹里が立ち上がって笑顔全開で告げました。


「そうだな」


 左京もソファから立ち上がりました。


 二人が渡り廊下を歩いて事務所へ行くと、すでにありさがいて、ソファに座ってコーヒーを飲んでいました。


「お久、左京、樹里ちゃん」


 屈託のない笑顔で挨拶をするありさです。


「てめえ、どうやって入った!?」


 左京が掴みかかろうとすると、ひらりとそれをかわして、


「だって、ここの合鍵、左京が渡してくれたのよ」


 妙に色っぽい仕草で告げるありさです。


「誤解を招くような言い方をするな!」


 まるで愛人に合鍵を渡した事をバラされたように焦って切れる左京です。


「時々、物がなくなっているって真琴ちゃんが言っていたの、やっぱりお前の仕業か!?」


 左京がまた詰め寄ると、


「黙秘権を行使します」


 ありさはおとぼけをかましました。すると左京は、


「わかった。じゃあ、蘭に頼んで、捜査してもらおう。いろいろなところから、指紋が出てきて、加藤警部が大変な事になるだろうな」


 ニヤリとして反撃しました。ありさはビクッとして、


「ちょっと、元カノにそこまでするの、左京?」


「お前は元カノじゃねえよ」


 左京はムッとして言い返しました。


「じゃあ、今カノ?」


 ありさが言うと、


「アホか!」


 左京は呆れましたが、


「ありささん、面接をするので、どうぞおかけください」


 今までの二人やり取りを全部無視した樹里が言いました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖でハモッてしまう左京とありさです。


「ありささんがここで働く事は、加藤さんはご存知なのですか?」


 樹里が真顔で尋ねました。


「え、ええ」


 樹里の真顔にドキッとしながら、ありさは応じました。


「そうなんですか」


 途端に笑顔全開になって応じる樹里です。


「いつから働けますか?」


 また真顔で尋ねる樹里です。


「今日からでも」


 ありさは苦笑いをして言いました。


「では、よろしくお願いします、ありささん」


 即決で採用を決めた樹里に、


「そうなんですか」


 また異口同音に応じる左京とありさです。


(ああ、これじゃ何のために樹里にいてもらったのか、わからない……)


 また大きく項垂れてしまう左京です。


(ありさを監視するために事務所にいなくちゃならないから、仕事がこなせなくなる……)


 左京は事務所を閉めようと思いました。


 ところが、この世の終わりが来ようとしているのかと左京が思ってしまうくらい、ありさはテキパキと働きました。


(夢か? それとも本当にこの世の終わりなのか?)


 左京には働くありさが受け入れられません。


 そして、一日が終わり、ありさは帰りました。


「何があったんだろう?」


 夕食の準備をしている樹里がいるキッチンへと行き、左京が尋ねると、


「加藤さんのお母様に言われたようですよ」


「ああ、なるほど。心を入れ替えたのか?」


 左京が嬉しそうに言うと、


「ありささん、育児にかなり疲れていたようです。ようやく二人目のたすく君の手が離れて、一息つけたのまでは良かったらしいのですが、お酒に走ってしまったようなのです」


「そうなのか」


 ありさの酒癖の悪さはよく知っている左京なので、加藤警部が母親に泣きついたと推理しました。


「ありささんの身体を心配したお母様が、左京さんのところなら安心だからとおっしゃったそうです」


 樹里が笑顔全開で言い添えたので、


「どうして樹里はそこまで詳しく知っているんだ?」


 左京が訊くと、


「加藤さんが先日お邸に見えて、お話ししてくださったのです」


 樹里が笑顔全開で衝撃の事実を告げたので、


「な、何ーっ!?」


 嫉妬全開になる左京です。


 しばらくして、噂を流した犯人がありさだと知り、激怒したのでした。


 


 めでたし、めでたし。

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