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樹里ちゃん、斎藤真琴と話をする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 左京が樹里に見苦しい言い訳をしようとして玄関まで行くと、樹里に思いもかけない事を言われました。


「見苦しい言い訳なんかしねえよ!」


 ボーッと生きているだけの左京が地の文に切れました。


「左京さん、真琴さんからお電話をいただいて、事務所を辞めると言われたのですが、何があったのですか?」


 樹里の言葉に左京は仰天したのでした。


 めでたし、めでたし。


「違うよ! 終わりにするな!」


 樹里と絶対に離婚したくない不甲斐ない夫の左京は、全力で地の文に切れました。


「いや、そのさ……」


 左京は、不倫相手の斎藤真琴が事務所を辞めると聞き、樹里に全てを話していいものか、迷いました。


「不倫相手じゃねえよ!」


 更に地の文に切れる左京です。


「話は夕食の後、子供達が寝てからするよ」


 左京は苦笑いをして言いました。


「そうなんですか?」


 樹里は小首を傾げて応じました。


 樹里は着替えをすませて、食卓に着きました。


「ママ、おかえり!」


 長女の瑠里と次女の冴里が言いました。


「えり!」


 三女の乃里も言いました。


「只今。瑠里はお勉強はすみましたか?」


 笑顔全開で樹里が尋ねると、


「るり、とってもいいこだから、おべんきょうするの!」


 顔を引きつらせて、自分の部屋へと走る瑠里です。


「冴里と乃里は、パパとお風呂に入りなさい」


 樹里が更に笑顔全開で言いました。


「はい!」


 冴里と乃里は元気よく右手を上げて応じました。


(あれ、冴里も一緒に入ってくれるのか?)


 もう二度と一緒に入れないと思っていた左京は涙ぐみました。


「パパ、のりとはいってね。さーたんはあとではいるから」


 冴里にそっと耳打ちされて、項垂れる左京です。


「冴里、ダメですよ。一人で入るのは許しません」


 樹里が真顔全開で告げたので、


「じゃあ、ジイジとはいるね!」


 冴里は顔を引きつらせて、最後の手段に出ました。


「それならいいです」


 樹里が笑顔全開で言ったので、左京は項垂れ全開です。


(冴里……)


 女の子ではないのに、涙が出そうな左京です。


 乃里はお風呂に入っているうちにうとうとし始めたので、左京は浴室を出ると、そのまま乃里を子供部屋に連れて行きました。


「乃里はもう寝るから、瑠里もお風呂に入りなさい」


 左京が言うと、


「うん、るり、おふろにはいるね!」


 余程勉強が嫌だったのか、喜んで着替えをタンスから出すと、部屋を出て行きました。


 そして、樹里の父親の赤川康夫と冴里の三人でお風呂に入りました。


(俺、父親だよな……)


 何となく物悲しくなる左京です。しかし、絶好の機会を得たと思い、キッチンに行きました。


 樹里は洗い物をすませたところでした。


「いいかな、樹里?」


「はい、いいですよ」


 樹里は笑顔全開で椅子に座りました。左京はテーブルを挟んで反対側に座りました。


 そして、左京は意を決して、全てを話しました。そして、無事、離婚が成立しました。


「違う!」


 妄想が激しい地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。左京はすぐさま椅子から立ち上がると、


「すまん、樹里。隙だらけの夫で!」


 土下座をしました。


「左京さんはモテるから、仕方ないですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「樹里……」


 左京は菩薩のような慈愛に満ちた樹里の笑顔に感動していました。


 よし、これなら、いくらでも不倫できるぞと。


「そんな事は考えていない!」


 深層心理の奥底を見抜いたはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


「真琴さんとは、私が話をします」


 樹里のその言葉に修羅場を想像して、身震いしてしまう左京です。




 そして、翌日です。樹里は仕事をお休みしました。


「有給休暇ですから、心配しないでください」


 またしても、左京の胸を抉るような事を無意識に言ってしまう樹里です。


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で応じました。


 実際には、すでに夏休みを終了していますが、このお話では、まだ八月です。


 瑠里は康夫とお出かけし、冴里と乃里は保育所へ左京と行きました。


「おはようございます」


 それを見計らったように、斎藤真琴が来ました。樹里に言われたのです。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、真琴をリヴィングルームへ通しました。


「アイスティでいいですか?」


 樹里が尋ねると、


「いえ、結構です。手短にお願いします」


 真琴は真顔で言いました。樹里は真琴と相向かいでソファの腰を下ろすと、


「左京さんから、話は聞きました。真琴さんのお考えを教えてください」


 笑顔全開で訊きました。すると真琴は、


「私は、所長に命を助けられました(私立探偵 杉下左京参照)。それ以来、所長に恋をしています」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開のままで応じました。真琴は樹里のリアクションに無反応で、


「所長からお聞きになっているという事は、私がキスをした事もご存知なのですよね?」


「はい」


 それでも樹里が笑顔全開なので、真琴は、


「何とも思わないんですか? 私、樹里さんの旦那さんとキスしたんですよ? 許せない事ではないんですか?」


 さすがにイラッとして尋ねました。


「許せない事ですよ。でも、そこで私が真琴さんを咎めたところで、何かいい事がありますか?」


 樹里は笑顔全開のままです。


「え?」


 意外な事を訊かれて、真琴は呆気に取られました。


「真琴さんには、とても感謝しているのです。お給料はいらないから、働きたいとおっしゃってくださって。それだけではありません。瑠里と冴里の面倒も見てくれて、本当にありがたく思っています」


 樹里は笑顔のまま続けました。


「真琴さんは私達の家族同然です。ですから、キスくらいであれば、当たり前だと思っています」


「ええ?」


 真琴は樹里の言葉に目を見開きました。


(絶対に樹里さんは私を責めると思って来たのに、何、この予想の遥か上空をいく摩訶不思議な展開は?)


 真琴は樹里の考えがよくわかりません。


「でも、本気で左京さんと結婚したいと思うのであれば、それは断じて拒否します」


 樹里が真顔になったので、真琴はギクッとしました。


「日本の法律は、重婚を禁じていますから」


 また笑顔全開になる樹里です。


「そうなんですか」


 結局、樹里の口癖で応じてしまう真琴です。


(一体どういう事なのかしら?)


 左京への恋心をすっかり失った真琴です。


 


 一応、めでたし、めでたしだと思う地の文です。




 

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