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樹里ちゃん、瑠里を左京に託す

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 長女の瑠里は夏休みに入りました。


 でも、次女の冴里と三女の乃里には夏休みはありません。保育所には、原則として長期休暇はないのです。


「いいなあ、おねえちゃん」


 冴里は羨ましそうに言いました。


「でも、小学生になると、毎朝早起きして、ラジオ体操をするんだぞ」


 名ばかりの父親が言いました。


「やめろ!」


 一番指摘して欲しくない事を平然と言ってのけるまるで某二世タレントのような地の文に切れる左京です。


「ラジオ体操は瑠里の小学校では行っていませんよ。私が通っていた小学校でもありませんでした」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 ジェネレーションギャップを強く感じて、涙ぐむ左京です。


「では左京さん、瑠里と冴里と乃里の事、よろしくお願いします」


 樹里は笑顔全開で告げて、昭和眼鏡男達と共にJR水道橋駅へ向かいました。


「行ってらっしゃい」


 まだジェネレーションギャップを感じている左京は魂の抜け殻のようになっていました。


 そのまま抜け殻になってしまえばいいのにと思う地の文です。


「うるさい! 俺は乃里の成人式まで死なねえぞ!」


 地の文のジョークに激ギレする左京です。


 乃里が成人する頃には、成人式そのものがないかも知れないと推測する地の文です。


 そして、乃里が成人する頃には、左京は七十代なので、かなり厳しいと思う地の文です。


「まだ六十代だよ! それに今は男の平均寿命も八十代だろ!」


 鬼気迫る顔で地の文に切れる左京ですが、平均寿命とは、人間が生まれてから死ぬまでのものなので、元猿には適用されないと思う地の文です。


「シリーズが違う!」


 まさか本編で前々世の話をされると思わなかった左京は動揺して切れました。


「いってらっしゃい、ママ!」


 瑠里と冴里は笑顔全開で応じました。


「らしゃい、ママ!」


 乃里も笑顔全開で応じました。


「おねえちゃんもいっしょにいこうよ」


 冴里が瑠里に提案しました。


「うん、いこう!」


 瑠里は喜んで応じました。


「さあ、いくよ、パパ!」


 三人の娘に笑顔全開で言われて、さっきまで落ち込んでいた左京は復活しました。


「よし、いくぞう!」


 古いギャグをかまして、誰にも気づいてもらえない四十代男性です。


「ううう……」


 そんなつもりはないと言いたかったのに言えない左京は大きく項垂れました。


 そして、左京は何とか三人を保育所まで連れて行きました。


 冴里と乃里が瑠里と離れるのを嫌がって泣き、瑠里まで泣き出し、左京がもらい泣きをして大騒ぎになりました。


 見かねた所長が樹里に電話をして、冴里と乃里を説得してもらい、瑠里を叱ってもらいました。


 樹里と電話で話した瑠里はすでに泣き止んでおり、樹里の言う事をきっちり聞きました。


(さすが樹里、怖い)


 左京は今後も樹里についていこうと固く誓いました。そして最後に、


「左京さん、三人を説得できないなんて、恥ずかしいと思ってくださいね」


 口調は穏やかでしたが、かなり厳し目の事を言われ、誰よりも落ち込みました。


(涙がまた出そうだ)


 樹里の言う事は完全に正しいので、ぐうの音も出ないダメな父親です。


 そして、左京と瑠里はトボトボと家に帰りました。


「おはようございます、所長、瑠里ちゃん」


 そこへ左京の事務所で無給で働いてくれている斎藤真琴が来ました。


「おはよう」


「おはよう、まことちゃん」


 左京はともかく、瑠里に元気がないので、真琴はびっくりして、


「どうしたの、瑠里ちゃん? 元気ないね? パパに仕事がないから?」


 左京の心臓を抉り取るような強烈な事を言いました。


「ママにしかられたの」


 瑠里は左京が落ち込むのをスルーして、涙ぐんで言いました。


「そうなんだ。可哀想に」


 真琴が瑠里をギュッと抱きしめるのを見て、


(羨ましい)


 エロ左京は思いました。


「思ってねえよ!」


 図星を突かれたので、オロオロしながら地の文に切れる左京です。


「外は暑いから、中に入って、アイスコーヒーでも飲みましょう」


 真琴が言いました。すると瑠里は、


「アイスコーヒーはママがダメっていうから、おちゃをください」


 優等生な事を言いました。


「そうなの」


 苦笑いして応じる真琴です。


 


 一方、樹里は何事もなく五反田邸につきました。


「それでは樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「樹里さーん!」


 そこへ仮面夫婦の目黒弥生が走ってきました。


「仮面夫婦じゃないわよ!」


 地の文のボケに的確に突っ込む弥生です。


 でも、弥生がいくらもう一人子供が欲しいと言っても、夫の祐樹が応じてくれないのは事実です。


「そんな事実、ないわよ!」


 そう言いながらも、若干動揺している弥生です。


「はっ!」


 我に返ると、すでに樹里は邸に入り、着替えをすませて庭掃除を始めていました。


「樹里さん、私もしますう!」


 涙ぐんで叫ぶ弥生です。




 珍しく迷い猫の依頼があった左京が出かけて猫を見つけて事務所に帰ると、瑠里はソファの上で眠っていました。


「疲れたみたいですね」


 真琴が奥の仮眠室からタオルケットを持ってきて瑠里にかけてくれました。


「悪かったね、真琴ちゃん」


 左京は途中で買ってきたケーキの入った箱を真琴に渡して言いました。


「楽しかったですよ。私、兄弟は上しかいなくて、ずっと妹が欲しかったですから」


「そうかい」


 左京はソファに腰を下ろしながら応じました。


「紅茶、淹れますね」


 真琴はケーキの箱を持って、給湯室へ行きました。


 それを見ながら、左京は瑠里が邪魔だと思いました。


「思わねえよ!」


 不倫をそそのかす地の文に切れる左京です。


(真琴ちゃんから見ると、瑠里は妹か)


 左京から見ると、真琴は娘だと思う地の文です。


「そこまで離れていねえよ!」


 理不尽に地の文に切れる左京です。


 


 めでたし、めでたし。

 


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