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樹里ちゃん、保護者会の招集を受ける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は、瑠里の小学校で保護者会の役員会があるので、仕事をお休みしました。


 毎日がお休みの不甲斐ない夫の杉下左京に代わりに行ってもらえばいいのにと思う地の文です。


「ううう……」


 今月に入ってから、まだ猫を一匹見つけただけで、収入が五千円しかない左京は鋭く図星を突いた地の文のせいで項垂れました。


「わーい、きょうはママといっしょだ!」


 長女の瑠里は大喜びです。


「いいなあ、おねえちゃん」


 次女の冴里は羨ましそうです。


「なあ、おねたん」


 三女の乃里は意味がわかっていないのに羨ましそうです。


「ううう……」


 二人共、パパなんかよりママの方が大好きなことが判明して、また項垂れてしまう左京です。


 樹里は早く離婚した方が子供達のためにもなると思う地の文です。


「うるせえ!」


 血も涙もない事を言う地の文に涙目で切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。


「るりちゃん! るりちゃんママ!」


 そこへボーイフレンドのあっちゃんを含む集団登校の一団が現れました。


 その一団には、先日、樹里に手を握られて、すっかり虜になってしまった男の子二人がいます。


 ◯ンジャッシュのお二人です。


「違うよ!」


 見事にハモって地の文に切れる小島翔と渡部悠斗です。


「おはようございます」


 樹里が笑顔全開で挨拶しました。


「おはようございますう」


 小島と渡部はデレデレして挨拶を返しました。その途端、背後に現れたちくりんさんに二の腕を思い切りつねられました。


「たけばやしよ!」


 名前ボケをしつこく繰り返す地の文に切れる竹林咲良です。


「あんたたち、あとでおしおきよ」


 咲良が耳元で囁いたので、小島と渡部は身震いしました。


 月に代わってお仕置きするのでしょうか?


「しらないわよ、そんなむかしのマンガ!」


 実は昭和世代の咲良が地の文に切れました。


「はっ!」


 我に返ると、集団登校の一団は咲良だけを置いてきぼりにして、遥か彼方まで行っていました。


「ちょっと、おいてかないでよ!」


 涙ぐんで追いかける咲良です。


(何をしているのよ、咲良!?)


 実は元祖ちくりんさんがこっそり後をつけていました。


「だから何度言わせるのよ!? ちくりんじゃなくて、た・け・ば・や・し!」


 これぞ本家本元と思わせるような豪快なキレ方をする竹林由子です。


「はっ!」


 我に返ると、集団登校の一団はおろか、咲良も見失ってしまう由子です。


「咲良あああ!」


 由子は慌てて走り出しました。


(あの人、誰だっけ?)


 一部始終を見ていた左京ですが、人の顔を忘れる名人なので、由子の事を覚えていません。


「ワンワン!」


 それを見ていたゴールデンレトリバーのルーサが、


「どっちもどっちだな」


 そう言っているかのように吠えました。


「パパ、いっちゃうよ!」


 冴里が仁王立ちでほっぺを膨らます必殺技を繰り出しました。


「ちゃうよ!」


 乃里も負けずに同じポーズをとっています。すると左京が、


「冴里も乃里も、ママと一緒がいいんだろ? パパなんか置いて、ママと一緒に行けば?」


 自虐全開で応じました。すると、


「わーい!」

 

 喜んで二人共樹里を追いかけようとしたので、


「申し訳ありませんでした!」


 関心の土下座をして、何とか思いとどまってもらった左京です。


 


 しばらくして、誰もいない樹里の家の前で、呆然としている昭和眼鏡男と愉快な仲間達が近所の人に目撃され、通報されました。


「天は我々を見放したああ!」


 連行される時、眼鏡男が某映画の名セリフを叫びましたが、誰も相手にしてくれませんでした。

 



 そして、樹里達は何事もなく小学校に到着しました。


「お待ちしておりました、杉下さん」


 樹里が瑠里達と別れて、職員用の玄関に向かうと、バーコード先生が出てきました。


「バーコードじゃない! 校長だ!」


 肉体的欠陥を指摘する地の文に切れる校長先生です。


「お待たせして大変申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げました。


「いや、そういう意味ではなくてですね……」


 校長先生は樹里の鉄板ネタの洗礼を受けました。


(阿呆が)


 それを職員室の窓から見ている教頭先生です。


 


 樹里は校長先生の案内で、保護者会の役員会がある会議室へと向かいました。その途中、職員室の前の廊下を通ると、暇な先生方がわんさか出てきて、樹里を見送りました。


「暇じゃないです!」


 核心を突いた地の文に抗議する先生方です。

 

 樹里が会議室に入ると、まだ誰も来ていません。


「ささ、こちらへおかけください」


 校長先生が樹里の手を取って奥のひときわ目立つ大きめの椅子へ誘導しました。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開でお礼を言うと、椅子に腰掛けました。校長先生は会釈して会議室を出て行きました。


 校長先生と入れ違いに瑠里のクラスの担任である内村亜希子先生がお茶を淹れた茶碗をたくさん載せたトレイを持って入って来ました。


「内村先生、おはようございます。本日はよろしくお願い致します」


 樹里はスッと立ち上がると、深々とお辞儀をしました。


「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 内村先生はトレイを会議テーブルに置き、樹里に負けないくらい深々と頭を下げました。


「どうぞ」


 内村先生は樹里にお茶を出しました。


「ありがとうございます」


 樹里は茶碗を受け取り、椅子に戻りました。すると、他の役員の人が次々に入って来ました。


「おはようございます」


 樹里は一人一人に丁寧に挨拶をしました。そして、副会長の一人である教頭先生が入って来て、役員会が開催されました。


「お忙しい中、ご出席いただき、ありがとうございます。先日もメール等でお伝えした通り、通学路に不審者が現れたという情報が何件か入りましたので、情報の共有をするためにお集まりいただきました」


 教頭先生が役員会の議題を説明しました。


「では、レジュメをお配り致しますので、内容についてご質問があれば、承ります」


 教頭先生はスケべなバーコード先生と違い、仕事ができる大人のイメージです。


「くうう……」


 地の文にあからさまにディスられた校長先生は、校長室で一人で項垂れました。


 配られた紙には、不審者の身長や体型、着衣等が記されていました。


 しばらくして会議が終了しました。樹里は瑠里の授業をこっそり見に行き、瑠里が元気よく授業に参加しているのを見て、安心しました。


 そして、瑠里達と給食を共にし、下校時まで校長先生達と話をして、瑠里達と一緒に帰りました。




「お帰り。どうだった?」


 夕食の準備をしていた左京が玄関で出迎えました。樹里は、


「不審者の情報を教えていただきました」


 渡されたレジュメを左京に見せました。


「フーン」


 左京は不審者の情報を読みました。そして、蒼ざめました。


(これって、俺なんじゃ……?)


 人相風体、着衣の内容を見て、嫌な汗がドッと出てくる左京です。




 めでたし、めでたし。

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