表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/839

樹里ちゃん、神戸蘭と対決する

 御徒町おかちまち樹里じゅりは、居酒屋と喫茶店で働きながら、グラビアモデルもこなす美少女です。


 今日はグラビアの仕事はないので、通常通り喫茶店に出勤しています。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 樹里の挨拶で迎えられたのは、警視庁の女豹と呼ばれた神戸蘭警部です。


「それ、やめてくれない? 嫌味にしか聞こえないんだけど」


「申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げ、


「お一人様ですか?」


とマニュアル通りの対応です。また神戸警部がムッとします。


「見ればわかるでしょ!? どうせ私は独り者よ!」


「申し訳ありません」


 樹里はまた頭を下げます。


「どうぞ、こちらへ」


 神戸警部はムスッとしたままで、窓際の席に案内されます。


「この店で、普通のサイズで一番高いコーヒーをちょうだい」


 先日、バケツカップで酷い目にあったので、神戸警部は慎重に注文しました。


「かしこまりました」


 樹里はニコッとして立ち去ります。


「ふん」


 そんな樹里を神戸警部は睨みつけ、そのうちに窓の外に視線を移しました。


(何やってるんだろ、私……)


 居酒屋で加藤警部に指摘された事が頭の中を駆け巡ります。


『あの子は、お前みたいにそんな不躾(ぶしつけ)な事を訊いたりしないからだ』


 加藤警部の「魂の叫び」は、神戸警部の胸に突き刺さったままです。


「お待たせいたしました」


 樹里がコーヒーを運んで来ました。今回は普通のサイズのカップに入ったコーヒーです。


「ごゆっくりどうぞ」


 樹里は会釈をして立ち去ります。神戸警部は意を決して、


「ちょっと」


「はい?」


 樹里が笑顔全開で振り向きます。


「少し、話できる?」


「はい」


 樹里が不思議そうな顔で神戸警部を見ます。


「ここは何時に終わるの?」


「四時です」


 神戸警部は少し考えてから、


「じゃあ、四時に向かいのモスドナルドで待ってるから」


「はい」


 樹里はニコッとしてお辞儀をし、厨房へと戻って行きました。


(左京はあの子に首っ丈だけど、あの子はどうなのか、確かめる)


 神戸警部は、どうしても昔の恋人である杉下左京警部を諦められないようです。




 そして、約束の時間です。


 神戸警部は、先にモスドナルドに入り、樹里が来るのを待っていました。


「お待たせいたしました」


 メイド服から普段着に着替えた樹里は、また違う可愛さがあります。


(負けそう……)


 何も話さないうちにそう思ってしまう神戸警部です。


「貴女も忙しいようだから、単刀直入に訊くわね」


「はい」


 樹里は注文を済ませて、神戸警部の向かいに座ります。


「貴女は、杉下左京の事をどう思っているの?」


「杉下さんの事ですか?」


「そう」


 樹里は首を傾げます。


「年上の男の人だと思っています」


「……」


 しまった、そういう子だった、と神戸警部は自分の質問を悔やみました。


「じゃあ、貴女は、左京の事を男として好きではないのね?」


 神戸警部はストレートに訊きます。


 多分樹里は、このくらい真っ直ぐな質問でないとダメだと思ったのです。


「女として好きにはなれないです」


「は?」


 そんな危険球が飛んで来るとは思いませんでした。


「左京の事を好きなの?」


「はい」


 眩しいくらいの純粋な目で、樹里はスパッと言いました。


「左京と恋人になりたいの?」


 神戸警部のその質問に、樹里の顔が強張ります。


(この子、自分の左京に対する感情がわかっていないのね)


「左京はね、貴女のお母さんではなく、貴女と恋人になりたいと思っているのよ」


 私は何を言っているんだ? 神戸警部は、自分の発言が理解できません。


 この子を応援してどうするの? 左京の気持ちを代弁してどうするの?


「そうなんですか」


 樹里の顔に動揺が見えます。いつもニコニコしているイメージしかない樹里の心が揺れているのです。


 神戸警部は、決断しました。


「私は左京を応援するから」


 樹里は、神戸警部の言葉にキョトンとしています。


「左京と貴女を恋人同士にするために、私は力を尽くすから」


「そうなんですか」


 何故か樹里は困った顔をしています。


「何か不都合でもある?」


 神戸警部は、樹里の心中を量りかねて尋ねました。


「お母さんが可哀相です」


「え?」


 もしかして、この子は、母親が左京に夢中なのを知り、身を引くつもりだったのか?


 神戸警部は不覚にも泣きそうになりました。


「亀島さんが、恋人になってくれるといいです」


「えええ!?」


 左京が聞いたら、自殺しそうだ。神戸警部は、がっくりと項垂れてしまいました。


 しかし、樹里劇場はそこで終わった訳ではありませんでした。


「そうすれば、お母さんも可哀相ではないです」


「???」


 ど、どういう事? 亀島君が、この子の母親と恋人になればいいという事?




 謎が謎呼ぶ樹里ワールドでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ