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樹里ちゃん、左京に心配される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、忙しい仕事の合間を縫って、樹里は長女の瑠里が通う小学校に行きました。


 毎日が日曜日の不甲斐ない夫の杉下左京が間抜けなせいで、樹里が呼び出されてしまったのです。


 でも、左京が行っても解決できなかったと思われるので、これでよかったと思う地の文です。


「ううう……」


 自分のヘマでスマホが鳴ったのに気づかず、しかも、小学校の電話番号を登録していなかったので、振り込め詐欺の電話だとバカな推理をしてしまった左京は、全く反論できずに項垂れました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「なんでしゅか」


 瑠里と次女の冴里と三女の乃里も笑顔全開です。


「いってくるね、ママ、パパ!」


 家の中の順位をしっかりと認識している瑠里が言いました。


「行ってらっしゃい、瑠里」


 樹里は笑顔全開で、左京は引きつり全開で言いました。


 しばらくして、瑠里は集団登校の児童達に混ざって小学校へと向かいました。


「ちょっといいか、樹里?」


 左京が出かけようと準備をしている樹里に告げました。


「どうしましたか、左京さん?」


 樹里は笑顔全開で尋ねました。左京は冴里と乃里がはしゃいでいるのを見てから、


「この前は悪かったな。ちょうど猫を見つけて、追いかけていたので、スマホが鳴ったのに気づかなかったんだ」


 今更言い訳をしました。どこまでも見下げ果てた男だと思う地の文です。


「うるせえよ!」


 正しい事を言ったはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


「そうなんですか?」


 樹里は何の事を謝られているのかわからず、首を傾げました。


(可愛い!)


 朝から欲情するエロ左京です。


「欲情なんかしてねえよ!」


 図星を突かれたので、顔を真っ赤にして全力否定する左京です。


「瑠里の小学校の電話番号は登録したから、今度は大丈夫だよ」


 左京は更に言いました。


「そうなんですか」


 樹里はようやく左京が何を言っているのかわかったので、笑顔全開で応じました。


「それからさ、一体何の呼び出しだったんだ? 瑠里が何かいけない事をしてしまったのか?」


 何故か、事情を聞かされていないので、左京はここぞとばかりに尋ねました。


「違いますよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「じゃあ、何があったんだ? 俺、聞いてないんだけどさ」


 教えても無駄なので、やめた方がいいと思う地の文です。


「うるせえよ!」


 正論を言った地の文に切れる左京です。すると、


「パパ、おいてっちゃうよ!」


 冴里がほっぺを膨らませて、仁王立ちです。


「ちゃうよ!」


 やっと歩けるようになった乃里も、冴里の真似をしています。


「悪かったよお、冴里、乃里」


 デレデレして応じる左京ですが、


「はっ!」


 樹里の方を見ると、いつの間にか登場した昭和眼鏡男と愉快な仲間達と共にJR水道橋駅を目指していました。


「ああ……」


 樹里を呼び止めて、小学校に呼ばれた理由を聞きたい左京ですが、冴里と乃里が激オコなので、諦めました。


(帰ってきたら、訊くか)


 そう思った左京は、乃里を抱き上げて、冴里と手をつなぎ、保育所へと歩き出しました。


 でも、知らぬが仏ということわざがあるので、聞かない方が身のためだと思う地の文です。


「俺は知りたいんだよ!」


 左京の今後のためを思って、聞かない方がいいと忠告している地の文に切れる人としてダメな左京です。


 


 冴里と乃里を無事に送り届けた左京は、家に戻り、朝食の後片付けを済ませると、杉下左京迷探偵事務所に向かいました。


「迷は余計だよ!」


 事務所の概要を説明した地の文に切れる左京です。


「おはようございます、所長」


 左京が事務所に入っていくと、無給で働いてくれている奇特な事務員の斎藤真琴が挨拶しました。


「おはよう、真琴ちゃん」


 左京は真琴の巨乳をじっと見つめて言いました。


「見つめてねえよ!」


 真相を割り出した地の文に無駄な抵抗をする左京です。


「どこかから連絡はあったかな?」


 左京は虚しさを感じながらも、一応訊いてみました。すると真琴は、


「一件、猫ちゃん探しの依頼が入っています。ご近所の永井さんです」


「そ、そう。急ぎかな?」


 左京は自分の机に近づいて、書類を整理するふりをしながら尋ねました。


「はい。できるだけ早く見つけて欲しいそうです」


 真琴は笑顔全開で言いました。


「そ、そう」 


 左京は引きつり全開で応じました。


「でも、アイスコーヒーを淹れましたから、それを飲んでからお出かけください」


 真琴は左京の机にコースターを置き、その上にグラスに入ったアイスコーヒーを置きました。


「あ、ありがとう、真琴ちゃん」


 左京はキンキンに冷えたアイスコーヒーを一口飲みました。


「ああ、それから、瑠里ちゃん、モテモテですね」


 真琴がニヤッとして言いました。左京はキョトンとして、


「え? どういう事?」


「同じクラスの男子だけではなくて、よそのクラスの男子にも好かれているみたいですよ。パパとしては、心配ですよね?」


「な、何だって? 詳しく教えてくれ、真琴ちゃん!」


 左京が身を乗り出して顔を近づけたので、真琴は思わず後退り、


「あれ? 知らなかったんですか? 瑠里ちゃんを巡って、二人の男子が喧嘩をしたんですよ」


 若干、話が違って伝わっているような気がする地の文です。


「何ーッ!?」


 すでに瑠里の恋人は誰が来ても許さないつもりでいる左京は、顎も外れんばかりに驚きました。


(そうか……。樹里はだから俺に教えてくれなかったのか……)


 半分ショックで、半分樹里の心遣いに感謝する左京ですが、樹里は左京に訊かれなかったので言わなかっただけなのは知らない方がいいかなと思う地の文です。


「だったら言うな!」


 結局伝えてしまう地の文に切れる左京です。


「ところで、どうしてそれを知っているんだ、真琴ちゃん?」


 左京は、樹里が話したのかと思ったのですが、


「校長先生が、以前、私が働いていたキャバクラの常連さんで、メールアドレスを交換しているんです。昨日、教えてもらいました」


 真琴が陽気に真相を話してくれました。


(大丈夫なのか、瑠里の小学校? 転校した方がいいのでは……)


 個人情報が流出しているので、嫌な予感がしてしまう左京です。


 めでたし、めでたし。

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