樹里ちゃん、仲裁する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里は、五反田邸に到着するなり、元泥棒に瑠里が通う小学校から連絡があった事を告げられました。
「やめてー!」
黒歴史を暴くのが趣味の地の文に泣きながら懇願するもう一人のメイドの目黒弥生です。
全てにおいて行動が機敏な樹里は、すぐに小学校へと行きました。
「どうぞ、おかけください」
バーコード先生が言いました。
「校長先生だよ!」
身体的特徴で紹介した地の文に切れる校長先生です。
自分の事を先生という先生は信用ならないと思う地の文です。
「ううう……」
教育委員会にも同様の指摘をされた校長先生はぐうの音も出ません。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開でソファに座りました。校長先生とクラス担任の内村亜希子先生は向かいのソファに座りました。
「杉下さん、学校から呼び出されて、さぞご不安かと思いますが……」
内村先生が切り出しました。すると樹里は、
「いえ、大丈夫ですよ」
笑顔全開であっさりと否定しました。
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じてしまう内村先生です。
「それなら安心しました」
内村先生は一瞬固まりましたが、すぐに復活して言いました。
「実は、杉下さんのお子さんの瑠里さんが元で男子二人が揉めまして」
「そうなんですか」
それでも樹里が笑顔全開なので、校長先生と内村先生は少しイラッとしました。
「一人は同じクラスの男子の小島翔君です。そして、もう一人は一年二組の渡部悠斗君です」
内村先生が資料を老眼鏡で見ながら言いました。
「近視用の眼鏡です!」
まだそこまで年ではない事を主張したい内村先生が地の文に切れました。
「お笑いの方ですか?」
樹里が尋ねました。内村先生はまたイラッとして、
「偶然、名字が同じですけど、違います。それに小島君は字が違います」
妙なところで芸人に詳しいアピールをしました。
「ああ、裸枠の人ですか?」
意外に芸人に詳しい樹里が言いました。
「ですから、お笑いから離れてください!」
内村先生はイライラして言いました。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開なので、内村先生は救いを求めて校長先生を見ました。校長先生は頷いて、
「その小島君と渡部君が、瑠里さんを巡ってつかみ合いの喧嘩をしまして……」
「それは大変申し訳ありません。瑠里にはよく言って聞かせます」
瑠里は深々とお辞儀をして謝罪しました。どこかの学長と違って、素早い対応だと思う地の文です。
「いやいや、瑠里さんは全く悪くはないのです。小島君が、どうやら瑠里さんに好意を抱いているようで、瑠里さんの悪口を言った渡部君に詰め寄ったらしいのです」
校長先生が慌てて言い添えました。だったら、どうして樹里は呼び出されたのだと強く抗議したい地の文です。
「そうなんですか?」
意味がわからない樹里は小首を傾げました。
(か、可愛い!)
実は樹里の大ファンである校長先生はそれを見ていけない妄想をしてしまいました。
「していない!」
他人の脳内を勝手に想像する地の文に切れる校長先生です。それを半目で見ている内村先生です。
(このエロバーコードが、樹里さんに会いたかっただけなんだろ?)
真相に辿り着いた内村先生は校長先生を汚いものを見る目で観察しています。
「そこでですね、保護者会の会長に就任された杉下さんに、小島君と渡部君を仲裁して欲しいのですよ」
校長先生はまだエロい顔のままで言いました。
「エロい顔なんかしていない!」
鋭い指摘をした地の文に理不尽に切れる校長先生です。
「そうなんですか」
樹里は納得全開の笑顔で応じました。
「では、小島君と渡部君を呼びますので、よろしくお願いします」
校長先生は内村先生に目配せしました。内村先生は慌てて校長室から職員室へ行き、小島翔と渡部悠斗を連れてきました。
小島翔は樹里を見て顔を赤らめ、俯きました。好きな女の子の母親が同じ顔をしているので、まともに見られないようです。
それに対して渡部悠斗はムスッとした顔をして、樹里を見ています。彼は実はちくりんさんの娘の咲良が好きという変わり者です。
「たけばやしよ!」
どこかで地の文の名前ボケに切れる竹林由子です。
「かわりものじゃねえよ!」
地の文の指摘に異を唱える悠斗です。
樹里は二人を見て立ち上がり、近づきました。
「ごめんなさい、二人共。瑠里のせいで喧嘩までしてしまって」
樹里は二人に頭を下げました。翔はますます顔を赤らめました。そして、悠斗も樹里が近づいたので、ドキドキしているようです。
「特に大島君」
「こじまだよ!」
樹里の名前ボケに瞬時に対応して突っ込む翔は芸人気質かも知れないと思う地の文です。
「瑠里を好きになってくれてありがとう。これからも良いお友達でいてね」
樹里は翔の右手を包み込むようにして言いました。
「は、はい!」
翔は樹里に手を握られたので、もう顔が破裂しそうなくらい真っ赤です。
「それから、渡部君」
樹里は次に悠斗を見ました。
(おれのなまえはボケないんかい!)
ちょっとだけ期待していた悠斗も立派な芸人気質だと思う地の文です。
「あっ……」
悠斗は樹里を間近で見て、つい自分の母親と比べてしまいました。
悠斗には三つ上に兄がいるので、母親はすでに四十代です。それに比べて、樹里はまだ二十代の上、年齢より若く見られるくらい童顔なので、
(や、やっぱり、すぎした、かわいいかも……)
唐突に瑠里派に転向してしまいそうです。
「瑠里と仲良くしてくれたら、嬉しいかな。お願いね」
樹里は悠斗の右手も包み込むように握って言いました。
「はい!」
悠斗は直立不動になって言いました。
(羨ましい……)
校長先生は自分も樹里に手を握りしめて欲しいと思いました。
(男って生き物は……)
三人の男を白い目で見る内村先生です。
めでたし、めでたし。