樹里ちゃん、左京を説教する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里はかつての共演者でもある貝力奈津芽に、竹林由子が樹里に思い知らせてやると言っていた事を教えられましたが、
「大丈夫ですよ」
いつも通り、前向きな発言で応じました。そのせいで奈津芽は項垂れて帰ったのでした。
心配になった奈津芽は、一応樹里の夫である杉下左京にも教えておいた方がいいと判断して、五反田邸からの帰り道に樹里の自宅で左京が居候している家を訪れました。
「一応じゃなくて、完全に夫だよ! それから居候じゃねえよ!」
建築資金をビタ一文出さなかった左京が地の文に偉そうに切れました。
「かはあ……」
急所的な箇所を指摘された左京は血反吐を吐いてのたうち回りました。
奈津芽が来たので、左京は大喜びしました。相変わらず、芸能人にはミーハーな左京です。
「サインください」
無給で探偵事務所の事務員をしている斎藤真琴も、地の文の予想に反してミーハーでした。
「いいですよ」
好感度が欲しい奈津芽は喜んで応じました。
「そんな浅ましい事は考えていません!」
ズバッと見破ったはずの地の文に切れる奈津芽です。
奈津芽は左京に事情を説明しました。
「何だって!?」
リアクションが昭和な左京は大袈裟に驚きました。
「具体的にはどんな事をするとか言っていませんでしたか?」
左京は必要以上に奈津芽に近づいて尋ねました。
「具体的には何も言っていませんでしたよ」
苦笑いをして距離を取る奈津芽です。
「そうですか」
左京は自分の机に戻り、腕組みをしました。名探偵を気取っても何も思いつかないと思う地の文です。
「うるさいよ!」
正直な意見を言った地の文に理不尽に切れる左京です。
「樹里さんは大丈夫だとおっしゃっていたのですが、私、心配で、名探偵である杉下先生にもお話ししたんです」
奈津芽は目をウルウルさせて言いました。
「そうなんですか」
奈津芽の迫真の演技に思わず樹里の口癖で応じる左京です。
「演技じゃありません! 本心です!」
地の文の鋭い指摘に焦って反論する奈津芽です。
「安心してください。私が聞いた以上、もう何も心配は要りません」
左京は胸を張って言いました。
これ以上心配な状況はないと断言する地の文です。
「うるせえ!」
正当な発言をした地の文に切れる左京です。
「よろしくお願いします」
左京がもう少しゆっくりしていってくださいと言ったにも関わらず、身の危険を感じた奈津芽は事務所を出ました。
賢明な判断です。もう少しゆっくりしていたら、飲み物を無理やり飲まされていたと思う地の文です。
「誰が小◯だ!」
芸能ネタが好きな地の文に際どい突っ込みを入れる左京です。
「貝力さんはもう未成年じゃないから大丈夫なんだよ!」
意味不明な発言をして、真琴にドン引きされる左京です。
「所長って、そういう人だったんですね」
真琴は半目で左京を見て言いました。
「え?」
どうしてドン引きされたのかわからない左京はキョトンとしました。
しばらくして、真琴が帰宅すると、左京は事務所を締めて家に帰りました。
そして、ゴールデンレトリバーのルーサの散歩をしつつ、次女の冴里と三女の乃里のお迎えに行きました。
ちょうど家の前まで来た時、長女の瑠里が下校して来ました。
「おねえちゃん、おかえり!」
冴里が笑顔全開で言いました。
「おあえり!」
乃里も笑顔全開で言いました。
「ただいま、さーたん、のり!」
瑠里も笑顔全開で応じました。
左京が夕食の準備を終えて、風呂を沸かした頃、樹里が帰って来ました。
「おかえりなさい、ママ!」
瑠里と冴里が笑顔全開で言いました。
「おあえり!」
乃里も笑顔全開で言いました。
「只今」
樹里は笑顔全開で応じました。
「お帰り、樹里」
左京は樹里を出迎えて、本当はキスしたかったのですが、娘達が見ているので、やめました。
「バラすな!」
とことんお喋りな地の文に切れる左京です。
左京は奈津芽が来て、竹林由子の事を話したのを樹里に言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「実は、瑠里が心配だから、一度竹林さんとじっくり話をしたいと思うんだけど」
左京が公然と不倫をすると言いました。
「違うよ!」
先走りが過ぎた地の文に切れる左京です。
「そうなんですか?」
樹里が小首を傾げて応じたので、
(可愛い!)
左京は欲情して樹里を押し倒そうとしました。
「してねえよ!」
妄想を暴走させた地の文に切れる左京です。
「樹里はどう思う?」
何とか自分を抑えた左京が尋ねました。
「左京さん」
何故か樹里は真顔です。真顔シリーズは信長公記だけで勘弁して欲しいと思う左京です。
「な、何でしょうか?」
嫌な汗をしこたま掻いて応じる左京です。
「竹林さんはそんな方ではありませんよ。何かの間違いです。それから、瑠里と咲良ちゃんは仲良しですから、心配要りませんよ」
左京の言動を嗜めるような口調で言う樹里です。
「そうなんですか」
左京はその圧倒的な正論に思わず樹里の口癖を一日に二度使ってしまいました。
めでたし、めでたし。