樹里ちゃん、竹林由子にますます恨まれる
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
先日、樹里は長女の瑠里が通う小学校の保護者会に出席し、会長に立候補して、見事に当選しました。
とはいっても、対立候補はあのちくりんさんなので、結果はわかり切っていたと思う地の文です。
「竹林よ!」
いくら訂正してもボケてくる地の文に激ギレする竹林由子です。
いっその事、「ちくりん」に改名した方がいいのではないかと思う地の文です。
「絶対にしないわよ!」
地の文の些細な冗談にもマジギレして叫ぶ由子です。
樹里が会長に決まった時、司会者が副会長として推薦しましたが、
「お断り致します」
そう捨て台詞を吐いて、体育館を出てしまった由子です。
そのお陰で、副会長も書記も会計も、すんなり決まったのはよかったと思う地の文です。
「大丈夫かしら、杉下さん? 竹林さんて、ドラマではいい人を演じているけど、実際には、とても陰険で嫌な人だって噂よ」
他の保護者達が、由子がいないのをいい事に言いたい放題です。
早速、報告書をまとめて、由子に伝えようと思う地の文です。
「ダメよ、ダメダメ!」
一昔前のギャグで地の文に抗議する保護者の皆さんです。
(誰が何を言ったのか、実は全部聞いていたわよ!)
こっそり、体育館の扉を少しだけ開いて、盗み聞きしていた由子です。
波乱の予感がする地の文です。
「では、行ってきますね」
樹里はいつものように笑顔全開で言いました。
「行ってらっしゃい」
不甲斐ない夫の杉下左京は、樹里が保護者会の会長に選ばれたのを我が事のように喜び、あちこちに言いふらしています。
自分は無職なので、樹里が誇らしくて仕方がないようです。
「無職じゃねえよ!」
仕事はなくても、私立探偵のふりをしているので、無職ではないと主張する左京です。
「かはあ……」
地の文の鋭い指摘に血反吐を吐いて、悶絶する左京です。
「いってらっしゃい、ママ!」
瑠里は、樹里が会長になったのを知り、大喜びしています。
「いってらっしゃい、ママ!」
次女の冴里もよくわかってはいないのですが、大喜びしています。
そして、恒例の謎のダンスを踊って、樹里の会長就任を祝いました。
それを見て、ベビーカーの三女の乃里も笑顔全開です。
(その踊り、外ではしないで欲しい)
左京は引きつり全開で思いました。
「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」
そこへ昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。
「樹里様、保護者会の会長就任、おめでとうございます」
眼鏡男がどこで掠め取ってきたのか、花束を樹里に渡しました。
「買ってきたのですよ! そのボケはもう何度もされているので不愉快です!」
眼鏡男は身体を震わせて地の文に抗議しました。
「ありがとうございます」
樹里は笑顔全開で受け取りました。
「花瓶に生けておくよ」
手慣れた感じで、元夫が花束を預かりました。
「元夫じゃねえよ!」
地の文の細かいボケも見逃さない左京が切れました。
「では参りましょう、樹里様」
眼鏡男達は樹里を囲むようにして歩きました。
「るりちゃん、おはよう」
今度は瑠里のボーイフレンドのあっちゃんが集団登校の子達と一緒に現れました。
「あっちゃん、おはよう!」
とびきりの笑顔で応じる瑠里を見て、左京は涙ぐみました。
自分にはあんな笑顔を向けてくれた事がないと。
「くへえ……」
心の中を見抜いた地の文のせいで、息が止まりそうになる左京です。
「パパ、いってくるね!」
瑠里はごく普通の笑顔で左京に言うと、小学校へと向かいました。
「ううう……」
瑠里は自分より、あっちゃんの事が好きなんだ。
左京は悲しみのあまり、死のうと思いました。
「思わねえよ!」
妄想が酷い地の文に更に切れる左京です。
その頃、由子はドラマの撮影のためにテレビ局のスタジオに来ていました。
「おはようございます」
作り笑顔全開でプロデューサーに挨拶する由子です。
「作り笑顔じゃないわよ!」
本当の事を言っただけの地の文に切れる由子です。
「竹林さん、残念でしたね」
プロデューサーが言ったので、由子はキョトンとして、
「え? 何ですか?」
不思議そうな顔で尋ねました。するとプロデューサーは声を低くして、
「小学校の保護者会で、会長に立候補したそうじゃないですか」
その言葉に由子は仰天しましたが、何とか平静を装って、
「どうしてご存知ですの?」
顔をヒクヒクさせながら訊きました。プロデューサーは更に声を低くして、
「御徒町樹里さんのご主人が、あちこちで触れ回っているらしいですよ。確か、竹林さんは一票しか入らなくて、後の残りは全部樹里さんに投票されたんだとか」
由子は今にも叫んでしまいそうなくらい怒り狂っていました。しかし、どうにか我慢して、
「まあ、私はドラマの撮影で忙しいですから、ちょうどよかったですわ」
思い切り負け惜しみの事を言いました。
「樹里さんのご主人は他にも、会長の選挙ではなくて、人気投票だったのかも知れないと言っているらしいですよ」
プロデューサーが由子の堪忍袋を切ってしまう事を言いました。
「キイイイイ! 御徒町樹里、もう何があっても絶対に許さないわ! あのポンコツの夫ともども、思い知らせてやるんだから!」
由子は周りにスタッフや共演者がいるのも構わず、叫び続けました。
「た、竹林さん、落ち着いて!」
自分でけしかけるような事を言っておいて、今更な事を言い出すプロデューサーです。
その後、由子はしばらく樹里に対する悪口雑言を捲し立て続けました。
(樹里さんに知らせないと!)
それを見ていた元意地悪女優の貝力奈津芽は思いました。
「元意地悪女優じゃないわよ!」
地の文のいつものボケに切れる奈津芽です。
はてさて、面白い事になって来たとほくそ笑む地の文です。