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樹里ちゃん、保護者会で役員に選ばれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は、長女の瑠里が小学校に入学したので、保護者会に出席しました。


 暇を持て余している不甲斐ない夫の杉下左京が出席すればいいと思う地の文ですが、生まれついてのスケべなので、他の生徒のお母さん方にセクハラをするといけないので、樹里が出席しました。


「違う! 断じて違う!」


 血の涙を流して猛抗議する左京です。全体を通して聞けば、そうではない事がわかるのでしょうか?


「誰が前○務○官だ!」


 左京が、訴えられる可能性があるような不適切な発言をしたので、すぐに伏字で対応する地の文です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


「それでは、保護者会の総会を開催致します」


 前年、無理やり会長を引き受けさせられ、ようやくその仕事から解放されるのでホッとしている母親が司会を担当するのが慣例となっています。


(今年は、やりたがっている人がいるのだけど……)


 苦笑いしてチラッとちくりんさんを見ました。


竹林たけばやしよ!」


 名前ボケをしつこくする地の文に激ギレする竹林由子です。


(やりたい人がやればいいと思うけど、あの人にはやらせたくないなあ)


 そんな事を思っているので、すぐに由子に教えようと思う地の文です。


「やめて!」


 涙ぐんで地の文に懇願する司会者です。ちょっとだけ可愛いので、やめる事にした地の文です。


「議事を進行する前に、会長と副会長、それから書記、会計を選んでいただきたいと思います」


 司会者のその言葉によって、会場となった体育館の中がざわつきました。あちこちでヒソヒソ話が始まります。


「では、まず会長ですが、どなたか引き受けてくださる方はいらっしゃいますか?」


 私はもう関係ないという笑顔で出席者に問いかける司会者です。


 不思議な事にやりたいはずの由子は手を挙げません。ボケてしまったのでしょうか?


「違うわよ! やりたがりだって思われたくないからよ!」


 地の文の深読みを全力否定する由子です。


(やっぱり、自分から手を挙げるって、ないのよね)


 司会者はまたチラッと由子を見ました。


(指名しなさいよね!)


 その途端、由子が猛アピールしてきました。目をそらしたくなる司会者ですが、そんな事をしたら後で大変な事になるので、できません。


「それでは……」


 司会者が由子を指名しようとした時でした。


「はい」


 何と樹里が手を挙げました。ギョッとして樹里を見る由子です。他の保護者達も一斉に樹里を見ました。


「ええと、確か、あの、女優の御徒町樹里さんですよね?」


 司会者はまさか手を挙げる人がいるとは思っていなかったので、言葉に詰まりながら尋ねました。


「いいえ、違います」


 樹里は笑顔全開で言いました。司会者は唖然としました。また体育館の中がざわつきました。


「杉下樹里です」


 樹里は笑顔全開で本名を言いました。一瞬、凍りつく司会者ですが、


「そうでしたね。杉下樹里さん、会長を引き受けてくださるのですか?」


「はい。皆さんが嫌がる事を進んでしなさいというのが、母の教えですから」


 樹里が笑顔全開で言うと、他の保護者達はバツが悪くなって俯きました。


「はい!」


 すると、由子が鬼の形相で挙手しました。


「え?」


 その顔を見てビクッとしてしまう司会者ですが、


「あ、竹林さんも、会長を引き受けてくださるのですか?」


 何とか尋ねました。由子は勝ち誇った顔で、


「当然ですわ。私の長女は、この小学校に六年お世話になっていますのよ? そのご恩を返さなければなりません」


 そして、樹里をキッと睨みつけました。


「そうなんですか」


 しかし、全然気にしていない樹里は笑顔全開で応じました。また体育館がざわつきました。


(前代未聞だわ。会長に二人も手を挙げるなんて、どうすればいいの?)


 司会者は出席者の一人である校長先生を見ました。校長先生は立ち上がって、


「では、多数決で決めたら如何でしょうか?」


 当たり障りのない事を言うバーコードです。


「やめろ!」


 誹謗中傷をした地の文に切れる校長先生です。


「そ、そうですね。では、多数決で決めたいと思います」


 司会者は由子と樹里を順番に見て言いました。


「結構ですわ」


 勝てる気満々の由子は、またドヤ顔で応じました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 最初は、挙手で決めようとしましたが、多くの人が反対したので、急遽、投票する事になりました。名前を書くと誰が誰に入れたのかわかってしまう恐れがあるので、赤と青の札を箱に入れる方法に決まりました。


 校長先生と教頭先生の犬猿に中の二人が立会人となりました。


「そ、そんな事はないですよ」


 動揺しながら、否定する校長先生と教頭先生です。


 そして、投票が始まりました。


(私はこの小学校に六年も娘を通わせていて、今年から二人目の娘も通い始めたのよ。圧勝だわ)


 由子はニヤリとして樹里を見ましたが、樹里は居眠りをしていました。


(ムカつくー!)


 このような状況で眠ってしまう樹里に怒り心頭の由子です。


 投票が終わり、開票作業が始まります。


 昨年の役員だった人達が手分けをして、赤の札と青の札を数えていきます。


 赤の札が樹里、青の札が由子です。


「あれ?」


 青の札を数えようとした人が首を傾げました。


(数えるまでもないな)


 その人は赤の札を数えている人に目で合図しました。


「あ」


 赤の札を必死になって数えていた人は、青の札の数を見て手を止めました。


「え?」


 開票結果を覗いた由子は、目を疑いました。


(青が一枚?)


 そうです。由子に投票したのは、自分だけだったのです。


「今年度の会長は、杉下樹里さんにお願いする事になりました」


 司会者が宣言しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(御徒町樹里、このままでは済まさないわよおおお!)


 怒りで身を震わせる由子です。


 


 めでたし、めでたし。

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