樹里ちゃん、瑠里達に安心する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
長女の瑠里がいじめの標的にされているらしいと知らされた樹里でしたが、瑠里を信じて特別に何もしませんでした。
ところが、不甲斐ないおじさんは、自分の存在感を増すために瑠里を護衛しようと動きました。
「おじさんじゃねえよ! 夫! それか、父親!」
面白がっている地の文に涙目で切れる不甲斐ない夫で情けない父親の杉下左京です。
「かはあ……」
まさかのダブルダメージのせいで、のけぞって苦しむ左京です。
「そうなんですか」
それにも関わらず樹里は笑顔全開で応じました。
瑠里の登校を見守ろうとして、次女の冴里と三女の乃里を保育所に送り届けた左京は、急いで瑠里達を追いかけましたが、前日に不審者情報が出たので通学路を変更して別ルートで向かっていたため、追いつく事ができず、途中で無念の最期を遂げました。
「死んでねえよ!」
つい自分の希望を言葉にしてしまう地の文に切れる左京です。
途中で意識を失ってしまった左京は、その時そばにいた瑠里の同級生のまりちゃんの母親が救急車を呼んでくれたので、残念ながら助かってしまいました。
「悪かったな!」
地の文の軽い冗談に激ギレする心が狭い左京です。
只の貧乏だと診断され、すぐに病院を出た左京は、暇に任せて小学校に向かいました。
「貧乏じゃねえよ! 貧血だよ!」
普段運動不足なのに、無理して走り続けたのが死因でした。
「死因じゃねえよ! 原因だよ!」
今回も自分が主役扱いなので、嬉しそうに切れる左京です。
「くふ……」
図星を突かれ、息が止まりそうになる左京です。
安心してください。貴方の出番はここで終わりです。
「何ー!?」
突然の降板通告に仰天する左京です。
「勘弁してください」
降板の二文字に弱い左京は地の文に土下座して謝りました。
「では樹里様、お帰りの時にまた」
昭和眼鏡男と愉快な仲間達は敬礼しました。彼らもこれで出番終了でしょうか?
「降板は嫌です!」
慌てて抗議する眼鏡男達です。
貴方達は次回も出番がありますよ。
「ホッとしました」
眼鏡男達は安心した表情になり、立ち去りました。
「ありがとうございました」
樹里は深々とお辞儀をして、見送りました。
「樹里さん、おはようございます」
もう一人のメイドの目黒弥生が門の前で待っていて、樹里に挨拶しました。
「おはようございます、弥生さん」
樹里は笑顔全開で応じました。弥生は辺りを窺うようにして、
「瑠里ちゃん、大丈夫ですか? 首領の話だと、いじめのターゲットにされているとか?」
小声で尋ねました。
「大丈夫ですよ」
樹里は弥生の耳元で同じく小声で言いました。
「ああん」
首領のおばさんと同じように耳が弱点の弥生は、ギリギリの声を出しました。
「おばさん言うな!」
五反田邸のどこかで聞きつけて切れる有栖川倫子ことドロントです。
「もう、樹里さん、くすぐったいですよお」
本当は嬉しかったのに嫌そうに言う弥生ですが、すでに樹里は邸の玄関を通り、中に入っていました。
「樹里さーん!」
涙ぐんで樹里を追いかける弥生です。
一方、瑠里は特に何もなく、小学校に着きました。
「あっちゃん、またね!」
ボーイフレンドの淳と廊下で別れると、淳は一組、瑠里は四組の教室に入りました。
(すぎしたるり、いつかおもいしらせてあげるわ)
そんな瑠里を柱の陰から睨んでいるのは、ちくりんまくらです。
「たけばやしさくらよ!」
以前からその名前ボケを頻繁にされているために切れ方が尋常ではない竹林咲良です。
(ああ、また竹林さんが杉下さんを睨んでいるわ。あの二人、何があったのかしら?)
二人を廊下の角で見ている一年四組の担任で学年主任の内村亜希子先生です。
(見なかった事にしましょう)
内村先生は名案だとばかりにポンと手を叩くと、一年四組の教室へと向かいました。
典型的な事なかれ主義の教師だと思う地の文です。
「うるさいわね! 保護者会に知れたら、大変なのよ!」
誰もいない方を見て叫んでいる内村先生をごま塩頭の教頭先生が見ていました。
(内村先生、美人で優秀なのに、イタイ人なのか?)
早速、自分の出世のために教育委員会にチクろうと思う教頭先生です。
しかし、世の学園ドラマの大半で嫌な役回りが多いので、教頭先生も大変だと思う地の文です。
「そうなんだよ。一つくらい教頭がいい役で、校長が悪役な学園ドラマがあってもいいと思うんだよね」
内村先生と同じように誰もいない方に向かって愚痴を言う教頭先生です。
「なるほど、教頭先生のお考え、よくわかりました」
それをしっかりと聴いているバーコード頭の校長先生です。
「はわわ!」
教頭先生は仰天して飛び退きました。不敵な笑みを浮かべて歩き去る校長先生です。
「校長、待ってください! 今のはですねえ……」
嫌な汗をしこたま掻きながら、校長先生を追いかける教頭先生です。
樹里はその日一日の仕事を終えて、帰宅しました。
「では、明日の朝にまた」
敬礼して立ち去る眼鏡男達です。
「ありがとうございました」
樹里は深々と頭を下げて応じました。
「ママ、おかえり!」
瑠里と冴里が玄関から出てきて出迎えました。
「只今、瑠里、冴里」
樹里は笑顔全開で応じました。そして、
「パパはお出かけですか?」
中を覗いて尋ねました。いつもは、樹里が帰ってくると、誰よりも早く飛び出してくるからです。
「パパはねてるよ。げんきないの」
瑠里が言いました。
「パパはおねえちゃんをたすけにいったんだよ」
冴里が言いました。すると瑠里は、
「そうなの? しらないよ」
左京が聞いたら、ショックを受けそうな事を言いました。
「パパはきっと、瑠里と冴里を助けるために頑張ったから、疲れたのですよ」
樹里が言うと、瑠里と冴里は、
「そうなんですか」
笑顔全開で応じました。
「さあ、夕ご飯の支度をしますから、二人共、手伝ってくださいね」
樹里は瑠里と冴里を促して玄関に入りました。
「はい、ママ!」
瑠里と冴里は元気よく笑顔全開で応じました。
めでたし、めでたし。