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樹里ちゃん、瑠里の入学式に出席する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、百貨店を訪れた樹里は、居合わせた客に元女優である事を気づかれ、騒ぎになりました。


 しかし、樹里の神対応のお陰で、百貨店も迷惑する事なく、無事に長女の瑠里の入学準備の買い物をすませました。


 その間、全く役に立たなかった不甲斐ないだけの夫の杉下左京です。


「くふわ……」


 地の文に図星を鋭く抉るように突かれたので、息も絶え絶えになる左京です。


 


 そして、遂に瑠里の入学式の日が来ました。


 ハイテンションの瑠里と違い、次女の冴里は元気がありません。


 ずっと一緒に保育所に通ったお姉ちゃんが違うところに行くからです。


「さーたんもいっしょにいく!」


 泣きながら言いましたが、


「ダメです」


 真顔全開の樹里が告げたので、


「はい、ママ」


 顔を引きつらせて泣き止む冴里です。


(樹里、時々怖過ぎる)


 左京はビビり過ぎて漏らしてしまいました。


「漏らしてねえよ!」


 事実をありのままに述べた地の文に切れる左京です。


「冴里はパパと保育所に行くのですよ。それから、今日から一緒に、阿里が保育所に行きますよ」


 樹里が笑顔全開で新情報を告げると、冴里は、


「そうなんですか」


 笑顔全開で応じました。すると今度は瑠里が、


「いいなあ、さーたんは。るりもいっしょにいきたいな」


 我が儘を言いかけましたが、樹里が真顔で見たのに気づき、


「とおもったけど、しょうがっこうにはみりおねえちゃんがいるから、いいや」


 慌てて軌道修正しました。


 実里は樹里の姉の璃里の長女で、阿里は璃里の次女です。


 実里は今年から小学二年生で、阿里は保育所の年中さんです。


「では、行って参りますね、左京さん、冴里」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「行ってらっしゃい」


 左京が言いました。


「いってらっしゃい、ママ」


 冴里は笑顔全開で言いました。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」


 そこへいつものように左京と同じくらい役に立たない昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


(例の件は、誰も知らない知られちゃいけないなのです)


 地の文の挑発には乗らず、痛みに堪えて頑張る眼鏡男達です。


 実は、世界犯罪者連盟壊滅に大いに貢献したので、左京とは違うと思っている眼鏡男達なのです。


「樹里様、瑠里様のご入学、おめでとうございます。これは我々からのほんのささやかなお祝いです」


 眼鏡男が樹里に花束を渡しました。


「そうなんですか。ありがとうございます」


 樹里が笑顔全開で応じたので、


「ありがとう、たいちょう」


 瑠里も笑顔全開で応じました。


「左京さん、花瓶に挿しておいてくださいね」


 樹里は花束を左京に渡しました。


 まるで離婚するみたいだと思う地の文です。


「やめろ!」


 シャレにならない事を言った地の文に血の涙を流して切れる左京です。


 ハッと我に返ると、樹里達はすでに小学校へと向かっていました。


「パパ、ちこくしちゃうよ!」


 冴里が仁王立ちでほっぺを膨らませて腕組みをしています。


「わかったっよお、冴里」


 左京はデレデレして、すぐに花束を玄関の花瓶に挿してきて、三女の乃里を乗せたベビーカーを押しました。


 乃里も遂に保育所に入所するのです。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「お前、何年経っても進歩がないな」


 左京に言っているかのように吠えました。


「おはようございます」


 しばらく進むと、璃里が阿里と手を繋いで現れました。


「おはようございます、お義姉さん」


 本日一番の笑顔で璃里に挨拶するスケベです。


「スケベじゃねえよ!」


 深層心理を見抜いた地の文に激しく動揺しながら切れる左京です。


「おはようございます、左京さん」


 一周り以上年上のおっさんに「お義姉さん」と呼ばれて、複雑な表情で応じる璃里です。


「おっさん言うな!」


 一番気にしている事を明確に言ってしまう地の文に更に切れる左京です。


「さーたん!」


「あーたん!」


 阿里と冴里はしばらくぶりの再会を幼児なりに喜び合いました。


 冴里は、以前瑠里と覚えた奇妙なダンスを踊って、喜びを表現しました。


 阿里がそれを見て凍りつき、璃里も顔を引きつらせました。


「さーたん、急ごうか」


 場の空気がどんよりしたのに気づいた左京が、慌てて冴里を止めました。


「うん!」


 ダンスをやり切ったのか、冴里は満足そうに頷きました。


(今の踊り、何かしら? お母さんが教えたの?)


 璃里は、基本的に悪い事は皆母親の由里が出どころだと思っています。


 大体それで当たっていると思う地の文です。でも、ダンスは保育所発です。


 


 一方、樹里達は何事もなく、小学校に到着しました。


「では、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。周囲の父兄達が警戒心マックスで見ているのも気づいていません。


 樹里が瑠里の手を引いて校庭を歩いていくと、他の児童の父親達が一斉に樹里を見ました。


「あれ、もしかして、女優の御徒町樹里さんでは?」


「ああ、そうだ。樹里さんだ!」


 女性の保護者の皆さんの軽蔑の眼差しを物ともせずに、父親達は樹里に駆け寄りました。


「御徒町樹里さんですよね? 今でもファンです」


「握手してください」


「サインをこのシャツにしてください!」


 目の色が変わってしまった父親達が樹里に詰め寄りましたが、


「本日はそういう事はご遠慮願います。他の児童や父兄の皆さんに迷惑ですので」


 校長先生を始めとする教職員で構成する樹里親衛隊がそれを遮りました。


 仕方なく引き下がる父親達ですが、


(帰りにサインと握手だ)


 ストーカー規制法違反で捕まえて欲しいと思う地の文です。


「杉下樹里さん、瑠里さん、こちらへどうぞ」


 樹里が有名な女優だったのを知っている保護者会と職員達が、万全の態勢を取ってくれたので、樹里と瑠里は無事に入学式に出席できました。


 波乱の予感がする地の文です。

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