樹里ちゃん、更に殺し屋に狙われる
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里が命を狙われている事を知った五反田氏が動きました。
警視総監に会って、護衛を強く要請しました。
すると、普段なら、実行までに長い時間がかかるはずなのに、次の日には御徒町樹里護衛計画が立案され、警視庁でも指折りの精鋭からなるSPが結成されました。
しかし、そのメンバーを見て、五反田氏は拒否しました。
「どうしてですか? このメンバーは外国の要人の護衛も務めたエリートですよ」
警視総監は五反田氏が嫌がらせをしていると思いました。
「理由をお聞かせください」
憤然として五反田氏に告げる警視総監です。でも、声は○井一郎さんではありません。
「これを見てください。世界犯罪者連盟の内部資料です」
五反田氏はアタッシュケースから分厚い冊子を取り出して、テーブルの上に置きました。
「ええ?』
世界犯罪者連盟の構成員が掲載されている連盟発行の資料です。
「何故、このようなものをお持ちなのですか?」
警視総監は不審そうな目で五反田氏に尋ねました。五反田氏は、
「それは申し上げられません。ですが、私がSPのメンバーを拒否した理由は、この中にあります」
警視総監はハッとして、資料を開いて見ました。
「まさか!?」
そこには、警視庁のエリートと言われている人達の写真と経歴が数多く載っていました。
「何という事だ……」
警視総監はそれを見て万歳三唱しました。
「誰が白○だ!」
某協会をディスる地の文に切れる警視総監です。
「これが真実だとすると、一体警視庁はどうなってしまうのですか?」
警視総監は悔しそうに資料を睨んだままで言いました。
「大掃除をするしかないでしょう。私も協力しますよ、総監」
五反田氏が微笑んで言いました。
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じる警視総監です。
その頃、日本のどこかにあると言われている世界犯罪者連盟の支部の一室で、幹部である野矢亜剛が部下達を集めて会議を開いていました。
「我が連盟のコンピュータが何者かによってハッキングされて、情報が流出したようです。実行犯と首謀者を突き止め、必ず始末しなさい」
普段はおとぼけフェイスの野矢亜が感情剥き出しで命じました。
「ポーカーフェイスですよ」
冷たい声で地の文に切れる野矢亜です。そのせいでちびってしまった地の文です。
「まあ、大方の予想はついているのですがね。我が連盟に楯突く愚か者の正体はね」
目を細めて言い添える野矢亜です。まさかとは思うのですが、大村美紗先生でしょうか?
「違いますよ」
野矢亜は食い気味に否定しました。
そうですね。大村先生にはそれ程の知識も能力も勇気もありませんね。
「私の事をバカにしている声が聞こえるけど、全部幻聴なの! 相手にしてはいけないのよ!」
自宅の寝室で、布団をかぶったままで絶叫する大村先生です。
でも現在は、慰めてくれる娘のもみじはおらず、病状が悪化しそうな予感がする地の文です。
(ドロント一味。侮っていました。ですが、次は必ずお礼をさせてもらいます)
フッと笑う野矢亜です。
「という訳で、自分が護衛につく事になりました」
笑顔全開で、樹里の家の前で告げる加藤真澄警部です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じましたが、
「納得がいかねえ! どうしてお前が樹里の護衛なんだ!? 別の意味で危険だから、俺は断固拒否する!」
知らないおじさんが怒り心頭で怒鳴りました。
「樹里の夫の杉下左京だよ!」
地の文のモーニングジョークに激ギレする左京です。
「警視庁には世界犯罪者連盟のメンバーがたくさん潜入しているんだよ! だから、消去法で俺になったんだよ!」
怖い顔を更に凶悪化させて左京に詰め寄る加藤警部です。
「蘭はどうしたんだ!? 平井警部補は!?」
左京が詰め寄り返しました。
「平井警部は、具合が悪くなって入院したんだよ。平井警部補はその付き添いだ!」
加藤警部が盛り返して怒鳴りました。
「どうしてこのタイミングで入院するんだよ!」
やり場のない怒りをどこにぶつけたらいいかわからない左京が地団駄踏みました。
「よろしくお願いします、加藤さん」
左京の思いなど微塵も気にしていない樹里が笑顔全開で言いました。
「そうなんですか」
加藤警部は笑顔全開、左京は引きつり全開で応じました。
「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」
そこへ久しぶりに登場した役立たず集団の皆さんです。
「フッ。何を言われても、動じませんよ」
気取った様子で応じる昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。
その反応に何となく悔しい地の文です。
「では、参りましょうか、樹里さん」
加藤警部が樹里の手を取って言いました。
「バ加藤、馴れ馴れしく樹里に触るな!」
左京が嫉妬丸出しで叫びました。しかし、加藤警部は、
「護衛のためだよ。黙っとけ、嫉妬大魔王」
余裕の返しで左京を見ました。
「うおおお!」
悔しさのあまり、雄叫びをあげる左京です。
「では、行って参りますね」
樹里はそんな左京の一人コントを無視して笑顔全開で出かけました。
「いってらっしゃい、ママ!」
長女の瑠里と次女の冴里は笑顔全開で応じました。
そして、いつも通り、樹里は無事に五反田邸に到着しました。
「では樹里様、お帰りの時にまた」
眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。
「自分はこのまま引き続き樹里さんの護衛につきます」
加藤警部は樹里の代わりに三女の乃里が乗っているベビーカーを押して庭を進みました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「樹里さん、おはようございます」
そこへもう一人のメイドの目黒弥生が走ってきました。
「ご苦労様です、加藤警部」
弥生が挨拶しました。
「いえ、任務ですから」
加藤警部は真顔で応じました。
三人は玄関に入り、ロビーを進みました。
樹里は乃里に授乳を済ませて、ベッドに寝かしつけると、メイド服に着替えるために更衣室に向かいました。
「自分はドアの前で見張ります」
加藤警部が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じて、更衣室に入りました。
「私は仕事に戻ります」
弥生は奥へ行きました。加藤警部はそれを見届けると、周囲を見渡しました。そして、更衣室のドアを開き、中へと入ろうとしました。
「待て、こら」
するとそれを肩を掴んで止める者がいました。
「何をする!?」
加藤警部が怒りの形相で振り返ると、そこにはもう一人の脱獄囚がいました。
「どうしてお前がここに?」
ドアを開けた加藤警部が言いました。すると脱獄囚はニヤリとして、
「有栖川先生が助けてくれたのさ」
得意げな顔で言い返しました。
「ちなみに俺は脱獄囚じゃねえよ!」
長い乗り突っ込みをする加藤警部です。
「俺になりすまして樹里さんを襲撃するつもりだったんだろうが、生憎だったな」
どうやら本物らしい加藤警部が言いました。
「おのれ!」
加藤警部になりすましていた男は脱獄囚の仮面を剥いで、正体を見せました。
加藤警部とは種類の違う脱獄囚顔です。
「うるさい!」
異口同音に地の文に切れる加藤警部と偽者です。
「おりゃああ!」
加藤警部は一瞬の隙を突いて、偽者を投げ飛ばしました。
「最初からバレバレだったわよ、偽者さん」
そこへおばさんが登場してドヤ顔で言いました。
「おばさん言うな! 有栖川倫子よ!」
地の文の鉄板のボケに切れる倫子です。
「何だと?」
加藤警部に押さえつけられて倫子を睨む偽者です。
「加藤警部は、樹里さんの手を握ったりできないくらいの樹里さん信者なのよ。それに、弥生にも憧れを抱いているから、挨拶なんかされたら、動転してしまうし、左京さんに『バ加藤』って言われたら、激怒するのよ。詰めが甘かったわね」
倫子の解説に偽者は悔しがりましたが、本物は赤面して顔が破裂しそうです。
(美人の有栖川先生に罵られているようで、すごく嬉しい!)
変態的な事を考えていた加藤警部です。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。
めでたし、めでたし。