樹里ちゃん、警視庁に護衛される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
世界犯罪者連盟に本格的に狙われてきた樹里は、警視庁の鼻つまみ者達に護衛をされています。
「鼻つまみ者じゃないわよ!」
正しい表現をしたはずの地の文に切れる平井蘭警部です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、笑顔全開で応じる樹里です。
「どうしてマスミンが樹里ちゃんの護衛をするのよ?」
タイミングが悪い事に、樹里の不甲斐ない夫の杉下左京の名ばかりの探偵事務所に夕飯にありつこうと思って居座っていたありさが、加藤真澄脱獄囚に詰め寄りました。
「あれこれとうるさい!」
複雑なボケをかました地の文に同時に切れる左京とありさと加藤警部です。
「課長の命令だ。文句があるなら、課長に言え」
加藤警部は業務命令を口実に樹里と仲良くなろうと考えていました。
「ち、違うぞ!」
名推理をした地の文に狼狽えて切れる加藤警部です。
「うん、わかった、課長に言ってみる」
ありさが本当に警視庁捜査一課長に電話をかけようとしたので、
「やめろ!」
慌てて止める加藤警部です。
「樹里の護衛は女性のSPがするから、ありさは余計な心配はしないで」
おもろい夫婦の漫才を呆れ顔で見ていた蘭が言いました。
「そうなんですか」
加藤警部はがっかりして樹里の口癖で応じました。
「マスミン!」
それに気づいたありさが加藤警部の耳を思い切りひっぱりました。
「いででで!」
加藤警部は涙ぐんで叫び、ありさに引きずられるようにして、樹里の家を出て行きました。
「よろしくお願います」
樹里の前に若い女性のSPが現れて、頭を下げました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「左京の護衛は、彼がするわ」
蘭の声に応じて、大柄な若い男が現れました。
「樹里の護衛は、七尾未来警部補。左京の護衛は樋口涼介巡査部長」
「よろしくお願いします」
左京は、お辞儀をした樋口巡査部長を見ずに七尾警部補を見て、
「よろしく」
エロい顔で応じました。
「そんな事はない!」
深層心理を見抜かれた左京が地の文に理不尽に切れました。
蘭とその夫である平井拓司警部補は、七尾警部補と樋口巡査部長に後を託して、帰って行きました。
「では、お食事を摂ってください。我々はすませてきましたので」
七尾警部補が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
左京は、食事中も、七尾警部補と樋口巡査部長の視線が気になり、ほとんど食べられませんでした。
このまま食べられないで、餓死してくれればいいのにと思う地の文です。
「うるせえ!」
思っただけの地の文に全力で切れ、皿を舐めるようにして完食した左京です。
「ではお風呂に入ってください。廊下で見張りますので」
樋口巡査部長が言いました。
「わかりました」
左京はそう言われて、緊張して浴室に向かい、入浴しました。
そして、できれば、七尾警部補が背中を流しにきてくれないかなと思いました。
「思ってないよ!」
本音をすっかり見抜かれた左京が地の文に切れました。
(何か、疲れた)
左京はぐったりして浴室を出ました。
「奥様は、お子さんとご入浴ですか」
七尾警部補が尋ねました。
「はい」
樹里が笑顔全開で応じると、
「では、ご一緒します」
その言葉に鼻血が出そうになる左京です。
「そ、そんな事はないぞ!」
地の文の推測を否定しながらも、上を向いている左京です。
鼻血が垂れそうになったからです。
「ううう……」
それは本当なので、否定できない左京です。
長女の瑠里と次女の冴里は、綺麗なお姉さんが一緒にお風呂に入るので、大喜びです。
「パパもいっしょにはいれば?」
悪気のない瑠里の一言に、
「そ、それはダメだよ、瑠里」
棒読みで答える左京です。それを白い目で見ている樋口巡査部長です。
「自分は廊下で見張ります」
樋口巡査部長は左京を睨みつけて言いました。
「そうなんですか」
引きつり全開で受理に口癖で応じる左京です。
樹里と瑠里と冴里は、何事もなく入浴を済ませました。
「さあ、寝ようか、瑠里、冴里」
左京は二人を子供部屋に連れて行きました。
いっしょに入ったお姉さんの事をいろいろ訊くつもりのようです。
「違う!」
また名推理を展開した地の文に涙目で切れる左京です。
「ご主人と奥様は別々のお部屋でお休みください」
七尾警部補が告げ、樹里は警部補と、左京は樋口巡査部長と客間に行きました。
「こちらでお休みください。自分が一晩中、警護します」
樋口巡査部長の有無を言わせない言葉に左京は無言で頷き、ベッドに入りました。
(くそ、気になって眠れやしない)
顔に似合わず神経質な左京はなかなか寝つけません。ところが、シューという音が聞こえて、煙のようなものが充満すると、たちまち眠ってしまいました。
それからしばらくして、客間のドアが音もなくゆっくりと開きました。
黒い影がフワッと部屋に入ってきて、刃渡り二十センチ程のナイフを振り上げました。
ナイフが左京に突き刺さる直前、何かがそれを弾き飛ばしました。
「くっ!」
左京を襲った影は後退りました。
「思った通りね」
そう言って、ベッドの下から現れたのは、五反田邸の住み込み石だった黒川真理沙ことヌートでした。
「お前は……」
影が更に狼狽えました。ヌートは部屋の明かりを点けて、
「観念しなさい、自称樋口涼介巡査部長。本名は知らないけど」
左京を襲ったのは樋口巡査部長でした。
「くそ!」
自称樋口巡査部長は、今度はヌートに襲いかかりました。
「はあ!」
ヌートの右回し蹴りが一閃して、自称樋口巡査部長は壁に叩きつけられ、そのまま床にずり落ちました。
「終わった?」
そこへおばさんが入ってきました。
「有栖川倫子よ! それかドロント!」
どこまでもボケまくる地の文に切れるドロントです。
「樹里さんは大丈夫ですか?」
ヌートが尋ねると、ドロントは肩をすくめて、
「あの自称七尾未来警部補が睡眠ガスを使ったけど、樹里さんには効かなくて、背負い投げでやられてしまったの。私の出る幕はなかったわ」
「そうなんですか」
ヌートは苦笑いして応じました。
ドロントとヌートは二人の刺客を縛り上げました。
それからしばらくして、左京が目を覚ましました。
そして、ドロント達に事情を聞かされて、驚きました。
「恐らく、警視庁にはもっと多くの世界犯罪者連盟の人間が潜り込んでいます。警視庁の人間は平井警部と平井警部補、それから加藤警部以外は信用できないですよ」
ヌートが言うと、
「そうなんですか」
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開、左京は引きつり全開で応じました。
「でも、そうなる前に、私とヌートでけりをつけます」
ドロントが真顔で言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開ですが、左京はドロントに見とれて赤面全開です。
めでたし、めでたし。