樹里ちゃん、ドロント一味に感謝する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
世界犯罪者連盟から命を狙われている樹里は、おばさん一味によって助けられています。
「おばさん言うな!」
年齢に過敏過ぎて肌荒れが気になってきている有栖川倫子こと怪盗ドロントが地の文に切れました。
ドロントとその部下である黒川真理沙ことヌートは、樹里に別れを告げ、レッサーパンダの母親には真っ当に生きるように言って、姿を消しました。
「レッサーパンダの母親じゃないわよ! そっちは風太! 私の子供は颯太!」
ちょっとしか違わない名前なのに、激ギレする情緒不安定な目黒弥生ことキャビーです。
「大違いよ!」
弥生は更に地の文に切れ、同じ「そうた」でも「聡太」の方が理知的で評判もいいので、改名したいと思いました。
「思ってないわよ!」
聡太君を間接的にけなして切れる弥生です。
「け、けないしてないわよ!」
次々に新記録を打ち立てた「聡太君」に恐れをなしてビビる弥生です。
(首領、ヌートさん、ありがとうございます)
弥生は口では一緒に行きたいような事を言いましたが、夫の祐樹と息子の颯太との安定した贅沢な生活を捨てるつもりは最初からありませんでした。
「言い方! 言い方ってものがあるでしょ!」
核心を突いてしまった地の文に酷く動揺して切れる弥生です。
「そうなんですか」
警視庁の平井蘭警部から連絡を受けて、護衛の車の迎えを待っている樹里が、笑顔全開で応じました。
ベビーカーの三女の乃里も笑顔全開です。
二人は、メイドの休憩室にいます。
五反田氏の妻の澄子と一人娘の麻耶は、倫子のアドバイスで邸には戻らず、五反田グループの警備会社の最上階に匿われています。
要するに、邸の警備をしている警備員さん達は、弥生のパンチラに夢中で、業務が疎かだからです。
「違います! より安全な我が社のビルに移っていただいたのです!」
地の文の指摘に反論する警備員さん達ですが、心なしか涙目で、この措置に不服があるようです。
早速、五反田氏に報告しようと思う地の文です。
「余計な事をしないでください!」
正義感が強い地の文に懇願する警備員さん達です。
その時、ドアフォンが鳴りました。
「はい」
樹里がすぐに受話器を取って応じました。
「警視庁の方から来ました」
男性の声が応じました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じて、ベビーカーを押して、玄関へと向かいました。
(何か変)
弥生は泥棒の感が働き、樹里を追いかけました。
「樹里さん、出ちゃダメです!」
玄関のドアを開けようとしている樹里に大声で言いました。
「そうなんですか?」
樹里が首を傾げて振り返った時、いきなりドアが銃弾で撃ち抜かれました。
「樹里さん、物陰に隠れてください! 敵の殺し屋です!」
弥生は樹里とベビーカーを庇うようにして、ロビーを奥へと駆けました。
次の瞬間、ドアが蜂の巣にされて蹴破られ、自動小銃を構えた大柄の男が入って来ました。
(形振り構っていられなくなったのね)
弥生は樹里とベビーカーを廊下の角へ押し込むと、大男に向かって走り出しました。
それを見た大男はニヤリとして、自動小銃を掃射しました。弥生はそれよりも速く走り、大男の懐に飛び込むと、右後ろ回し蹴りを決めました。
「ぐはっ!」
大男は左側頭部を蹴り飛ばされて、もんどりうって仰向けに倒れました。でも、パンチラを見られたので、満足です。
「パンチラなんかしてないわよ」
弥生はメイド服のスカートを捲り上げました。その下は、スパッツでした。
がっかりした地の文です。
「あんたも見たかったんじゃないの!」
身震いして地の文を気色悪がる弥生です。
「さてと」
弥生は大男が完全に意識を失っているのを確認すると、自動小銃を取り上げて、乱射しました。
「しないわよ!」
捏造大賞を狙っている地の文に切れる弥生です。
「大丈夫ですか?」
そこへ見計らったように現れる全然役に立たない警備員さん達です。
「ううう……」
オブラートに包んだ言い方ができない地の文のせいで項垂れる警備員さん達です。
「私が、手出ししないでって言っておいたのよ!」
何故か弥生が警備員さん達を庇いました。いつもパンチラを狙っているのに、優しい弥生です。
「狙っていません!」
涙ぐんで地の文に抗議する警備員さん達です。でも、今日は弥生がスパッツを履いていたのをがっかりしたのは内緒です。
「内緒にしてください!」
結局は全部喋ってしまう地の文に血の涙を流して懇願する警備員さん達です。
(男って奴は……)
それを白い目で見る弥生です。
「弥生さん、ありがとうございました」
樹里がベビーカーを押して来て、お礼を言いました。
「これくらいじゃ、樹里さんに受けた恩はまだまだ返せていませんから」
目を潤ませて言う弥生です。そこへようやく、警視庁のパトカーがやって来ました。
「遅くなりました、樹里さん」
登場したのは、脱獄囚でした。
「違う! 加藤真澄警部だ!」
いつもの地の文のボケに身分証を提示して切れる加藤警部です。
「遅くなったのですか?」
樹里が笑顔全開で加藤警部に尋ねました。
「いや、そういう事ではないのですが……」
元々、樹里の大ファンである加藤警部は、樹里の鉄板ボケにも嬉しそうに応じました。
すぐに妻のありさにメールをしようと思う地の文です。
「やめろー!」
真剣な表情で地の文に切れる加藤警部です。
(そうでなくても、樹里さんの護衛をした事を知られたりしたら、大揉めになるんだよ)
嫉妬深いありさに苦労している加藤警部です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。
一方、平井蘭警部は、夫の平井警部補と共に樹里の長女の瑠里と次女の冴里を保育所で預かり、不甲斐ない夫の杉下左京が待つ家に送り届けました。
「すまない、蘭。申し訳ない、拓司君」
左京は上辺だけのお礼を言いました。
「心から言ってるよ!」
全てお見通しの地の文に切れる左京です。
「仕事だから、気にしないで」
蘭は左京に抱かれて安心して眠ってしまった瑠里と冴里を見て言いました。
「パトカーに乗せた時は、大喜びしていたんですけど、騒ぎ疲れたようですね」
平井警部補が爽やかな笑顔で告げました。
「あんた達は、必ず守るから」
蘭は真剣な目で言いました。左京は黙って頷き、
「取り敢えず、赤色灯止めてくれ。近所の人が集まって来ているから」
「ああ、ごめん」
蘭は苦笑いして応じました。外を見ると、たくさんの野次馬がいます。
(杉下左京、今日が娘達との最後の夜になる)
左京と蘭のやり取りを、電柱の陰から見ている黒尽くめでサングラスのあからさまに怪しい細身の男が見ていました。
まだ続くと思う地の文です。