樹里ちゃん、ドロント一味に完全に別れを告げられる
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
実は驚いた事に世界的大泥棒のドロント一味である有栖川倫子と黒川魔理沙は、世界犯罪者連盟との戦いをするために五反田邸を去る決意をしていました。
「今更何言ってるのよ?」
白々しい地の文に軽蔑の眼差しを向ける倫子です。そういう視線は大好物の地の文です。
「変態ね」
真理沙が罵ってくれたので、至福を感じる地の文です。
「首領、先日捕まえた二人が、留置場内で毒殺されました」
真理沙が告げました。倫子は眉間に元から寄っていたしわを更に寄せて、
「世界犯罪者連盟がやったのね?」
真顔で応じてから、
「眉間に元からしわはないわよ!」
きっちりと地の文に切れました。
「間違いないでしょうね」
真理沙も真顔で応じました。
「長井さんはお元気ですかね?」
突然樹里が会話に加わって来たので、
「ひ!」
小さく悲鳴をあげて飛び退く倫子と真理沙です。
「その間違いないではないです」
樹里のボケを拾って否定する真理沙です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じて、また掃除を始めました。
「樹里さん」
二階の掃除から戻って来たもう一人のメイドの目黒弥生ことキャビーが声をかけました。
「何ですか、キャビーさん?」
いきなりの名前ボケを放った樹里のせいで、階段から転げ落ちそうになる弥生です。
「私は目黒弥生です! キャビーなんていう名前、知りません!」
白々しい嘘を吐いて樹里に抗議する弥生です。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。弥生はまた二人で話している倫子と真理沙を見て、
(また私を置いてどこかへ行ってしまうつもりなんですね、首領)
弥生は勘違いをしているふりをして、倫子と真理沙の様子を伺っていたのです。
あれ? 何を勘違いしているのでしたっけ?
「二人でスキーにこっそり行こうとしているって勘違いしている設定なのよ!」
前回までのあらすじをど忘れした地の文に切れながら説明してくれる実は地の文の事が好きな弥生です。
「違うから!」
全力で否定されたので、全力でがっかりする地の文です。
「弥生さんは残ってくれるのですよね?」
樹里が真顔で尋ねました。弥生はビクッとして、
「な、何の事ですか?」
また白々しくとぼけました。
「有栖川先生と黒川先生は、お邸を出て行くらしいのです。弥生さんは残ってくれるのですよね?」
樹里は目をウルウルさせてもう一度尋ねました。
(ああ、樹里ちゃん……)
決して、そういう趣味はないのに、樹里のウルウル攻撃に落ちてしまいそうになる弥生です。
「私は……」
今度、倫子と真理沙が五反田邸を去る時には、必ず一緒に行こうと思っていた弥生ですが、夫の目黒祐樹、一人息子の風太を残していく事はできないと思いました。
「風太じゃなくて、颯太!」
懐かしのボケをかました地の文に嬉しそうに切れる弥生です。
「嬉しくなんかないわよ!」
図星を突いたはずの地の文に切れる弥生です。
「貴女は残りなさい」
そこへ倫子が来て言いました。真理沙がその後ろで頷いています。
「首領……」
弥生は涙を流して倫子を見ました。倫子は弥生を優しく抱きしめて、
「貴女には夫も子供もいるのよ。全てを投げ捨てて、私達と一緒に行く事はできないでしょ?」
倫子ももらい泣きしています。お化粧が落ちて正体がバレると思う地の文です。
「うるさいわね! 私はすっぴんにも自信があるのよ!」
倫子が地の文に切れました。それを白い目で見ている真理沙と弥生です。
「前にも言ったと思うけど、貴女はもう私達と住む世界が違うの。ここに残って、普通の生活を続けなさい」
泣きじゃくる弥生の肩を掴んで、微笑んで告げる倫子です。真理沙ももらい泣きをしています。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で涙を流していました。
「じゃあね。元気でね」
倫子と真理沙は樹里と弥生から離れました。
「旦那様には、直接お会いして話します。樹里さん、今までありがとうございました」
倫子は真理沙と一緒に頭を下げると、スッと姿を消しました。
弥生はその場にしゃがみ込み、大声で泣きました。樹里はそんな弥生を後ろから抱きしめました。
迂闊にも感動してしまい、ボケられない地の文です。
その頃、不甲斐ない夫の杉下左京は、無給で働いてくれている斎藤真琴とグウタラ所員の加藤ありさの二人と共に、警視庁の平井蘭警部からの連絡を待っていました。
「警視庁も、私がいなくなってから、随分ダメになったわね。留置場で殺人事件だなんて」
ありさが肩をすくめて暴言を吐きました。左京はありさを睨みつけて、
「お前がいても同じか、それより酷かったよ!」
「何よ、左京! 蘭の肩を持つ気? あんなに愛し合った事もあったのに!」
ありさの妄想劇場が始まりました。
「そうなんですか?」
真琴は目を見開いて思い切り真に受けています。
「違うよ! こいつとは何もないよ、斎藤さん」
酷く狼狽えて言い訳をする左京です。すると真琴は、
「じゃあ、蘭さんとは何かあったのですね?」
鋭い突っ込みを入れました。
「そ、そりゃあまあ、付き合っていた時はその……」
バカ正直に真相を話しそうになり、ハッと我に返る左京です。
「酷いわ、左京。蘭と二股をかけていたのね?」
嘘泣きをしてみせるありさに左京と真琴は白い目を向けました。その時、左京のスマホが鳴りました。
「蘭か? 何かわかったのか?」
左京が尋ねると、
「ええ。恐ろしい事がね」
「恐ろしい事?」
左京は偉そうに眉をひそめました。
「そんなつもりはねえよ!」
チャチャを入れるのが好きな地の文に切れる左京です。
「二人が毒殺されたのは、解剖の結果、確実になったのだけれど、毒物が全く検出されなかったわ」
蘭の言葉に左京は大笑いしました。
「違うだろ!」
某元議員さんの名台詞を真似て地の文に切れる左京です。
「どういう事だ?」
左京は更に尋ねました。
「つまり、証拠を残さない毒って事よ。今、科捜研に被害者の血液や臓器の一部を鑑定してもらっているわ」
蘭が言うと、
「沢口○子は忙しいんじゃないのか?」
あるドラマに便乗してボケる左京です。
「依頼したのは、警視庁の科捜研よ! その人は無関係!」
呆れながらも、昔のよしみできっちり突っ込んでくれる蘭です。
「そうなんですか」
樹里の口癖で応じる左京です。そして、ハッとなり、
「って事は、警視庁内に世界犯罪者連盟の人間がいるっていう事か?」
「そうなるわね。少なくとも、二人には外部の人間は一切接触していないから」
左京は思わずスマホを強く握りしめました。
「とにかく、あんたも気をつけて。樹里には、警視庁から護衛をつけるから」
「わかった。いろいろとありがとうな、蘭」
左京は照れ臭そうにお礼を言いました。
「どう致しまして」
左京は通話を終えて、スマホを机に置くと、
「斎藤さん、ありさ、しばらく事務所は休業する。危険だからな」
その言葉に、ありさと真琴は顔を見合わせました。
いよいよ次回は事件の核心に迫ると思う地の文です。




