樹里ちゃん、ドロント一味に今度こそ本当に別れを告げられる?
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
世界犯罪者連盟が動き、樹里達がピンチに陥ると陰ながら動いて助けてくれたおばさん一味がいます。
「だから、おばさん言うな!」
しつこい地の文に切れる有栖川倫子ことドロントです。もうすぐ四十路です。
「まだ四捨五入したら三十歳よ!」
年齢設定にはうるさい倫子が地の文に切れました。
唯一の自慢は、女優の綾瀬○るかと同い年だという事です。
だからどうしたと思う地の文です。
「いいでしょ、別に!」
プライドをズタズタにするのが好きな地の文に切れる倫子です。
「どうしたんですか、有栖川先生?」
そこへ五反田氏の愛娘である麻耶が現れました。ここは邸のロビーだと描写する地の文です。
「な、何でもないわよ、麻耶ちゃん」
倫子は慌てて作り笑いをして応じました。
倫子が来た頃は、まだ小学生だった麻耶ですが、今ではもう高校二年生で、身長も倫子を抜かし、スタイルも抜かしています。
「ううう……」
地の文のセクハラ発言に項垂れてしまう倫子です。
「先生」
麻耶が真顔で言いました。倫子はハッとして麻耶を見て、
「何、麻耶ちゃん?」
麻耶は照れ臭そうに、
「来年は、大学入試ですよね? 私、頑張って、はじめ君と同じ学部を受験しようと思っているんです」
はじめ君というのは、登場回数が少なくて、印象も薄い麻耶の名ばかりのボーイフレンドの事です。
「そうなの」
そこまで言われて、倫子は自分達がもうすぐ五反田邸を離れる事を思い出しました。
(麻耶ちゃん……)
いつかは話さなくてはならないと思う倫子ですが、決心が鈍りそうです。
「だから、今まで以上にビシビシ鍛えてください。はじめ君と離れ離れになるの、嫌なんです」
目を潤ませた麻耶に懇願され、倫子は困りました。
いっその事、貴女には無理だから諦めなさいと言えばいいと思う地の文です。
「そんな事、できる訳ないでしょ!」
血も涙もない地の文に切れる倫子です。
「わかったわ。カリキュラムを検討してみますね」
「よろしくお願いします」
麻耶は手を振って学校へ行きました。
「首領、いいんですか? 来年は私達、ここにはいませんよ」
そこへ住み込み医師の黒川真理沙ことヌートが現れました。倫子は溜息を吐いて真理沙を見ると、
「決心が鈍りそうよ。でも、そういう訳にはいかないのよね」
「そうなんですか」
いきなりベビーカーを押して樹里が登場しました。
「ひっ!」
思わず小さく悲鳴をあげて飛びのく倫子と真理沙です。
「おはようございます、有栖川先生、黒川先生」
樹里が笑顔全開で普通に挨拶しました。
「お、おはようございます」
顔を引きつらせて応じる倫子と真理沙です。
「お二人共、何を話していたんですか?」
不審そうな目で尋ねるもう一人のメイドの目黒弥生ことキャビーです。
「何でもないわよ。麻耶ちゃんが受験の相談をして来たので、話していただけよ」
倫子は澄まして応じました。真理沙も、
「そうよ。大学受験は今までより大変だから、有栖川先生に相談をされていたの」
ところが、弥生は、
「お二人共、嘘が下手ですね」
ムッとした顔で踵を返すと、立ち去ってしまいました。
思わず顔を見合わせてしまう倫子と真理沙です。
「また、弥生さんを置いて行ってしまうのですか?」
樹里が真顔で尋ねました。ビクッとする倫子と真理沙です。
「お二人の様子がおかしいと弥生さんが言っていました。やはりそういう事なのですね?」
真顔の樹里に詰め寄られて、緊張感が半端ない倫子と真理沙です。
「樹里さん、わかってください。あの子には、夫も子供もいるんです。巻き込む訳にはいかないんです」
倫子も真顔で返しました。
「そうなんですか」
樹里は悲しそうに応じました。胸が締め付けられる気がする倫子です。
「必ず、決着をつけます。そして、いつか、戻って来ますから」
真理沙が言いました。すると樹里は、
「そうなんですか?」
首を傾げて応じました。
「え?」
キョトンとする倫子と真理沙です。樹里は、
「お二人だけで、スキーに行くのではないのですか? 弥生さんは去年も連れて行ってもらえなかったとぼやいていたのですよ」
「はあ?」
拍子抜けしてしまう倫子と真理沙です。
(樹里さん、驚かさないでよ。それとも、キャビーが勘違いしているの?)
嫌な汗を掻いている倫子です。真理沙は苦笑いしています。
「そ、そんな事、しませんよ。今年は一緒に行こうって話していたんですよ」
言い繕う倫子ですが、
「お二人は嘘を吐いていますね」
心理カウンセラーの資格を持っている樹里は言いました。
「失礼しました」
樹里は笑顔全開で言うと、深々とお辞儀をして、ベビーカーを押して行きました。
(どっちなの、樹里さん?)
不安になる倫子と真理沙です。
一方、不甲斐ない夫の杉下左京は今日も仕事がなくて、事務所でウダウダしていました。
「コーヒー、淹れ直しましょうか?」
無給で働いてくれている斎藤真琴が言うと、
「ああ。でも、そこでグウタラしている女には淹れなくていいよ」
ソファで寛いでいる豚の妖怪を見て言いました。
「シリーズが違うわよ!」
垣根を取っ払いたい地の文に切れる加藤ありさです。
「何でよ、左京。いいじゃん、コーヒーくらい」
ありさは口を尖らせて言いました。全然可愛くないので、やめて欲しいと思う地の文です。
「うっさいわね!」
正直な地の文に理不尽に切れるありさです。
「だったら、掃除くらいしろ! お前も一応所員なんだからな」
左京が言い返した時、スマホが鳴りました。
「はい、杉下左京探偵事務所……」
そこまでよそ行きの声で応じた左京ですが、相手がわかって声のトーンが変わりました。
「何だ、蘭か。何の用だ?」
不機嫌に尋ねる左京ですが、
「何だって!?」
見る見るうちに顔が硬直しました。
「わかった、また連絡をくれ」
左京が通話を終えると、
「何があったんですか、所長?」
淹れ直して来たコーヒーをカップに注ぎながら、真琴が尋ねました。
「先日、市ヶ谷鋭太君を襲撃した二人が、留置場内で死んだそうだ」
左京が言いました。
「ええ!?」
真琴とありさは同時に叫びました。左京は歯軋りしながら、
「警視庁の留置場にいたのに毒殺されたようだ。世界犯罪者連盟の仕業だろうと言ってた」
「ちょっと、やばいんじゃないの?」
ありさはちゃっかりコーヒーのお代わりをもらいながら言いました。
「ああ……」
いつになくシリアスにエンディングを迎えると思う地の文です。