樹里ちゃん、コラボする
御徒町樹里は、居酒屋と喫茶店で働くメイドです。時々デートもしてくれます。
その人気は絶大で、宗教めいた団体ができているほどです。
ある日の事です。
樹里はその日、久しぶりに休暇を取り、幼い妹三人と共に街に買い物に出かけました。
「おう、あんた、あの金持ちんとこのメイドさんやないか? 久しぶりやな」
ド派手な服装の関西弁の女性が、妙に馴れ馴れしく話しかけて来ます。
「あの、どちら様でしょうか?」
樹里は怯える妹達を庇うようにしてその女性に尋ねました。
「ウチや、ウチ。あの金持ちの邸で、除霊を頼まれた八木麗華や」
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じます。麗華はホッとした表情になり、
「やっと思い出してくれたか。それにしてもよう似とるな。まさか、子供ちゃうよな?」
「妹です」
樹里はニコニコしたまま答えます。
「そうか。三つ子か?」
「いえ、年子です」
それにも麗華は驚きました。
「三つ子並みに似とるな」
彼女はマジマジと妹達を見つめます。また妹達が怯え、樹里の後ろに隠れてしまいました。
「何や、恥ずかしがりやな」
プラス思考の麗華は、自分が怖がられているとは思っていません。
「急いどるんで、ほな、またな」
麗華は手を振りながら去って行きました。
樹里達も再び歩き出しました。
しばらく歩いて行くと、
「オンマリシエイソワカ!」
妙なかけ声がしたので、樹里達はそちらを見ました。
若くて奇麗な女性が、烏を相手に叫んでいます。
危ない人かも知れません。烏は女性の叫び声に驚いたのか、逃げて行きます。
「ごめんなさい」
その女性は、樹里達をすり抜けて走り出しました。
「どうしたのでしょう?」
樹里は不思議に思いましたが、また歩き出しました。
「遅いぞ、樹里。何かあったのか?」
あるビルの前で待っていた警視庁の敏腕警部杉下左京が言いました。
「申し訳ありません、杉下さん」
樹里が深々と頭を下げると、妹達も真似をして頭を下げます。
知らない人が見ると、左京がもの凄く悪い人に見えてしまうでしょう。
「あ、いや、そんなに怒っている訳じゃないから。こういうビルの前で、俺みたいなおっさんが一人で立ってると怪しさ満点だからさ」
「杉下さんはおっさんではないですよ」
樹里は笑顔全開で言いました。何故か左京は真っ赤になります。
「そ、そうか。ありがとう」
左京は樹里に囁きます。
「今度は妹達を抜きで買い物しよう」
「どうしてですか?」
本当に不思議そうに尋ねる樹里です。左京は項垂れて、
「いや、いい。また一緒に買い物しよう」
「はい」
樹里は満点笑顔で応じました。
買い物を終えて、樹里達はあるコーヒーショップに立ち寄りました。
有名なお店で、高校生や大学生でごった返しています。
「何だと、ブスがあ!」
「もう一度言ってみなさいよ、チビ!」
高校生らしき男女が、怒鳴りあっています。仲間が二人を止めているようです。
「どこにでもああいうバカ連中はいるもんだな」
左京の覚めた言葉が聞こえました。
「そうなんですか?」
樹里はキョトンとして左京を見ました。
横の席では、
「学園が消滅してしまって、これからどうなるのかしら?」
「取り敢えず、プレハブ校舎で再開するらしいよ」
と、とても深刻な話をする男女がいます。
左京はチラッとその二人を見て、
「あの男、完全に尻に敷かれるタイプだな」
と呟きました。
「ちょっとだけ時間があるから、ここで休憩しましょうよ」
そこに現れたのは、中学生くらいの女の子と、長身の男性です。
「えんこう」でしょうか?
「この事件、想像以上に複雑だよ、茜ちゃん。慎重に動かないとね」
「そうですね、大原さん」
二人きりで話しているのに、相手の名前を言うのは、何かの宣伝でしょうか?
女の子は見かけは中学生ですが、どうやら大人の女性のようです。
「おお!」
急に左京が叫びます。
「あ、あの、中津法子さんですよね? ファンなんです。サイン下さい」
左京は近くに座っていた女子大生四人組に話しかけました。
「あ、あの、私、違いますから」
その女子大生は頑なに否定しました。左京はがっかりして席に戻りました。
「あれ?」
何故か樹里達がいません。身体中から嫌な汗が出る左京です。
「樹里ーッ!」
左京は大慌てで伝票を持ってレジに走り、店員を脅すようにすばやく会計をすませると、外に飛び出して行きました。
「あら?」
そこへ樹里が現れました。彼女は妹達をトイレに連れて行っていたのでした。
「杉下さん、急用ですか?」
首を傾げる樹里でした。
何が言いたかったのかといいますと「樹里より可愛い中津法子」という事です。最近、すっかりご無沙汰してますけど。