樹里ちゃん、有栖川倫子の話を聞く
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
先日、下衆な記事を書かせたら日本一の週刊文鳥が、樹里に不倫をしているのではないかと取材に来ました。
身に覚えがない樹里は、笑顔全開で否定しました。しかし、記者はすでに記事を完成させて印刷に回していました。
五反田氏の愛娘の家庭教師であり、実は世界的大泥棒のドロント一味が機転を利かせて、出版社を五反田グループの傘下に入れてしまうという荒技を使って、不倫記事の報道を食い止めました。
ホッとした地の文です。
しかし、まだ終わっていませんでした。
「またしても、コソ泥一味が邪魔をしましたか」
苦々しそうな顔で言ったのは、世界犯罪者連盟の幹部である野矢亜剛です。
「今回、名前を忘れるようなふざけたことをしたら、貴方も東京湾に沈めるところでしたよ」
フッと笑って悍ましい事を言う野矢亜です。
もう少しで漏らしてしまいそうになった地の文です。
「もう一度、樹里さんに接触しなさい。今度こそ、言い逃れのできない状態で、不倫報道をさせるのですよ」
野矢亜が目が笑っていない笑顔で命じた相手は、何と樹里の中学の同級生である市ヶ谷鋭太でした。
「わかりました」
鋭太は悲しそうに応じました。
(こんな事になるなんて……。樹里ちゃんに迷惑をかけるとわかっていたら、協力しなかったのに)
鋭太は、時給のいいバイトを探していて、知らずに応募し、樹里と会ったのでした。
「もし、貴方が裏切ったりしたら、ご家族がどうなるかわかりませんよ」
野矢亜は目を細めて鋭太を脅迫しました。
「はい」
鋭太は震えるのを堪えて、頷きました。相変わらず酷い事をする野矢亜です。
「ありがとうございました」
樹里はいつものように何事もなく五反田邸に到着しました。
「では、お帰りの時にまた」
敬礼をして立ち去る昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。
普段と違う流れでお話が始まったので、不甲斐ない夫の登場はありません。
「名前くらい言え!」
固有名詞を避けた地の文にどこかで切れる左京です。
「樹里さーん!」
そこへいつものようにスチャラカメイドの目黒弥生が走ってきました。
「違うわよ! スチャラカは律子でしょ!」
シリーズと登場人物を間違えた地の文に切れる弥生です。
「有栖川先生がお話があるそうです」
弥生が言うと、樹里はベビーカーに乗せた三女の乃里に、
「良かったですね、乃里。ドロントさんがお話を聞かせてくれるそうですよ」
何重にもボケをかましてきたので、
「違います! そのお話じゃありません! それと、有栖川先生はドロントではありません!」
弥生は涙ぐんで訂正しました。
「そうなんですか」
それにも関わらず、笑顔全開で応じる樹里です。
(言葉に気をつけないと、樹里ちゃんの途方もないボケに遭ってしまう)
大きな溜息を吐いて思う弥生です。
樹里は乃里に授乳をして、着替えをすませると、倫子がいる部屋へと行きました。
ドアをノックすると、
「どうぞ」
倫子が気取った声で応じました。
「気取ってないわよ!」
揚げ足を取るのが生きがいの地の文に切れる倫子です。
「失礼します」
樹里はドアを開いて部屋の中に入りました。
「お待ちしていました、樹里さん」
そう言ってしまってから、あっとなる倫子です。
「お待たせして申し訳ありません」
樹里は例によって深々とお辞儀をして謝りました。
「と、とにかく、おかけください」
倫子はソファを勧めました。樹里は持ってきた紅茶のカップをテーブルに移しました。
「ありがとうございます」
倫子はお礼を言ってソファに座りました。樹里はそれを見届けてから、向かいに腰を下ろしました。
「実は、驚くべき事がわかりました」
倫子が真剣な表情で告げると、
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。ちょっとだけイラッとする倫子ですが、話を続けました。
「樹里さんの中学時代の同級生の市ヶ谷鋭太さんなのですが、世界犯罪者連盟に雇われて、樹里さんに近づいた事がわかったのです」
倫子はより深刻そうに言いましたが、
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。倫子は顔を引きつらせて、
「ですから、また彼が貴女に近づいてくるかも知れません。気をつけてください」
若い男に目がない倫子は、鋭太と付き合いたいのでそんな事を言いました。
「違うわよ!」
真相を究明したはずの地の文に切れる倫子です。
「先日の週刊文鳥の不倫記事の件にも、市ヶ谷鋭太さんは関係しています」
倫子は悲しそうな顔で続けましたが、
「そうなんですか?」
樹里は笑顔全開で首を傾げて応じました。倫子はイラッとするのを我慢して、
「貴女と食事をしたいと言ったのは、貴女との不倫を疑わせるような状態になるためのものだったのです。彼がまた連絡をしてきたら、必ず私か真理沙か弥生に知らせてください」
「わかりました。ドロントさんか、ヌートさんか、キャビーさんに知らせればいいのですね?」
樹里が笑顔全開でボケまくってきたので、
「そうです……」
否定する事なく、項垂れて応じる倫子です。
(樹里ちゃん、最後に大ボケ……)
ドアで聞き耳を立てていた弥生も項垂れました。
そして、黒川真理沙ことヌートは、左京の事務所に来ていました。
真理沙から事件の全容を知らされた左京は仰天して気絶しました。
「してねえよ!」
真理沙とあんな事やそんな事をしようと思っている左京は、何とか気絶しないで踏ん張りました。
「やめろ!」
深層心理の奥底を暴き出してしまった地の文に切れる左京です。
「わかりました。俺は俺で調査をしてみます」
左京がカッコをつけて言うと、真理沙は、
「いえ、ここから先は私達の領分ですから、杉下さんは関わらないでください」
真顔で拒否しました。
「そうなんですか」
真理沙の真顔があまりにも凛々しかったので、顔を赤らめて樹里の口癖で応じるエロ左京です。
はてさて、如何なる事になりますか。楽しみな地の文です。