表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
474/839

樹里ちゃん、同級生と食事をする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 その樹里の元に、中学の同級生である市ヶ谷鋭太が現れ、樹里に思いの丈を訴えましたが、樹里には通じませんでした。


 それでも諦めきれないのか、鋭太は樹里を食事に誘いました。


 樹里は全く悪気なくそれを了承しましたが、家に帰って、一応夫の杉下左京にその事を告げると、


「決める前に俺に訊かなかった事を言っているんだよ。考えがなさ過ぎだぞ」


 強い口調で樹里を責めました。甲斐性なしのくせに偉そうだと思う地の文です。


「うるせえ!」


 ズバッと本当の事を言っただけの地の文に理不尽に切れる左京です。


 左京に言われた事にショックを受けたのか、樹里は左京の前から姿を消しました。


「樹里!」


 これ以上ないくらいの金づるがいなくなっては大変だと思った左京は、慌てて樹里を探しました。


「金づるだなんて思った事はねえよ!」


 心の内を見抜いた地の文に狼狽えて切れる左京です。


「樹里!」


 あちこちを探しましたが、樹里だけではなく、長女の瑠里も次女の冴里も三女の乃里もいなくなってしまいました。


 どうやら、左京は樹里に愛想を尽かされて捨てられたようです。


 めでたし、めでたし。


「めでたくなんかねえよ!」


 悲しみのあまり、血の涙を流して地の文に切れる左京です。


「樹里ー! 瑠里ー! 冴里ー! 乃里ー!」


 泣きながら叫ぶ左京です。でも、返事はありません。


「ううう……」


 左京はその場にしゃがみ込んでしまいました。


「俺が、俺が悪かったよお……。だから戻ってきてくれよお、樹里、瑠里、冴里、乃里……」


 泣き崩れる左京です。しばらく左京が泣き伏していると、


「どうしたんですか、左京さん?」


 バスローブ姿の樹里がバスタオルに包まれた乃里を抱いて声をかけました。


「樹里ー!」


 喜びのあまり、某○太郎一家のお婆さんのように叫び、樹里の脚に抱きつく左京です。


「どこにも行かないでくれ、樹里。俺は例え樹里が不倫しても、我慢するから」


 意味不明な事を口走り、更に泣く左京です。


「私は不倫なんて絶対にしませんよ。左京さんが不倫をしたとしても」


 樹里が笑顔全開で心臓が止まりそうになるような例えを出してきたので、石化しかける左京です。


「パパ、ないてるの?」


 そこへ同じくバスローブ姿の瑠里と冴里が来ました。


「な、泣いてなんかいないよ」


 慌てて目をこすり、白々しい事を言う元父親です。


「今も父親だよ!」


 未来を予測した地の文に切れる左京です。


「さっきは悪かった、樹里。同級生との食事、行ってきてくれ。瑠里と冴里と乃里の面倒は俺が見るから」


 左京は微笑んで告げました。


「そうなんですか?」


 樹里は左京が何を悪かったと言ったのか、心当たりがないので、首を傾げました。


(ああ、樹里、その仕草、可愛過ぎる!)


 とても三人の子持ちに見えない自分の妻に欲情してしまう変態夫です。


「うるせえよ!」


 事実をありのままに描写した地の文に切れる左京です。


 


 そして、次の日です。樹里は笑顔全開で出勤しました。


 いつものように昭和眼鏡男と愉快な仲間達が役に立たない護衛をしています。


「ううう……」


 セリフがない上に地の文に中傷されて、項垂れながら歩く眼鏡男達です。


「じゃあ、行こうか、瑠里、冴里」


 左京は乃里を乗せたベビーカーを押しながら、保育所へと向かいました。


「のーりたん!」


「のーりたん!」


 乃里が一緒なので、テンションがいつもより高い瑠里と冴里です。


 乃里もお姉ちゃん達がいるのが嬉しいのか、いつもより笑っています。


(今日は頑張るぞ)


 左京は意気込みを見せましたが、出番は終了です。


「何でだよ!?」


 大声で切れる左京ですが、無視する地の文です。


 


 樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「ではお帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去ろうとしましたが、


「帰りは、市ヶ谷さんが迎えに来てくれるので、大丈夫です。申し訳ありません」


 樹里に丁重に断られて、固まってしまう眼鏡男達です。


「樹里さーん!」


 そこへもう一人のメイドの元泥棒が来ました。


「それはやめてって言ってるでしょ!」


 過去をほじくり返すのが大好きな地の文に抗議する目黒弥生です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里はすでに玄関を入り、着替えをすませて庭掃除を始めていました。


(今日は乃里ちゃんがいないから、いつもより早いわね)


 嫌な汗を掻きながら駆け出す弥生です。


 


 そして、その日の仕事は全て終わりました。


 樹里が着替えをすませて、玄関から車寄せに出ると、ちょうど白の軽自動車が入って来ました。


「いいなあ、樹里さん。デートかあ」


 弥生が口を尖らせて言うと、


「デートではありませんよ。食事をするだけです」


 樹里が笑顔全開で完全否定しました。


(じゃあ、樹里ちゃんが考えるデートって、どこからなの?)


 嫌らしい妄想をして、顔を赤らめる弥生です。


「嫌らしい妄想なんかしてないわよ!」


 深層心理を見事に見抜いた地の文に切れる弥生です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里は鋭太の車に乗って、去っていました。項垂れる弥生です。


 


 二人を乗せた軽自動車は、恵比寿にある高級フレンチレストランに着きました。


「さあ、樹里ちゃん」


 素早く助手席側に回り込み、ドアを開いて樹里をエスコートする鋭太です。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で応じ、車を降りました。


「車を駐めて来ますね」


 鋭太は軽自動車を運転して、店の地下にある駐車場に向かいました。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


 店の支配人が不用意な事を言ってしまいました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里が深々と頭を下げたので、


「あ、いえ、そう言うつもりで申し上げたのではありませんので」


 他の客の視線を気にして焦る支配人です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。そこへ鋭太が戻って来て、


「予約した市ヶ谷です」


 すると支配人はチラッと樹里を見てから、


「ようこそおいでくださいました。どうぞ、こちらへ」


 樹里に妙なボケをされない言葉を選んで応じました。


「樹里ちゃん、今日だけは僕の恋人になってくれませんか?」


 鋭太が恥ずかしそうに告げると、


「いいですよ」


 樹里は笑顔全開で承諾しました。左京が聞いたら、血の涙を流しそうです。


 鋭太はスッと樹里の肩を抱き、歩きました。


「あっ!」


 樹里が何かにつまずきました。鋭太が素早く動き、樹里を抱き寄せました。そのせいで二人の顔が急接近しました。


「ご、ごめん、樹里ちゃん」


 樹里の顔を間近で見たせいなのか、鋭太は顔を真っ赤にしました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 二人はコース料理を堪能しました。


「今日はありがとう、樹里ちゃん」


 鋭太が言うと、樹里は、


「こちらこそ、このような素敵なお店でお食事をさせていただいて、ありがとうございました」


 深々と頭を下げました。


「また、誘ってもいいですか?」


 鋭太が緊張した顔で尋ねます。すると樹里は、


「いいですよ」


 左京が聞いたら、そのまま死んでしまうかも知れないような事を言いました。


「ありがとう、樹里ちゃん。また連絡するね」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


「御徒町樹里さん、いい写真が撮れましたよ」


 店の陰で二人を見ているのは、世界犯罪者連盟の、ええと、誰でしたっけ?


「野矢亜剛だよ!」


 地の文の鉄板ボケに激ギレする野矢亜です。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ