樹里ちゃん、中学の同級生と再会する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
ようやく仕事が増え始めた不甲斐ない夫の杉下左京の事務所に、母親を探して欲しいという男性からの依頼がありました。
何と、その男性は樹里の中学時代の同級生で、どうやら樹里にほの字だったらしいとわかり、嫉妬深い左京は、早速その男性の殺害計画を練りました。
「練ってねえよ!」
某サスペンスドラマばりの急展開を考えてみた地の文に切れる左京です。
でも、嫉妬深いのは事実なので、否定しませんでした。
「くうう……」
図星を突かれ、言葉もない程悶絶する左京です。
「そうでしたか。杉下先生の奥様が、樹里さんでしたか」
心なしか、残念そうな市ヶ谷鋭太です。そして、完全にドヤ顔の左京です。
「うるさい!」
心情を正確に表現した地の文に切れる左京です。
「これも何かの縁なのでしょうね。ずっと憧れていた樹里さんのご主人に母を探す依頼をするなんて……」
市ヶ谷は何故か涙ぐんで言いました。
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じてしまう左京です。
(縁なんかねえよ。あってたまるか! 何言ってるんだ、こいつは?)
顔は笑顔にしながら、心の中では市ヶ谷を軽蔑する左京です。今すぐにそれを教えようと思う地の文です。
「やめろ!」
正しい行いをしようとしている地の文に理不尽に切れる左京です。
市ヶ谷は、今現在自分が知っている母親についての情報を左京に話し、できるだけ早く探して欲しいと頼みました。
それなら、もっと優秀な探偵がいくらでもいると思う地の文です。
「黙れ!」
公平な判断を下したはずの地の文に更に切れる左京です。
「よろしくお願いします」
市ヶ谷は最後に深々と頭を下げて帰って行きました。
「難しそうな依頼ですね」
無給で事務員をしてくれている斎藤真琴が、コーヒーカップを片付けながら言いました。
「そうだな。雲を掴むような話だ。果たして、母親が生きているうちに探し出せるかどうか……」
嫉妬のあまり、最初から探すつもりがない左京が、白々しい事を言いました。
「そんな事はない!」
深層心理の奥底まで見抜いた地の文に動揺しながら切れる左京です。
「でも、所長なら、必ず成し遂げられますよ。私、信じていますから」
何故か目を潤ませて左京を見つめる真琴です。
「斎藤さん……」
左京は真琴の涙ぐんだ目に欲情し、押し倒したくなりました。
「ならねえよ!」
更に図星を突かれた左京は、震えながら地の文に切れました。
「すみません、夕べ、遅くまで映画を観ていて、寝不足で」
真琴は欠伸をして謝りました。
「そうなんですか」
またしても樹里の口癖で応じる左京です。
その頃、樹里はもう一人のメイドと庭掃除をすませ、キッチンの洗い物をすませ、二階の掃除に取りかかりました。
「紹介しなさいよ!」
名前を出さないで進行を続ける地の文に切れる目黒弥生ことキャビーです。
「その名前は出さないで!」
過去をほじくり返すのが大好きな地の文に涙ぐんで切れる弥生です。
二人が階段の掃除を終え、ロビーの掃除に取りかかった時、ドアフォンが鳴りました。
「私が出ます」
掃除を少しでもサボりたい弥生が言って、玄関に駆け寄りました。
「そんなつもりはありません!」
真相を言い当てた地の文に切れる弥生です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。
弥生がドアを開くと、そこには市ヶ谷が立っていました。
(あ、イケメン!)
イケメンが三度の飯より大好きな弥生はすぐに惚れてしまいました。
「そ、そんな事、ありません!」
狼狽えながらも地の文に反論する弥生です。ああ、そうですね。市ヶ谷は、どちらかというと、有栖川倫子ことドロントの好みですね。
「ドロントなんて知りません! それに、私は年下は嫌いなのよ!」
以前、平井蘭警部の夫となった平井拓司警部補を本気で落とそうとしたのを忘れている倫子です。
「あれは本気じゃないわよ! ビジネスのためよ!」
鋭い突っ込みをした地の文にオロオロしながら切れる倫子です。
でも、倫子の年だと、年上はほとんど生きていないと思う地の文です。
「私を幾つだと思っているのよ! まだ三十代よ!」
年齢を逆サバ読みした地の文に切れる倫子です。「まだ三十代」と言ってしまうところが悲しいと思う地の文です。
「ううう……」
地の文の的を射た指摘に項垂れてしまう倫子です。
「あの、こちらに御徒町樹里さんがいらっしゃると聞いて、参りました。中学の同級生の市ヶ谷鋭太です」
市ヶ谷が微笑んで告げたので、弥生は頬を赤らめて、
「お待ちください」
黙々と廊下を掃除している樹里を見ました。
「樹里さん、お客様ですよ」
弥生の呼びかけに、樹里はようやく顔を上げて、市ヶ谷を見ました。
「久しぶり、樹里ちゃん。相変わらず、綺麗だね」
市ヶ谷も顔を赤らめて言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じて、近づいてくると、
「どちら様ですか?」
何の悪気もなく、尋ねました。弥生は顔を引きつらせました。
「僕、印象薄かったからね。中学で三年間同じクラスだった、市ヶ谷鋭太だよ」
市ヶ谷は樹里に正対しました。
「そうなんですか」
樹里は更に笑顔全開で応じましたが、思い出してはいないと思う地の文です。
(樹里ちゃん、鋼のメンタルね……)
弥生は苦笑いして思いました。
「ずっと、ずっと好きだったんだ、君の事」
いきなり告白する市ヶ谷です。
(この人も、負けないくらいの鋼メンタルだ!)
市ヶ谷の強さに驚く弥生です。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
まだ続くと思う地の文です。