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樹里ちゃん、左京の両親のために僧侶に読経してもらう

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里は左京の仏壇を買いに出かけ、その店で一番長持ちする仏壇を買いました。


 購入金額を知ったら、左京が驚いて生き返ってしまうと思う地の文です。


「だから、俺の仏壇じゃなくて、俺の両親の仏壇だよ! それに俺はまだ生きている!」


 ちょっとだけ未来の話をした地の文に切れる左京です。みんなみんな生きているんだですね。


「ちょっとだけじゃねえよ! オケラと一緒にするな!」


 地の文の童謡ネタをきちんと拾って突っ込む左京です。


 や◯せ◯かし先生に失礼だと思う地の文です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。


 購入から一週間後の夜、仏壇が届けられました。あまりにもサイズが大きいので、組み立て前の状態で運び込まれました。


 樹里の指示で、仏壇はリヴィングルームの角に組み上げられました。


(怖過ぎて、いくらだったか訊けない)


 負担させられては堪らないと思った左京は何も尋ねませんでした。


「そんなつもりはない!」


 痛いところを的確に突いてきた地の文に涙ぐんで切れる左京です。


「大丈夫ですよ、左京さん。支払いはカードですませました」


 全く悪気なく、樹里が左京の心の傷に強烈な香辛料を塗りたくるような事を言いました。


「そうなんですか」


 涙ぐんだまま樹里の口癖で応じる左京です。内心、ホッとしたのはまさしく内緒です。


「だから内緒にしろ!」


 結局全てを白日の下に晒してしまう地の文に切れる左京です。


「せめてこれくらいは用意しないとな」


 左京は、両親の戒名が書かれた位牌を仏壇に置きました。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「そうなんですか」


 樹里と、長女の瑠里、そして次女の冴里が笑顔全開で応じ、仏壇に手を合わせました。


「明日、ご住職においでいただいて、お経をあげていただきますね」


 樹里が笑顔全開で告げたので、左京は目を見開いて、


「え? そうなのか?」


 菩提寺の住職は、昔の左京の様々な悪事を知っているので、樹里とは合わせたくない左京は、嫌な汗をしこたま掻きました。


(なるべく早く帰ってもらおう)


 左京は思いました。


「大丈夫ですよ。お母さんにも来てもらいますし、お姉さんにも来てもらいますから」


 樹里が不思議な事を言ったので、ポカンとしてしまう左京ですが、


「明日から、名古屋に出張ですよね」


 樹里が笑顔全開ですっかり忘れていた事を思い出させてくれたので、


(どうしてそういう時に仕事が入っているんだ、俺ーーー!?)


 タイミングの悪さに絶望しかける左京です。


 


 そして、翌日です。


 後ろ髪を引かれるように左京が名古屋へと向かった後、樹里の母親の由里、姉の璃里、妹の真里、希里、絵里、紅里、瀬里、智里が来ました。璃里は、長女の実里、次女の阿里を連れて来ました。


 そっくりな顔が揃い踏みです。


「樹里姉、久しぶり!」


 来年は年長さんの真里がいいました。


「来年は中学一年生よ!」


 ボケをかました地の文に突っ込む真里です。


「元気でしたか?」


 樹里が笑顔全開で応じました。瑠里は同い年の紅里、瀬里、智里とお喋りをしています。


 冴里は、一歳年上の阿里と嬉しそうに話し出しました。


「わあ、すごいね、これ! いくらしたの、樹里姉?」


 下世話な話が好きな来年は六年生の希里が尋ねました。


「希里!」


 長姉の璃里が希里をたしなめました。


「はあい」


 璃里が怖い希里は大人しく引き下がりました。


「すごいね、樹里! これ、メッキじゃなくて、本物の金箔なんだね!」


 もっと下世話な話が好きな由里が、仏壇を触って言いました。


「お母さん!」


 璃里が目を吊り上げて由里に怒鳴りました。


「へいへい」

 

 苦笑いして、引き下がる由里です。


「そんな事を訊いている暇があったら、テーブルとかソファをどけてください」


 璃里はプリプリしながら言いました。


「はいはい」


 由里は肩をすくめて、テーブルを持ち上げて、ダイニングの方へと運びました。


 小さい妹達も、それぞれ運べるものを手に持ち、リヴィングルームから出しました。


 樹里が、仏壇店でサービスでもらった高級座布団を仏壇の前に敷きました。


 璃里は、樹里があらかじめ購入して来たお供え物を小さなテーブルを仏壇の前に置き、並べます。


 お餅、お赤飯、乾燥昆布やわかめなどの海の幸、乾燥椎茸や栗などの山の幸、野菜や果物などの里の幸などが並べられました。


「へえ、赤いろうそくを使うの?」


 樹里が燭台に立てているのを見て、璃里が言いました。


「仏壇の開眼供養は、慶事だからね。白じゃなくて、赤を供えるんだよ」


 年の功の由里がドヤ顔で言いました。


「うるさいよ!」


 一言余分だった地の文に切れる由里です。


 準備が整った頃、玄関のドアフォンが鳴りました。


「はい」


 樹里がキッチンの受話器で応答しました。


「杉下さんのお宅ですね? 寺の住職を務めています、了寛です」


「本日はありがとうございます」


 樹里はすぐに玄関に向かいました。


 ドアを開くと、正装をすませた菩提寺の住職が立ってました。


「杉下の妻の樹里です。よろしくお願い致します」


 樹里は深々とお辞儀をしました。了寛は微笑んで、


「いやあ、左京の坊主から聞いてはいましたが、それ以上の別嬪さんで、本当にあんな奴には勿体ないですな」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、


「どうぞお上がりください」


 了寛をリヴィングルームに案内しました。


「……」


 了寛は、そこに待っていた樹里そっくりな女性達に驚愕しました。


(皆よく似ていると左京から聞いていたが、まさかここまでとは……)


 嫌な汗が背中を伝い落ちる了寛です。


 そして、供養は滞りなく終わりました。


「ありがとうございました。ささやかですが、お召し上がりください」


 樹里が近所のお寿司屋さんに頼んだ仕出しの弁当を出しました。


「いや、それほど飲める口ではないので」


 由里のお酌を断っていた了寛ですが、しつこい由里に根負けして、ついつい酒が進んでしまいます。


「樹里さん、左京の坊主は根は悪い奴ではないんです。ですから、見捨てないでください」


 最後は泣き上戸になって樹里に懇願する好い人です。


「はい」


 樹里は涙ぐんで応じました。それを見て、璃里と由里ももらい泣きしました。


 左京は本当に幸せ者だと思う地の文です。


 


 めでたし、めでたし。

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